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D.G  作者: チコ=ミスティーズ
第1章 「記憶」
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2話 「遭遇」

 依頼を受け、ポータルの中に入った二人。

その中は無重力のため、飛ぶような形で移動を行う。

数秒経った後、奥からアルカディアの風景が見え始めた。


「あれね」


 チコが鎌を召喚すると、続いてベールも鎌を取り出した。

出た瞬間にレイスに襲われる可能性もゼロではないからだ。

 討伐目標となるレイスだが、中には知性を持ったレイスも存在する。

理性なのかは知らないが攻撃を回避したり、物陰に潜み奇襲をしかける者もいる。

そのための備えである。


 ポータルの輪を抜け、着地と同時に二人は半々に視界を分け、全方位の様子を伺った。

どうやら奇襲はない。ただ武器はしまわず、安全を維持して二人は進むことにした。

 少し歩いた先は崖になっていて、ある程度周辺の風景を見渡せる。

見た限りここが目的地の森のようだ。近くに水の都アクアリースらしき街が見える。

白い建造物と青い橋などが建てられている。


「多分、ここがその森のようね」

 チコがそう言うとベールはナイフを手に取って言葉を返した。


「なるほど…移動の手間は省けたということですね」

 ベールの言う通り、移動の時間はゼロに近い。だがその分戦闘の計画を練る余裕はないということ。

ちなみにポータルがどこに現れるかは操縦士によって変わってくる。

といっても操縦士によれば、座標の方程式は存在しないらしい。

だから経験が深かろうと浅かろうと、目的地がズレる時はズレる。

 最悪な場合はポータル内に存在する乱気流にぶつかってしまうことだ。

そうなってしまえば目的地の世界と違う場所に放り投げられる可能性もある。

そのため、死神専用の伝達用電話機がある。

依頼所の受付嬢に繋がり、救援を呼ぶ事が出来る。


 チコ達が再び歩みを動かす。その時、

ガサガサと右の方から茂みの音が聞こえる。

二人が一斉にそちらを向くも、すぐにベールは奇襲に備えて反対側に警戒を強めた。

 再び別の方向からも茂みの音が鳴る。チコとベールはレイスの気を感じ取ろうとした。

しかし、どうやらこのレイスは群れではなく単体で行動しているようだ。


「妙ね?」


「会長格の依頼にしては…不用心過ぎませんか…?」


 二人は相当な手慣れと想像していたのだがあまりにも音を立て過ぎている。

気が近づいてくると同時に茂みの音も大きくなる。

 来る。そう感じた二人は回避もできるよう武器を構えた。

しかし、出てきたのは小動物だった。


「しまった!」


 気づいて逆側を見た瞬間その目の前には不気味なレイスの姿があった。

その時には鋭い爪を携えた右手がチコに向かって襲い掛かる寸前だった。

 なんとか鎌でガードをするものの、その態勢が悪く、尻もちをついてしまった。

ベールがすぐにナイフを投げ、レイスの左肩に命中させた。恐ろしい形相でベールの方を見る。

木と地面を利用し、ナイフが当てづらいようにベールに接近する。

鎌で攻撃をガードし、反撃を与えようとするも間隔が短すぎてそれどころではない。

 早すぎる…!

