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D.G  作者: チコ=ミスティーズ
第1章 「記憶」
3/23

3話 「探索」

 夕食を済ませた二人は一旦部屋に戻り、

チコは椅子に座ってリラックス、ベールは読みかけの本を読み始めた。

 それにしても先ほどの頭痛は何だったのだろう。

いつものとは違う、一瞬にして激痛が走る感じだった。

そして誰かに見られていたような気もした。


「ベールちゃん、少し街中を歩いてくるよ」


 そう言ってチコはベールに送られながらも一人でアクアリースの街を歩くことにした。

水の都という名もあってか、噴水があり、これまた美しさが際立つデザインをしていた。

もはや夜だというのに街の中は親子連れやカップルが多く見受けられる。

死界と同じく賑わいを感じさせる光景だ。


 少し商店街から外れた道を歩くことにしたチコ。穴場のお店があるかもしれない。

観光がてらに調べておこうと考えたのだ。

 死界の住民はプライベートで異世界を観光することが月に1度許されている。

死神はこのシステムがより優遇されており、月に3回となっている。

ましてや討伐任務の帰りにちょっとした観光も出来る。

ノルマの達成と問題を起こしさえしなければ特に注意されることもない。

 探索している中、チコの視界にアクセサリー屋が入った。

メダルのような円盤がついたネックレスがデザイン別に並べられている。

どうやら御当地メダルのようでこの街以外にも街にちなんだご当地デザインのネックレスがあるらしい。

次に訪れた時は購入しようか検討することにした。


 チコがお店から出た時、またあの頭痛が襲ってきた。

スタッフが気を使って声をかけたが「大丈夫」と言葉を返した。

さっきから何なのか、チコはとっさに辺りを見まわした。

 すると怪しい影がその場から去るのを見つけた。

考える暇などない。チコは痛みを堪えながらもその後を追った。


 敵はレイスでない以上、気を掴み取る事が出来ない。

自力で影を捉えて追うしかない。

 奴が何者なのかは分からない。でも奴が私を狙っていることは間違いない。

そんな危険な状態をパートナーまで巻き込んで休暇など取るわけにはいかない。

しかし、頭痛のせいで注意力が散漫している。

意識が痛みに傾いた時。敵がこちらに近づいてくるのを待機していることに気づくのが遅れてしまった。


「はっ!」

 チコは立ったまま男の両腕で体を抑えられてしまい、間もなく布のようなものを口元に押さえつけられた。

衝撃で呼吸をしたが故、睡眠薬の放つ気体が鼻に入ってしまった。

殺されようが少しでも情報を得ようと男の顔付きを見た。狼男というべきだろうか。

口は犬のような形をしていて青と白の毛をしていた。

 服装はほとんどローブをまとっていたせいでまともな情報は得られなかった。

人間ではないのは確かだ。

 そうこうしてる内に意識がどんどん無くなり、最後には眠りについてしまった。




~1年前~


 ネアが最初に案内されたのは集合マンションの内の一つだった。

5階建ての石レンガ製の建物。見る限り汚れている感じはなかった。

「ここがお二方の住む部屋でございます」

 部屋の中も思っていたより綺麗でネアの案内では3か月は家賃不要とのこと。

ただし、不要が存在する以上はこの世界でも働くというアクティビティが必要ということだ。

チコはそれについて質問するとネアはパンフレットを取り出してある職業のご案内を始めた。


「ただいま、死界ではこの世界限定の職業、”死神”のメンバーを募集しております!」

 二人が口をそろえて死神の単語を返す。ネアが懇切丁寧に死神について説明をする。


「現世にはびこる悪霊を討伐する。それが死神のお仕事です。もちろん戦闘研修も完備しております!」

 討伐、戦闘の言葉にチコは不安になった。つまり、痛みを伴う訳である。

はたしてこれは女性に対して話題に出す職業なのだろうか。

少しばかり考えはしたがやはり死神とは別の仕事を選ぼうと思っていた。

しかし、


「あの…私、死神っていうのになってみたいです」

 まさかのベールが死神を希望したのだ。こうなった以上、私は結構ですなんて断りにくい。

己の性格を当時は憎んだが今となっては感謝をしている。

 死神になっていなければここまで充実した生活は送れていなかったのだろう。

ましてはこの充実さは発展途上だと言う。実績を積めばさらなる高みに至る。

それに会長との縁も深めなかったであろう。


「お二方っ!ありがとうございます!

