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D.G  作者: チコ=ミスティーズ
第2章 「友達」
19/23

19話 「身分」

 丁寧に食後の挨拶をすると同時に食事を終えたベール。

食器やグラスは周囲に居た召使いによって片付けられて行く。何もしなくていい事にソワソワしながらも召使い達に礼を言う。

テーブルも綺麗に拭かれていき、数十分前のクリーンな状態に戻っていた。

カーラは隣に椅子を持ってくるようにベールへ促し、すぐに彼女はその指示に従った。

移動をした後、カーラはメイド長のロゼッタに視線を向けると、彼女はお辞儀をして「それでは失礼致します」と言い、

他の召使い達も同様の言葉を残して部屋から丁寧に出て行った。


「さて、どうじゃった?うちの召使いの料理は?」

 やはり微笑みながら問いかけるカーラにベールもはにかんで返事をする。


「とても美味しかったです。あの…カーラ様、どうして見ず知らずの私を助けてくれたのですか?」

 単刀直入に1番疑問だと思ったところを真剣な眼差しで突いていった。それでもカーラは笑顔で答えていく。


「私しゃぁ、ただただ孫が欲しかっただけじゃよ…」


「孫…?」

 訳ありだろうか、ついつい言葉を聞き返してしまったベール。すると彼女からとんでもない言葉が返ってきた。


「私の娘は…自殺したんじゃ…」


「っ…!」

 ベールは目と口を開いた。自殺するほど、彼女は何かされたのだろうか。聞こうか迷っていたがカーラから理由を述べ始めた。

5年前、オリヴィアという名前でベールと同じ金髪のロングヘアーをしていたそうだ。

清楚感があり、他人想いな彼女は街では知らない人など存在しないほど認知されていた。

誰にでも笑顔で返し、時にはカップルの崩壊を招く要因にもなることもしばしば。

母親でもあるカーラの屋敷で当時雇われていたメイド長に修行を申し出て鍛え上げていき、

別のお屋敷で独り立ちをしていく。

しかし、ある日。


【いやぁっ!!やめてっ!!】




「…強…姦?」

 衝撃的過ぎてベールは恐くなった。カーラもうつむきつつも過去の出来事を述べる。

買い物に出かけていた所を襲われ、人気の無い路地裏で強姦されたのだ

辛かったと思う、痛みに耐えながらも犯され続けたオリヴィア。

ボロボロになりながらも家に辿り着いた彼女を見たカーラは驚きを隠せず彼女の身体を支える。

抜け殻のように力のないオリヴィアを浴室へ運び込み、シャワーで汚れを取ってあげる。

召使い達も必死に彼女をサポートしてあげるも、心を癒せる事など出来なかった。

 家に居ようが自分の部屋に居ようが頭の中にあの強姦魔の顔を思い出し、そのたび恐怖と不安に苛まれる毎日。

いつどこに居てもおかしくない、泣き喚きながら色んなものを投げつけ、

壁のいたるどころに穴が開いていたり、傷がついていたりしていた。

悲痛な声を聞いたカーラはすぐに部屋の扉を開けてオリヴィアのそばに近づこうとした。

するとそのカーラに向かって彼女は鋭くにらみ付ける。


「来ないでぇえっ!!!はぁ、はぁ…!!」

 もはや人の認識もまともに出来なくなっている程、精神が崩壊していた。

彼女の目に映る物は何もかも、あの男に紐付いていると決め付けているのだ。

それでもカーラは抱きしめようとするが返って逆効果を与えてしまう。

そう、あの時も似たように男に抱きしめられたのだ。

オリヴィアのトラウマを蘇らせる状況を作ってしまう結果となってしまった。

力強くカーラを押し倒し、ベッドの布団を引っ張り出しては部屋の片隅で包まってしまった。

どうしようもなくなったカーラは仕方なく部屋を後にし、オリヴィアの落ち着きが戻るまで召使い達にも最低限、

部屋へ入らないように注意喚起した。

 食事を運んでもほとんど食べず、軽く3日が経過しようとしていた。

