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D.G  作者: チコ=ミスティーズ
第1章 「記憶」
7/23

7話 「緑目」

 リベラに禁句を言われたチコは我慢の限界を超えていた。

貴様だけは許さない!怒りに満ちた彼女の手に力が入る。

鎌を大きく振りかぶってリベラに攻撃を与えようとするも軽く回避された。

だが警戒したのか、チコと距離を取った。

 次に右手を前に突き出して水の魔術を唱える。手の平の前から水の球体が出現し、みるみると大きくなる。

その手を一振りした瞬間。水の球体は鋭い棘に形を素早く変化させた。

アクアニードルという名の術でその名の通り水で出来た鋭い棘を敵に向けて撃つというものだ。

それを何本も生成しては撃ちまくり、リベラに少しでもダメージを負わせようと考えた。

しかしこれも回避され、満足の行く結果には至らなかった。


 フライヤも間を入れずリベラに直接攻撃を入れる。

拳と足を流れるように連鎖を続け、リベラに反撃の余地を与えないようにした。

実力は指揮官というだけあって退けを取らない程だ。

リベラも負けじと反撃を入れる。彼も危うくだが回避をし、再び乱撃を繰り出す。

チコは鎌を持ちながら両手を地面につけ、クラウチングスタートのような姿勢を取った。

その姿にリベラが気づき、フライヤの攻撃の隙を見て距離を取った。


「はぁっ!!」

 力強い声を発しながらチコはリベラに向かって水平に飛びこんだ。

リベラの脇を通って彼女はいつの間にか背後まで移動していた。

瞬斬と呼ばれるもので死神共通の技の一つである。

ただし技を出すのに先ほどのように短時間、無防備となるため使うには仲間のサポートが不可欠になる。

 鎌を持ち直しながらリベラの方へ向きを変えた。よく見るとあと少しのところでガードされていた。

リベラも少し危うい表情を浮かべつつチコに目線を当てていた。

その隙にフライヤが後ろから攻撃を繰り出すも回避される。

瞬斬を受け止めているにも関わらずリベラの動きは未だ衰えを感じない。

チコも負けじと応戦し、2対1の状況をできる限り維持した。

 このままいけばいずれは体力が尽きるはず。

チコはそう考えながらもリベラに攻撃をしかけ、反撃に対してはガードや回避をする。

魔術で牽制しながら、左手に持つ死銃を右に持ち替えて、空弾で攻撃する。

リベラもチコの魔術や弾を回避しつつ、火・水・雷の複属魔法でフライヤに接近も許さなかった。

 飛び交う戦闘の中、フライヤがうまくリベラの傍まで近づき、再び接近戦にもつれ込む。


 誤射する訳にはいかず、チコもある程度距離を詰めて隙あらばサポートに入ろうと準備をする。

連撃を繰り出すフライヤ。その攻撃に一瞬の隙が生じた。

リベラもそれを予測していたのかバリアをまとった右足をフライヤに向けた。

それをもチコは狙っていた。これなら鎌で左足を払える。

一点に集中して姿勢を低くし、鎌の取っ手である棒をリベラの左足に狙いを定める。

 しかし、その一瞬の間にリベラの左手がチコの顔の目の前に現れた。

あまりにも集中しすぎて彼女の上半身まで見えていなかった。

反撃の手段があったことに気付いた頃には遅く、突き出すバリアから光りを放つ。


「残念じゃったな」

 そう言ってバリアの波動でチコを地に叩きつけながら遠くに吹き飛ばした。

鎌と死銃が転がる最中にチコの身体から離れてしまい、鎌は所持者がいないと感知して消えていった。

フライヤもそのまま右足を喰らってしまった。怯む彼の首を右手で掴み取り、上へ移動させた。

宙に浮く形となり、息がしづらくむせるフライヤ。

 ゆっくりと身体を起こしつつ目の前で苦しむフライヤを見たチコは彼の名を叫んだ。

彼も足でリベラに抵抗するもバリアで弾き返される。

バリアのダメージも首を絞められているせいで力が出ず、衝撃で怯ませる事も出来なかった。

 チコも波動のダメージが大きすぎて、全身が一時的に麻痺していた。

立ち上がろうとするも生まれる小鹿のようにふらつき、結局両手を地についてしまった。

 このままじゃフライヤが殺されてしまう。

やめるように声を張り上げてリベラに言うも素直に従うわけもない。

勝利に近い状況にリベラは満足げな笑みを浮かべる。


「そろそろ頃合いじゃ。死ねぇ!フライヤァッ!」

 左手も彼の首を絞めに入った時、彼の全身に電流が走る。

痛みに声を上げる彼にチコは再び彼の名前を叫んだ。

麻痺する身体を無理やり動かそうともがくもいうことを聞いてくれない。

痛みに耐える彼を見る最中、脳裏に過去の惨劇が蘇る。

死んだ彼を横に揺さぶりながら泣き叫んだあの頃を。

もう二度と失いたくない。二度と死なせてなるものか。そして、私の生きる世界から消えて欲しくない。


 生前の思い出はまたしても蘇る。

学校の勉強会、部活で彼の帰りを待つ夕暮れ時、

男友達と遊ぶと嘘をついて一人暮らしをしていた私の部屋で遊んだあの日。

本当に彼と一緒にいる時が何よりも楽しくて、嬉しくて、幸せだった。

でもまたあの女のせいで何もかも奪われるの?

そんなの嫌だ。絶対に嫌だ。

「やめろおぉぉぉおおっっ!!」

 心の底から雄叫びの如く言い放つチコ。

彼の首を掴むリベラは高笑いしながら電流を彼に流し続ける。

その顔を怒りに満ちた目で睨みつけるチコ。彼の悲痛な声が徐々に弱弱しくなっていく。

このままじゃ死んでしまう…!!嫌だ!!