 死神依頼所のレイチェルへ、手続きに必要な書類の発行を伝達しておきます!」


 そういえばあの時のベールを思い出した。確か、嬉しそうな顔をしていた気がした。

過去に誰もがなれるはずのない職業でこれからの出来事も想像できない職業なのに、

あの時は明るかった気がする。




「はっ!」

 チコが目を覚ますとそこは薄暗く、少し悪臭漂う牢屋の一室に居た。

鉄格子の隙間から外の様子を伺った。どうやらいるのは見張り役の亜人が一人いるぐらいだ。

 緑の肌にメタボな体格、おそらくオークと呼ばれる生き物だろう。

牢屋の周りを見るとどうやら持ち物のバッグは没収されているようだ。

チコは手首にある小さな玉が一つずつ付けられた革製のブレスレットに目をやった。

これは鎌を召喚する際に必要なアクセサリーでこれがなければ鎌を扱う事が出来ない。

どうやらこれは武器だとは思わず没収はしなかったようだ。


 チコは鉄格子を何度も蹴って音を鳴らした。

見張りのオークは怒号を上げながらチコのいる一室の前に移動した。

今だ。両手を鉄格子から出し、

その瞬間に鎌を呼び出し、オークの首をひっかけて鉄格子に頭を強くぶつけさせた。

石頭ではないようで、そのまま見張りのオークは気を失ってしまった。

 首にかけていた牢屋の鍵を盗み、チコは牢屋から脱出することに成功した。


 見張りの机に何やら手帳が置いてあったがオーク達が使う文字で書かれており、

解読することはできなかった。というよりも走り書きに近い、チコはちょっと愚痴をこぼしながらも、

ゆっくりと通路に続く扉を開け、巡回の敵がいないかを確認した。


 それにしてもどうして狼男はあの時点で私を殺めなかったのか。

そもそも拉致するのが目的で私から何を聞き出すつもりだったのか。

謎が浮かぶばかりで解明に至る気配はなかった。

ただ確実なのは狼男がいない間は頭痛が起こらないことだ。

逆に考えれば頭痛が起これば奴がいるということ。

それにここにいる理由も奴の企む計画の目的だ。

しかし手がかりがない以上、手当たり次第部屋に入り情報を得るしかない。

 ある部屋の扉をゆっくり開ける、そこには休憩中だろうかオークが二人。

どうやら会話をしているようだ。積み重なった木箱の裏やテーブルの脇を通り、

置いてあった石のかけらを投げた位置を悟られないように反対側の方へ投げた。

地についた音を聞いたオーク達はそちらに気を向いた瞬間。

チコはまず片方のオークの頭部を鎌の取っ手部分で強打させ、

続けざまにもう片方のオークの腹に蹴りを一発入れた後、

反撃を交わして勢いのまま、鎌で首の裏側を強打して地面にたたきつけた。

 ほぼ通路に音を立てる事なく敵を始末したチコだったがどうやらここにまともな情報はないようだ。

その部屋を出てすぐに近くの部屋に移動した。

敵を排除したり、警戒網から掻い潜ったりとことなかれを続けながら情報を探すも一向に得られる気配はない。

 オークやゴブリンといったモンスターばかりで文字があっても解読できないものばかりだったのだ。


(このままじゃ埒が明かないわ…)

 チコは目的を変えることにした。どうやらここは要塞に近く1つフロアが結構広いことを知った。

ならば上層部があるはずだ。彼女はより上のフロアへ向かうため、階段を探すことにした。

巡回の数がさっきから増えている気がする。さすがに脱走がバレたか。

それにしてはあわただしい感じには見えない。


(もしかしたら…)