 次第にパワーを強めるレイスにベールは負けてしまい、鎌が弾かれ、手から放れてしまった。

守る手段がないベールに無慈悲にレイスは右手で切り裂こうとした。

 だがチコが鎌で右腕を攻撃し、危ういところで妨害が出来た。

レイスは悲鳴を上げる。奴の右腕は地に落ちるもいまだ奇妙に動いていた。

ベールは鎌を呼び戻し、二人は態勢を立て直した。

 敵は四つん這いになって奇声を上げた。

仲間を呼ぼうとたくらんでいる。

 まずいと感じたチコはすぐにレイスに攻撃を仕掛ける。

彼女の攻撃は回避されるが予測してベールがその位置に攻撃を構えていた。

 木の枝を切り落とし、バランスを崩した敵を狙い、

チコは飛び道具の死銃でレイスの脳天に銃弾を撃ち込んだ。

その反動で1回転した敵はもがき始める。

だが奴はまだ抗戦しようと態勢を立て直そうとした。


「終わりにするっ!」


 全速力でレイスの懐に入り、鎌の取っ手部分で殴り飛ばした。

続いてベールがナイフで数回斬った後にそのナイフでレイスを木にひっつけさせた。

ナイフを抜こうとするも深く抉り込んでいる。

時すでに目の前上空からチコが鎌を構えて一直線にレイスに飛び込んでいた。


「決めるっ!」

 チコは鎌で木ごとレイスを真っ二つに斬り、力尽きて消滅していった。

ベールのナイフを手にとり、チコはそれを彼女に返した。

どうやら敵の増援はないようだ。

 任務を終えた二人はトランシーバーで受付嬢レイチェルに連絡を入れる事にした。


「もしもし、チコ=ブリリアントです」


「お疲れ様です。レイチェルです」

 彼女の声は特徴があるため、名前を言われる前に彼女だと分かった。

討伐報告をするとレイチェルがシエラからの伝言で休暇を取るように勧められた。

熱心なコンビは少しためらったが会長の指示であれば拒否をするわけにはいかない。

 ちなみに死神にはノルマがある。討伐実績が月単位で4頭あれば良い。

これはあくまでも最低限のノルマである。

彼女達は半月の時点ですでに10頭近くのレイスを討伐してきている。


 死神らしい黒のゴシックの服を整え、チコはアクアリースへ向かう事をベールに勧めた。

ベールも賛同し、二人で森を抜けることにした。

 レイスが消えた事で動物たちも安泰さを感じているようだ。

小鳥のさえずりも聞こえ、小動物たちも姿を見せ始めている。


 チコは自身の鎌を見ながら口を動かす。


「死神になろうと思ったきっかけって…そういえば決めて無かったな」


「私が死神になりたいって言ったから…って、理由にはならないですよね」


 ベールが微笑みかけながらそう返した。

確かあの時は死神になろうって感覚はほとんどなかったな。


~1年前~


 それはおそらく、私が現世で死んでから、だと思う。

あれ以前の記憶が当時、すべてといっていいほど欠落していた。

死んでいたことさえも忘れていたのだ。

覚えていたのは自身の名前と言葉ぐらいしかなかった。

 目を覚まして体を起こして周りを見渡したらどこもかしこも暗い、というか黒い空間だった。

見えるのは自身の身体ぐらいだった。

首あたりに違和感はあったもののそれよりもここがどこなのかが気になってしょうがなかった。


「すみませーん!誰かいませんかー?」


 大声で呼びかけるも返事もなければ風の音もない。

本当にここはどこなのだろうか。

歩いてみようと足を動かした。その時だった。


「目を覚ましたのですね」


 どこからか女の声がした。誰かと問いかけるとその女性は死者の使いと言い出すではないか。

その名を聞き返すと女は衝撃な言葉を投げた。


「あなたはもう、生きた人間ではありません」


「えっ…」


 驚きを隠せず言葉を失うチコだったが唐突過ぎて信じられるわけもなかった。

憤りをあらわにして女に言葉を返す。

すると目の前に生前と思われる首を吊った自分の姿が写し出された。

確認するやいなやフラッシュライトが彼女に向けられた。


「足元を見なさい」


 女の言われた通りチコは足元を恐る恐る見てみるとなんと影が無くなっているではないか。

信じざるを得ない状況に彼女は困惑した。

理由を尋ねるが女は自分にはわからないと答えた。

 自身はどうして死んだのか、何故死ななければならなかったのか。

考える間もなく左側に白い光が現れた。


「これからあなたは死界と呼ぶ世界で第二の人生を歩むのです」


「死界?」


「その名の通り、死者が住む世界。そこであなたの新たな道を見つけるのです」


 こうなった以上、女性の言葉を疑う余地もない。

チコは死んだ理由を考えながらもその光の元へ足を進めた。


 その先を進むとレンガの道と建物が連なり、ところどころに草木が生える、

なんともロマンチックな景色が広がっていた。

 チコは不思議とほっとした感覚になった。

死の世界は一体どんなところなのだろうかと少しばかり不安があったからだ。

ある者は笑い、ある者は店のうたい文句を轟かせ、ある者は住民達を芸で笑わせていた。

まとめてしまえば想像以上の賑わいを魅せていた。

