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D.G  作者: チコ=ミスティーズ
第1章 「記憶」
6/23

6話 「決戦」

 お互いの記憶を取り戻した二人はシエラ達の援護の中、最上階のリベラが待つ部屋へ向かっていた。

フライヤは横目でチコの服装を見つめる。


「それにしてもチコ。なんて格好してるんだ?」

 その問いにチコは遠回しに過去の話を持ち掛けた。


「フラが死んだ後、私も追うように自分の部屋で首を吊ったの」

 その返答にフライヤは静かに驚いて足を止めてしまった。

本当なのかと聞き返す彼にチコも足を止めてフライヤの顔を見ながら頷いた。




 今だから言える事なのだが生前の過ちを後悔しながらある程度学校生活を送ってはいたものの、

彼のいない生活など日を重ねるごとに無意味だと感じる事が強くなっていった。

 慰める友達はその時はいたがある日、

「彼女がフライヤを殺めたのではないか?」と疑う生徒も出始め、

残酷にもその噂は広まり、友達と会話する機会は減り、最終的には0になっていった。

惨劇は続き、クラスメイトの横を通れば陰口を言われ、嫌でも耳を傾け、その言葉を聞いてしまう。

精神的にもボロボロになり、彼女は学校へ行かなくなった。


「フラと関わらなければ…こんなことにならなかったのょ…」

 元をたどれば自分があの時、ぶつからなければ。

あの時、パンケーキを作ってあげなければ。

喧嘩なんて言わなければ。わがままなんて言わなければ。

 考えれば考えるだけ自分を責める事ばかりで、

自分のベッドにもたれながら髪を乱れるようにかきむしった。

何もかも自分が招いた事。どうあがいたって言い訳にしかならない。

 ふとチコは虚ろな目のまま何かを考え付いた。死という言葉だった。

自殺が彼に対しての償いと悟った自分は首を吊る事を決心したのだ。

あの時の記憶もはっきりと思い出している。

首に縄が締まるのを感じ、目から何か出ている。

涙のわりには生暖かく、不意に縄をつかむ手に付着して見たときは一瞬驚きを隠せなかった。

「血」だ…。目から血が出ていたのだ。

 死を覚悟したはずなのに身体はいまだに抵抗を続ける。

彼女の意志ではない。無意識で痙攣しているのだ。

徐々に痛覚が無くなり、チコは泡を吐き出しながらこの世を去った。




 彼女の話にフライヤは言葉を失った。チコは拳を強く握る。

チコにかける言葉が見つからない。一生懸命考えたが出てこなかった。

俺が死んだせいでチコの人生も滅茶苦茶になったのか。


「フラは?」


「っ!俺…?」


「そう。死ぬ直前、誰かに襲われたってことでしょ?やっぱり、リベラなの?」


 フライヤは死ぬ時の出来事を思い出そうとするがあいにく急な話だったため、

相手の顔を見ることも無かったのだ。

気がつけば目の前に彼女がいたという感覚だった。


「そっか…狼男になってからフラはフラじゃなかったんだもんね…」


「あぁ…悪ぃ…」


「いいの!今こうしてフラに出会えた…私はそれだけでいい…。

 でも、こうなった原因だけは知りたい」


 その言葉にフライヤは頷いてチコの手を握る。それに彼女は顔を赤くする。

やはりあの頃から変わっていない。彼に触れると心が揺れる。

でもそれがいつ、また失うのかわからない。

だから私はフライヤに誓う。


「フラ…」

 呼ばれた彼はチコの目を見る。フライヤの手を握りしめて彼女は言い放った。


「今度は絶対に…離さない。あの時のように」

 生前の救急隊に引き離されたあの日の事を思い出しながら。

フライヤは強く返事をした。

二人は再び、待ち受ける主リベラの元へと続く階段を上り始めた。




 その頃、ベール達はジャックとメリダと交戦を始めていた。

ベールはメリダと、シエラはジャックと怠慢同士で繰り広げていた。

銃を乱射するメリダにベールは回避し続け、反撃の機会を待った。

 ベールは壁を利用して彼女の懐に入り込むものの、

距離を離され、一向にダメージを与えることが出来ずにいた。

メリダに茶化されるも一切応じずナイフで攻撃を繰り出す。

このままでは追い込まれるだけと分かってはいるものの、

彼女もチャンスを作らせまいとガードをお留守にすることはしなかった。