いつものようにご飯をカーラ自ら運んでいた。ノックしても返事がないのはあれからいつもの事だったため、

不思議に感じる事はなかった。しかし、部屋に入った目の前の光景にカーラは目を見開いた。

不意に手に持っていたトレイを落としてしまった。無理も無かった。

そこにあったのは首を吊って泡を吹き出しているオリヴィアのより変わり果てた姿だった。

 思わず腰が抜けてしまい、その場にひざをついてしまった。

音を聞きつけてメイド長と召使い達が急ぎ足で駆けつけてきた。


「どうかなさいまし、っ!!?」


「っ!オリヴィア様っ!?」

 さすがの一流召使い達も思わずその面影を捨てて、口を両手で押さえたり、驚きの表情を隠せなかった。

メイド長はすぐご主人様の身体をゆっくりと起こしてあげ、様態の確認をする。


「お怪我は御座いませんか?」


「あぁ…オリヴィア…」

 もつれるように宙に浮くオリヴィアの元へ歩み寄るカーラ。

彼女の名と悲痛な声だけを発しながらようやくたどり着くや否や、膝をついて高々と彼女の手を握り締めた。

当然だが、その手に熱気など一切なかった。見つめる事が出来ない程、無惨な顔をしていた。

もう、戻ってこないと悟った瞬間。目から涙があふれ出てきた。


「あぁぁぁぁああ…!」

 声を押し殺すかのように太めの声も時折出しながら、身体を丸めて泣き喚いた。

メイド長はゆっくりとカーラの身体を抱きしめて気を落ち着かせるように務める。

そして、彼女の耳に囁く。


「ご主人様…、後程、お話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」


「…?えぇ…」

 ひとまず、カーラを部屋から出し、オリヴィアの件は他の召使い達に任せる事にした。

メイド長の今の役目はご主人様の心のケアに徹する事。カーラ様の部屋に連れて行き、椅子に座らせるまでに至った。


「…チェルシー…話とは…」

 カーラがその疑問に対し、彼女は息を呑んだ後、その問いに答えた。


「…私はご主人様に恩を返せる時がついに来たのだと感じています」

 それにカーラは首を傾げてしまう。その意図が見えなかったのだ。

しかし、その意図もすぐに明瞭となった。


「単刀直入に申し上げます。…オリヴィア様の恨みを私が晴らせて行きます」


「…っ!ダメよ!」

 何かを察したカーラは憤りを露わにして声を発した。

チェルシーは自身の尊厳を投げ捨ててまで強姦魔である男を殺そうとしていたのだ。

たとえ忠誠やメイドとしての役目だとしても手を汚す事はカーラのプライドが許さなかった。

だが、チェルシーも引き下がるつもりは毛頭なかったようだ。


「カーラ様、私は今まで貴方様に忠誠を誓ってメイドを務めさせて頂いておりました。

 しかし今、ご家族であるオリヴィア様を地獄へ陥れた者をこのまま野放しになど出来ません」


「そう言ってもチェルシーッ!貴方は人間よ!奴隷ではないのっ!!」


「…カーラ様、私はただオリヴィア様を穢しただけではないと思っています」

 だけではない?その言葉にカーラは不思議な顔をした。チェルシーはカーラに"背中を向けながら"話を続ける。


「何か裏があると踏んでます…、高貴な人をただ欲求だけで汚す程、下劣な真似であまりに品の無い事をするとは思えないのです」

 この街にはスラム街の他に、一般市民ですら特別な理由が無ければ入ることが許されない、

貴族クラスの者のみが入れる場所が存在する。

言われて見れば、オリヴィアが出かけた場所も通った道も全て、高貴な者達だけしか行けないエリアだ。

そんな場所にただただ下劣で卑猥な者が居るとは考えてみれば有り得ない話なのだ。

自分が目の前の悲惨な出来事のせいでまともに考えられてなかったのが伺える。


「何かいい方法があるの…?」


「現状ではまともな考えがありませんが、カーラ様がいつも仰る通行のルートであるなら、

 その周辺で襲われたと考えるのが妥当です」