 そう思い、忍び足のスピードを早める。

チコの思った通りだった。右側の通路を覗き見ると階段に繋がる道が目の前にあった。

しかし、そこには二人のオークが鎧を身にまとって警戒の目を光らせていた。

このままじゃ通れない。何かいい手はないだろうか。

 考え始めた途端、サイレンが鳴りだした。

気づかれたか。背後を見るも敵がいる気配はない。

モンスターの言葉でしゃべっているため、意味を理解することはできなかったが

異常事態であることは確かだろう。

 どうやら牢屋の異変か、途中の敵達の異常事態を目撃したかのどちらかに陥ったようだ。

階段が見える通路とは別の方向にあったドアから物音がした。

すぐにドアの死角に移動し、突撃していく敵達の視界からなんとか免れた。

勢いよくドア開いたため、勢いで右腕にドアノブが激突した。


「痛ぁ…もっと普通に開けなさぃょ…!」

 聞こえない程小声で文句を吐きながらも再び階段に繋がる通路を見た。

なんとそこに居た鎧のオーク達もどうやら異常のあった現場に向かっていったようだ。

チコにとっては良い意味で予想外の展開だ。今のうちに階段を駆け上がる。


 不意に上がってしまったが上層から降りてくる敵はいなかった。

下層は下層で役割があるのだろうか。そう思えば自然の節理だろう。

といってもいつ上層の敵達が援護に向かってくるかわからない。

すぐにこの階段の通路から離れておくのがいいだろう。

 地上に位置するためか、下層より明かりが強い気がする。ろうそくの火があるため定かではないが。

少し移動してたどり着いた部屋を確認した。

そこには没収されたチコのバッグと死銃のホルスターが無造作に置かれていた。


(敵のだからって…結構お気に入りのバッグなのよ…!)