 シエラとジャックも同様に攻撃と回避を繰り返し、お互いダメージは負っていない状況。

直接手に持たず、動きで操る鎖双剣でジャックに攻撃を仕掛ける。

仕込み刀で剣を弾き返しながらシエラに接近し、反撃をするもシエラも回避を行い距離を取った。

 ベールと攻撃スタイルは逆に近い状況だがこちらは相手が男ということもあり、

体力で押し負けている感じが否めない。

二人ともどちらかというと押し負けている状態だ。


 メリダの猛攻にベールは時折、右手を地面に押し当てるように態勢を立て直しながら回避する。

だが反撃を入れるも距離を取られる。

シエラもジャックに攻撃を続け、一時でも1対2の状況を作らせまいとした。


「いい加減諦めな!この金髪女っ!」


 そんな言葉を吐きかけられてもベールは諦めずに反撃を行う。

右手を地につけ、飛び込んで鎌を振るう。シエラもその様子を時折見ていた。

そんな彼女にジャックは隙あらばと刀を振るわせ、シエラは剣を直接持って刀をガードし、

鍔迫り合い(つばぜりあい)が始まった。


「そんな余裕が今の君にあるのかい?」


 押されかけるもシエラは振り払ってジャックから再び距離を取る。

うんざりした表情でジャックは構えを取る。シエラも負けじと双剣を構える。

突然シエラが右手に持つ剣を力強く握って術を唱える。


「フレイムレイジ!」

 剣の刃が炎に包まれ、シエラはそのままジャックに攻撃を仕掛ける。

いつも通りにガードされるがさっきより衝撃が強かった。

少し予想外だったのか驚いた顔を一瞬し、すぐにシエラから離れた。

そう、己の武器に力を加え、より強い衝撃を与える事が出来るのがフレイムレイジだ。


「気づいておるか?おぬしの刀」

 その言葉にジャックは自身の刀に目をやった。なんと一部の刃がかけているではないか。

そう、シエラは最初から本気で戦ってなどいなかったのだ。

いままでの攻撃も弾くたびに刃に亀裂を入れておき、

フレイムレイジの一撃でそれを肉眼でもわかるように剥がれ落としたのだ。

 ジャックの足元には欠けた刃が光によってチラついていた。

怒りを露わにする彼に彼女はさらに言葉を投げる。


「そこの女にも注意させるべきじゃぞ」

 シエラの忠告に不思議そうな顔を見せる。不敵な笑みを浮かべながらジャックに言い放った。


「お前らの足元はベール(こやつ)の術の渦中じゃぞ?」

 そう言うとジャックとメリダの周りから黒いオーラが真上に甲を描くように湧き上がる。

同時にジャックとメリダは何かに押し付けられるように体が重くなっていく。

苦言を呈するメリダ。耐える声を漏らすジャック。


「レイズグラビティ」

 ベールがその術の名を発した。

彼女も最初からメリダに遅れを取っていたわけではなかった。

右手を地面につけていたのは術のマークを設置するためだったのだ。

それを察知されないためにシエラはジャックを妨害していたのだ。

 こうなった以上、自力で脱出することはほぼ不可能。

少し重力で体力を削らせた後、シエラが鎖双剣で二人の体を縛りつけて攻撃できないようにした。

それでもなお、罵倒しながらももがき続けるメリダに「やかましいわ!」とシエラが一蹴り入れる。

禁句であるチビと罵倒された事に腹を立てるシエラがメリダに再び蹴りを入れる。

そんな中、ベールがジャックに尋問を開始した。


「あなた方はこの要塞で何を企んでいるの?」


「話すつもりはありませんよ」

 断固拒否の意を示す彼にベールはナイフで首にかすり傷を入れる。


「話さなければどうなるか…わかりますよね?」

 微笑みながら問いかける彼女。どことなく見え隠れする強烈な負のオーラにジャックのみならず、

メリダもシエラも減らない口を閉ざした。

分からない。今彼女に刃向えばまともな殺され方をしないと確信に近い何かを感じた。


 どうやら、二人はリベラに雇われただけの用心棒の様だ。

少なくてもこの要塞にいるオークやゴブリン達もこれまで街を襲撃したりはしていないようだ。

確かに街の人からは「ここ数年平和だ」とも言われていたのを思い出した。

それにしても目的は一体なんなのか。それを尋ねるも二人共知らないの一点張りだった。

その言葉に嘘の意志はないみたいだ。

 ますます謎が深まるばかりだ。あの日記といい、チコに何を求めている?