「まさか手当たり次第に探すというの!?」

 椅子を後ろに倒すまで、カーラは力強く立ち上がりながら言い放った。チェルシーももはや覚悟を決めるかの如く言い返す。


「それしか方法がないのです、カーラ様!」

 真剣な眼差しに言葉を失うカーラ。彼女の瞳はもはや他人事ではないかのようにも見える。

メイドとしての役目という度を越えているはずなのに。


「カーラ様は他のご主人様と違う」


「…?」

 口を小さく開きながらチェルシーを見つめた。


「私や召使い達を駒として扱うわけでなく、家族のように接して頂けるそのお姿。

 本当に嬉しく、尊敬の一心であります。私を含め、メイドの皆もカーラ様、オリヴィア様のことを家族と心の底で想い、

 メイドとしての使命を全うしている所存です」


「チェルシー…」

 彼女の名に反応し、チェルシーは微笑みながらお辞儀をする。


「少しばかり、お時間を下さい。必ず、カーラ様、オリヴィア様の苦痛を拭える結果をお持ち致します」

 そう言ってチェルシーは頭を上げて、いつもどおり退席の挨拶をして部屋を後にしようとした。

カーラはふと悟った、このままチェルシーも消えてしまうのではないかと。


「チェルシー!」

 彼女は振り向いてカーラの言葉に耳を傾ける。


「…必ず帰ってくるのよ」


「……申し訳御座いません、そのお約束は出来かねます。

 ですが、これが私の"最初で最後の否定"として、心に刻んで行く所存です」

 再びお辞儀をして、カーラの部屋を早歩きで出て行った。

あの時、背中を向けていた理由をようやく理解した。


「…メイドとしてではなく、家族として彼女はこの屋敷を出て行くつもりなのね…」




「それから今に至るまで、チェルシーが帰ってくることは無かった…。

 65を超える歳ではあるが、病で後数年生きれるかどうかじゃ」


「御病気…?」


「心臓の病気でのう。まだ余裕はあるのじゃが数年後にはいつ力尽きても可笑しくはないそうじゃ。

 正直言うとな、私のわがままで君を娘にしようとして連れてきたんじゃ」

 その言葉にベールは無言になってしまった。不快とかそういうのではない。

私の生き様なんか遥かに超えるであろう苦痛をカーラさんとオリヴィアさんは味わってきていたのだ。

娘の命を奪われた。それは誰もが自分自身生きてここにいる限り、超えられる事のない苦痛だ。

命の重みを人一倍分かるベールだからこそ理解出来た。そう思う中、カーラがある言葉を発した。


「メリーちゃん、いわば君は私に"拉致"されたようなものじゃ…」


「っ!!」

 それにベールは不思議と憤りを感じた。思わずテーブルを叩いてカーラに向かって怒鳴るように言い返した。


「拉致だなんて言わないで下さいっ!!!」

 その様子にカーラは驚いた。歯を食いしばる仕草も時折見せてカーラの非を打ち消そうと必死になった。


「ひもじい私を助けて貰い、身体も洗って貰って、ふかふかのベッドで寝かせて貰えて、

 …それどころか…美味しい料理までっ…ひぐっ、食べさせて…んっ…貰えて…」

 言えば言うほど涙がこみ上げてくる。今まで優しくされたことなんてほとんど無かったから嬉しさが溢れてきているのだ。

奴隷として扱われてきた人生で、まさかここまで人に支えられる場面に遭遇するなんて一っ欠けらも無かったのだから。

思わずカーラの身体に顔をうずめるように抱きしめた。カーラの服で声を抑えながらも泣き叫ぶベールに、

右手で頭を撫でてあげた。


「うぅっ…うああぁぁぁっ!」

 女性らしい泣き方も分からず、ただただ泣き喚くベールにカーラも抱き返してすすり泣き始める。


「私なんかで…私なんかで良いなら…、カーラさんの家族になりたいですっ」


「メリーちゃん…」

 二人でお互いの涙が枯れるまで、ずっと抱きしめ合っていた。

ベールはここまで優しくしてくれる人がこの世に居る事とその象徴であるカーラに出会えた運命に深く深く感謝し、