 一瞬、人間の姿をした彼が私に優しく声を掛けてくれたのを思い出した。


【チコ。一緒に帰るぞ】


「フラァァァァァアアッッ!!」

 名前を叫んだ瞬間、何か異変を感じた。彼女からとてつもない波動が広がった。

リベラの両手からフライヤが解放される。リベラは額を押さえながらもチコの方へ目線を向ける。


「ハァ…ハァ…」

 荒い呼吸をしながらうつむくような姿勢でリベラの方を向く彼女。見るからに様子が変だ。

ゆっくりと前に進むチコ。身体はふらつき今にも倒れそうにも見えた。

リベラはすかさず魔法で攻撃を仕掛けるも軌道も見ずに軽々と避ける。無駄な動きが一切ない。

何発撃ち込んでも慌てる気配は一切なかった。彼女はその様子に何かを察知して言葉を漏らす。


「まさか…」

 その言葉を言うや否や、チコが今までにないスピードでリベラの前に現れた。

驚きを隠せないリベラ。

無理もない、彼女でさえも予測が出来ない程、目に見えないスピードだった。

それに、チコの目の膜が白ではなく緑に変色していたのだから。

 右手を握ってリベラの顔面に向かってパンチを繰り出そうとした。

すぐにガードを構えて万全を期すリベラ。

しかし、バリアはいとも簡単に割れ、そのままリベラの顔面にクリーンヒットした。

そのまま端の壁にまで飛ばされて、激突した。

 レンガの壁も亀裂が入り、ちょっとしたレンガの破片がリベラの周りに散乱した。

杖で身体を起こすもののさすがにダメージがデカかったようだ。

ゆっくりと身体を起こしながらリベラは杖を構えた。

未だに荒い呼吸でリベラを睨みつけるチコ。そんな彼女がついに口を動かした。


「フラヲ…傷付ケルナラ……」


「……」

 チコの面影が多少なりとも感じ取れる声でもあった。

ただ、今の状況で彼女はそんなことどうでもよかった。

息をのみ込むリベラ。それぐらいに今の彼女の力は計り知れない。

これが彼女の望んだ、チコの未知なる力なのだ。


「潰スマデッ!!」

 彼女の姿がスッと空気が擦れるような音と同時に消えた。リベラはとっさに左へ回避した。

回避の最中、真横でガザッという音がした。片膝を地につけ、先ほどリベラが立って居た方を見返した。

時すでに鎌の刃が壁に突き刺さっていた。

それだけでなく、今まで両手で扱っていた鎌を片手で抜き取っているではないか。

 リベラはすぐにチコから距離を取る。彼女の額からは不意にも冷や汗が零れ落ちるのが見える。


 彼女の目の色、類まれなる狂人的な力。肉眼では到底把握出来ないであろう瞬発力。

何かを思い出したかのような顔でリベラの口からある言葉が漏れた。


「あれが…緑目りょくもくの番人…」


 片手で鎌を持つ彼女の眼光には、殺意という言葉で全てが収まるほど満ちあふれていた。

この力を得る事がリベラの目的。再び魔法で抵抗するも全て弾いて行く。

無意味だということは自分自身でも理解していたようだ。




 一方、一つ下の階では戦いはすでに終わっており、偵察班のグループがようやく、引継ぎに訪れた。


「シエラ会長、ただいま参りました」


「ご苦労。すまぬがこいつらを頼んだ」

 偵察班のリーダーが彼女の命令に従い返事をした後、シエラ達に脱出用の装置を手渡した。

別れの挨拶にご武運をと告げた後、部下たちと共に二人を連れて、

窓ガラスから専用の装置を使って要塞を脱出した。