手渡した日記とは別の紙をベールのバッグから取り出し、再確認した。


【私の考えが正しければ、彼の魂を奪うしかない】


 この意味は一体なんなのか…会長もその意図は分からないと言う。

ひとまずベールは携帯を取り出し、レイチェルに電話をした。

偵察班にこの世界の刑務所に収容の連絡を入れるよう手配した。

逃亡されるのも困るため、偵察班か刑務所の係員が来るまでシエラと共に見張る事にした。

 ベールは先ほどのチコの顔を思い出した。

出会った頃から今までに見た事無いくらい、活気に満ち溢れていた気がしたのだ。

大切な何かに出会えたのだろうか。二人が上っていった階段を見つめながらベールは心の中で呟いた。




 ベール達の戦いが始まって数分経っていた頃までさかのぼり、チコとフライヤはついに扉の前まで辿りついた。

フライヤが扉を蹴り開け、二人はすぐに部屋に入った。

鎌を取り出したチコがリベラの名を叫ぶ。

リベラは目の前で左ひじを椅子の手すりに乗せて、その握った手で顔を支えていた。

退屈そうな彼女の姿と余裕っぷりな顔を見てにチコは怒りをにじませながら言葉をぶつける。


「リベラ…!あなたがフラを…?」

 その問いかけにリベラは顔を支える手を左手に変えながら答える。


「…いかにも、貴様の愛人を殺したのは、私だっ」

 その言葉にチコはカッと感情を高ぶらせ、鎌を構えてリベラに攻撃を仕掛ける。

彼女のスピードは今までよりも早く感じた。それほど彼に対する思いが強いのだ。

それをリベラは左手に持っていた黒い杖でバリアを張ってガードした。

バリアのせいでびくともしない。力を入れるも一行に押し込む気配も感じない。

 リベラ(こいつ)のせいで愛人の人生を滅茶苦茶にされた。許さない。

そう思えば思うほどさらに鎌を持つ手に力が入る。

リベラはそんな彼女に向かって鼻で笑い、チコを軽く弾き返した。

吹き飛ばされたチコは放物線を描き、背中から地面に打ち付けられ、二回転程した後、態勢を立て直した。

 強いっ。ガードされただけでも彼女の強さは分かった。ただものじゃない。

今度は死銃で空弾を発砲するもリベラは再びバリアを出し、動かしながら弾をガードした。

ましてや椅子から立ち上がり、地へと続くちょっとした階段を下りながら。

フライヤも爪で応戦し、リベラに接近し脇腹に向かって攻撃を仕掛けるも、

振り払うかの如くバリアで右手を弾かれ、そのまま左手にバリアを形成し、フライヤの腹部に一発かました。

声も漏らし、腹を押さえるフライヤに右足で追撃を喰らわせ、元居た位置まで吹き飛ばした。


 強者を見せつけるリベラは両手を広げて自身の名をかたり始める。


「わらわはリベラ=レクイエム。この地の支配のために生まれ、我がためだけの世界を構成する者」

 そう言い放った後、チコの方へ視線を向いて言葉を続ける。


「わらわの日記を持って居るのだろう?」

 どうやら何もかもお見通しのようだ。チコは怒りの表情を浮かべながらもリベラに質問を投げる。


「この日記に書いてある、”未知なる力”って何なの?」

 その問いかけにリベラは素直に応じるとは思わなかった。

それは貴様の持つ諸刃の剣だ。やはりまともな回答は得られなかった。

予想はしててもやはり腹立たしい。チコの怒りは余計にこみ上げる。

リベラはチコを怒りに満たすのが面白いと言わんばかりに挑発を繰り返す。


「貴様には力がない。結局、貴様は何を得てきた?」

 その言葉にフライヤは耳を貸すなとチコに注意を促す。

確かに彼の言うとおりだ。このまま挑発に乗るわけにはいかない。

これはきっとリベラの策なのだ。罠なのだと。

冷静になりながらも死銃を持つ手の力を緩めていく。

そんな中、彼女にとって一番言われたくない言葉をリベラは口にした。


「貴様は何も護れない。”老いぼれなフライヤも護れない”」


「っ!!」

 彼の名を口にした挙句、愛する者を侮辱する発言にチコの心は再び怒りと憎しみに満ちた。

フライヤをけなすようならば、お前を絶対に許しはしない!

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