 そういいながら部屋に侵入してチコのバッグとホルスターを回収した。

バッグの中身を見るからに抜き取られた形跡もない。

没収された時と同じ仕事道具や化粧ポーチなどが入っていた。

気づかれないように先ほどと同じ手口で石を反対側へ投げ飛ばした。

全員がそちらに気を反らしたと思ったチコはすぐに部屋から出ようとした。

 しかし、斧が飛んできて半開きの扉を勢いよく締めた。


「はっ!」


 オークの一人が鼻息荒く身を低くするチコを凝視していた。

直後、オークが大声を発し、ほかのオーク達もチコの存在を把握した。

まずい。4体のオークが武器を手に持ちチコに襲い掛かる。

 こうなった以上はやむを得ない。チコは死銃で一番近いオークの脳天をぶん殴った。

次に集団の二人の片方に向けて死銃をぶつけ、戦闘不能にさせた後、

続けざまに単体に近いオークの懐に入り、相手の攻撃を股下に潜り込んで回避し、鎌の取っ手で足払いをした。

倒れ込んだオークの頭を強打して気を失わせた。

最後の一人も間髪入れず攻撃を繰り出したがサシで負けるような要素はほとんどない。

鎌の先端を腹に撃ち込み、退くオークをそのまま鎌で押し付けて壁に突き飛ばした。

強く打ち付けたオークはわずかな意識で攻撃しようとしたが叶わず、その場に倒れ込んだ。


 無傷ではあるものの少々危うかったのが正直なところだった。

しかし、バッグを取り戻したことで万全な状態となった。死銃もあるため遠距離にも対応できる様にもなった。

 後は狼男を突き止めるだけ。そうなればすぐに部屋を出てさらに上を目指そう。


 ドアを開けて階段を探す事にしたチコだが敵達は彼女がこのフロアに居る事が伝達されていたようだ。

怒号を上げるゴブリン達が救援らしき動作をした後、チコに襲い掛かってくる。

多勢に無勢とは言うものの、今の彼女にとってそれは無縁に近い。

 死銃を取り出して、銃のサイドにある切り替えレバーを下に切り替えた。

空弾モードと呼ばれる状態にしたのだ。

空弾といえど野球ボールが勢いよくぶつかるのと同じ衝撃のため、

並大抵の相手は頭に当たれば気を失う強さだ。

 レイス以外の相手を殺生するのは好みじゃない彼女の優しさか、

死銃を匠に作ってもらう際、この切り替えモードをカスタマイズしてもらったのだ。

 チコの元へ近づく前に一人になってしまったゴブリン。

勝ち目がないでしょと言わんばかりに微笑みかけるチコの背後から今度はオークの群れがお出迎え。


「ねぇ!これ持ってて!!」


 そう言って単身のゴブリンに死銃を投げ渡した。ゴブリンは一瞬これでアイツを撃てばと考えたのだろうか。

安易にその死銃を手に取った。


「言い忘れたけど、それ私のような死神以外が持とうとすると。最悪、骨折れるわよ」

 言い終わる頃にはすでに手に掴む寸前だった。だがゴブリンは前のめりに地面にたたきつけられてしまった。

そう、死神の武器である鎌と飛び道具は同じ職業以外の者が持とうとするととてつもない重みに変化する。

 敵に悪用されないようにするための匠達の製作上必須項目ともいえる工夫だ。

特殊な素材で作られており、その秘密は匠と採掘依頼を任されている死神以外はほとんど知られていない。


 背後から迫るオーク達をチコは鎌を取り出して迎撃する。

鎌の取っ手を地面に突いて敵の攻撃を回避しつつ顔面に蹴りをお見舞いする。

集団の真ん中に入った彼女は右手を顔の前に出してこう言った。

「アクアウォール!」

 言い放った瞬間、チコの周りに水の壁が現れた。彼女の持つ水の魔術の一つだ。

水の壁に入ったあらゆる物の動きを遅くしたり、弾き返す特徴を持つ。

 さらに、術者の攻撃を壁を通して強くする効果もある。

それを利用し、チコは鎌を壁に通すように一回転してその衝撃を強めて敵を吹き飛ばした。

あっという間に片付けるチコの強さを見て、

死銃で身動きが取れないゴブリンが怯えるように佇んでいた。


 言葉や文字を理解できないと言っていたがそれはある特定の行動をしなければならないからだ。

それは相手に触れて霊気を通さなければならない事。

チコは身動きが取れないことを利用して震えるゴブリンの頭に手を乗せた。

「ねぇ、良かったらここの主の名前を教えてもらってもいいかな?」

 そういうとゴブリンは震える口調で喋りだす。

己の霊気を送っているため、今回は自分でもわかる言葉になっている。


「こ…ここのボ、ボスの名前は…リベラ=レクイエム様ってゆ、言うんだ…」


 リベラ…?男がつけそうな名前とは到底思えない。

少し可哀そうだがもう少し聞き出すことにした。


「その人ってもしかして女?」


「そ、そうだ…。魔術の使い手さでこの世界を支配しようと考えている。

 あとウェアウルフのフライヤ様が兵士たちの指揮をしている」


 この名前を聞いたチコは突然、頭痛に襲われた。

殴られたような鈍痛に声を漏らした。チコはゴブリンに礼を言って死銃を手から取ってあげた。

ゴブリンは痛む手を包みながらその場を逃げ去った。


 ゆっくりとだが痛みは和らいでいった。

フライヤ、聞いたことあるような気がする…一体何者なのか。

でも狼男なんて。死界でも亜人が住む事はあるのだがあの色の狼男は今までの記憶にない。

 そして、リベラ。また新しい敵の名前が出てきてしまった。

魔術の使い手と言われる女の存在。世界を支配すると企むほどだ、よほどの力を持っているに違いない。


 侮れない。

 走りながら今後の行動を考える中、バッグに入っていたトランシーバーが鳴りだした。

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