思わず声をもらす彼女。その後ろからまた一人、また一人と人が現れる。

中には人間とは言えない、亜人と呼ばれる者もいた。

 そんな中から金髪の女性が白い光から現れた。

出た直後につまずき、なんとか耐えるも最終的には床に手をついてしまった。


「大丈夫っ?」

 チコが慌てて女性の体を起こしてあげた。多少痛みを訴えるもチコに感謝を返した。

ベージュ色のローブと髪にはリボンが右側につけられている。

 お互い挨拶を交わすも、どうやら彼女は自身の名前を忘れてしまっていると言うのだ。

気の毒だが自分では彼女がどんな人なのかなど知る由もなく、彼女は少し悲しい表情を浮かべた。

 その二人の前に現れたのは一人の女性だった。

スチュワーデスのようなフォーマルな恰好をしている。


「遅くなりまして、申し訳ございません。わたくし、死界案内人のネアと申します」


「案内人?」


 さっきと同じように言葉を返してしまったがネアは察してくれたのか、気を使った言葉遣いで返してくれた。


「おそらくで恐縮ですが残念ながらお二方が亡くなられたのは事実でございます。

 しかし、この風景を見て多少は安心したかと存じます!」

 ベールはともかく、チコの感情は見抜かれていた。ふと気づいた疑問をネアに投げかける。


「あの…その、死界に来たはいいんですが…これからどうすれば…?」


「心配はございません!今から私が生活から何までご案内いたします!

 一時的ではありますが住む場所も確保しております!」


 住む場所があると言うもののやはり半信半疑になってしまう。ネアは続けて二人の名を尋ねられた。

チコは答えたが彼女は名前を思い出せず次第に暗くなってしまった。

ネアは察して死後の特徴を切り出した。


「死んだ者はほぼすべての記憶が欠落します。お客様のようにお名前を忘れる方も当然いらっしゃいます。

 しかし、この世界でもやはり名前がなくては不便な事が多いと思います。

 よろしければ今ここでお考えになってもよろしいですか?」


 彼女は言われた通り自身の名前を作ることにした。チコは再びネアに質問を出した。


「死の世界ということはここに居る人達は皆さん…」


「はい!チコ様の仰る通りでございます。ここに生きる、といえば語弊がありますが住む人達はみなさん

 生前で亡くなられた方々です。人間はもちろん、動物、ましてや人型の動物、いわゆる亜人と呼ぶ方々も

 ここ死界へたどり着くシステムとなっております」


 深い話に続き、自身とは別の世界で亡くなった者もこの世界に送られるようだ。

どういう形で送られてくるのかはネアも知らないようだが魂か何かがこの世界にたどり着くのだろうと

チコは勝手に解釈した。

 そんなこんなで話してる中、彼女は二人の会話に入り自身の名を提示した。


「死月=ベール」

 彼女がそう言い放つ。チコは死月と聞き返すとベールは由来を答え始めた。


「死界で生まれ、ときは満月」

 確かに上を見上げると満月が輝くように昇っていた。


「ベールは羽衣の意味を取ってつけました。なので私の名前は死月=ベールと申します」


「わかりました!ベール様ですね。それでは住む場所をご案内いたします!」

 そうして、案内人ネアに連れられる形で二人の死界生活が始まった。




「懐かしいですね…結局、いまだに自分の名前を思い出せないままです…」

 手鏡で自身の顔を見ながらベールはそう言った。


「私もここ最近、日に日に何か大切な事を忘れてるような気がしてならない」

 時々脳裏によぎる一瞬の思い出、それは決していいことではないのは気づいているのだが、

忘れられない。それぐらい大切な事なのだろうと自問自答を繰り返してばかりだった。

 気にしても埒が明かない。まもなくアクアリースだ。今日は休暇がてらにこの街を観光することにした。


 時はもう夕暮れ、白い石製のアーチと建築物にオレンジの明かりが照らされ、

よりロマン漂う雰囲気を二人に魅せつける。ひとまず宿屋を探し、チェックインを済ませた。

二人はスタッフに部屋を案内された後、荷物を置いて夕食を取ることにした。

 海鮮料理を食べながら横から港の風景を見る。

まさに水の都と呼ばれるだけあり、海がとても綺麗だ。


「綺麗ですね~」


「そうだね~!それにしても会長はどうして休暇指示なんて出したんだろう?」


 それに対してベールは憶測ではあるものの最近の実績が比較的良好だったからなのではと返した。

確かに事実ではあるが休暇指示を出すほどの事なのだろうかと少し心の中で疑いながらも、

彼女に肯定の意を返した。

 食事をする中、突如チコに頭痛が走る。

食べ物を含んでいたため「んっ」と言いながらも飲み込み、すぐ後ろを向いた。

当たり前だがここにいるのはチコとベール、そして料理人とスタッフだけだ。

ベールは気になって問いかけたが「何でもないみたい」とチコは言葉を返した。


 いまだ気づいていない、彼女のそばに黒い影が忍び込んでいることを。

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