 ようやく手間のかかる二人を引き継げたベールとシエラは急いでチコ達の元へと向かう。

彼女がとんでもない状態になっていることも知らずに。


 階段を昇る間、地響きが鳴った。実は引き継ぐ前かこの地響きが時折鳴っていた。

最初は上でチコ達が激闘を繰り広げているものだと思っていた。

しかし時間が進むにつれ、振動が下から上に来ている気がしてきたのだ。


「なんだと思います?この地響き」

 ベールが冷静にも少し不安そうな口調でシエラに尋ねる。

目線を合わせず、階段を昇りながらベールの問いかけに答えた。


「わらわにも分からん。じゃが用心した方が良いな」

 階段を昇りきるも目の前の扉は硬く閉ざされていた。

シエラとベールが扉に身体をぶつけてこじ開けようとした。

ぶつかる時、若干ではあるが扉と扉の間に隙間ができる。

どうやら鍵をかけているわけではなく、魔法か何かで一時的に締まっているだけのようだ。

「下がっておれ」

 そう言ってシエラは鎖双剣を呼びだして、両開きの扉の左右に1本ずつ剣を突き刺した。

鎖を引っ張るように後ろに下がり、扉はこちら側にちょっとずつ開いた。

そして、ジャンプすると同時に鎖を強く引いた。

するとそれに反応して今度は鎖がシエラを引っ張り出した。

 彼女の双剣には斬るためだけでなく、ゴムのような性質に変化する能力を持っており、

締まる扉を強引に開けるために使える。

勢いよく両足で扉を開けて、ベールもその部屋に入った。

 目の前にはリベラが杖を持ちながら突撃してきた二人を見て驚いていた。

さらに奥にはチコが鎌を持って立っていた。

すぐにチコの異変に気付いた二人は彼女の名前を呼ぶ。


「チコさん?!」

「チコッ!一体どういうことじゃ?」


 二人の声にチコは無言のままこちらに歩き始めた。


「援護に来たぞチコ!さっさと済ませ――」


「要ラナイッ!!」

 会長でも関わらず、攻撃的な返答をするチコ。さすがの威圧にシエラも返すことが出来なかった。

これは私とフライヤ、そしてリベラ(この女)の問題。割り込む訳にはいかない。

電流によって倒れ込んでいる彼の姿を見て、チコはシエラとベールに彼を安全な場所に運ぶ様、指示した。

 ベールがチコに気を使って応戦しようと声を掛けるもチコは彼女を睨みつける。

その眼光に少し恐怖心を抱いた。

シエラがベールの背中に手をやった。それに気づいたベールがシエラの方を向いた。

彼女の指示に従うようにすべきだと顔でジェスチャーした。

 二人がフライヤの傍に移動し、ベールが肩を背負い、シエラが背中でフライヤの身体を支えた。

おそらくリベラは妨害したいところなのだろうがそうすれば確実に私からダメージを喰らう。

そう思っているだろう。

それにしても、リベラの顔を見るからに諦めのついた顔ではない。何故だ?

さっきから地響きがする。


 フライヤを部屋から出る際、ベールがチコに約束した。


「負けないでください!!」

 そう言ってフライヤを支える体勢を直して、階段を降り始めた。

負けるつもりなど毛頭ない。たとえ、彼女になんらかの策があろうとも。

決して負けるわけにはいかない。

【必ず護る。あの頃のままじゃなく、今度は私がフライヤを護る番だ】と。

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