カーラは自分のわがままを素直に聞いてくれるベールの優しさに嬉しさを感じていた。

 必ず、カーラさんの心を癒して見せる。ベールは心の底から誓った。必ず悔いのない結末にしようと。

数十分抱きしめ合った後、カーラから今日は睡眠するように促された。彼女は微笑み、子供らしく頷いた。

すぐにカーラは召使いを呼び出し、ベールの就寝用の着替えを用意させた。

その気持ちになる必要はないのだが、やはりさせて貰うという手間に申し訳なさを感じてしまう。

着替えが終わり、礼を言おうとベールがお辞儀をすると、かえって召使いを追い立てるような結果になってしまった。

謝意を述べて、カーラにも深々とお辞儀をしてそのまま部屋を出て行ってしまった。


「あっ…そんな気を負わなくても…」


「ふふふっ、もうメリーちゃんは私の娘同然なのじゃよ」


「それでも…、昨日まで私は奴隷だったんですよ?」

 気が進まない感情でいっぱいだが確かにカーラの言うとおり、今は居候という形の家族。


「それにメリーちゃんが今のように召使いに対しても感謝の意を示してくれる人だということは皆理解しておるのじゃよ」


「はっ…」

 もしかして、さっき慌てて部屋を出て行ったのは、私に謝意を受ける事がおこがましいと思ったから?

カーラは立ちあがってベールの頭を再び撫でてこういった。


「これからも、その心を忘れてはならぬぞ…メリー」


「…はいっ!カーラさん」

 そう返事をするとカーラは今日一番の笑顔を見せて別れを告げた。

ゆっくりとした足取りでおやすみの挨拶をして部屋を出て行った。

ほっと息をついて、ベールはゆっくりと柔らかいベッドへ近づいてそれを見つめる。

これがベッドなのか。別に初めてベッドというもの見た訳ではないが、ここまで立派な作りの物は初めてだった。

前の主のベッドもそれなりに見栄えはあったが削れていたり、朽ちてる部分があった。

それに対してこのベッドは色味も輝きも見て感じられる。頭や足先の部分は木の柵があるがこれもツヤがあり、

いかにも新品のような印象を受ける。

布団も薄めの赤を基調としたエレガントなデザインが施されている。

一体どんな手入れをすれば、たった一枚の布団がここまで弾力のあるような見え方になるのか、不思議でならなかった。

 その布団の中で彼女は昨日から目を覚ますまで身体を休めていた。それにも関わらず、初めての経験かの如く、

昨日の自分を見立ててしまい、恐縮な気持ちに陥ってしまう。


「あぁ…どうしよう…また変に申し訳ない気持ちに…」


「どうかされましたか?」


「わぁっ!?」

 知らない間に部屋に入ってきていたのはメイド長のロゼッタだった。


「ロ、ロゼッタさんっ!」


「まぁ、もう私の名を覚えて頂いているのですね。ありがとうございます」

 そう言って膝をついて右手を胸に添えて頭を下げるロゼッタ。その様子に両手を振って言葉を返す。


「あっ!そんなかしこまらないで下さい…と言ってもダメですよね…」


「誠に恐れながら」


「ですよね…。私は昨日まで、誰からも見捨てられ、相手にされても奴隷として扱われる定めだと思っていました。

 だけど、それは違っていた。カーラさんに出会えて、ロゼッタさん、そしてメイドの皆さんに優しくして貰えて、

 私にも生きる希望があるんだって分かったんです」

 もじもじしながらもベールは自分の思っている感情を言葉にして赤裸々に明かした。

その様子を真剣に聞くロゼッタ。


「だけど、こうも立場が一変すると過去の自分に例えてしまって」


「そのため、今目の前にあるベッドに入るのも"自分の身分ではおこがましい"と、そう仰られるのですね?」

 その考えにベールはコクリと頷いた。「さようですか…」と言うや否や、ロゼッタは右手を背中に移して何かを握った。

その姿に首をかしげるベール。しかし数秒後、その持っている何かを目の当たりにして彼女の顔は蒼白した。

なんと手に持っていたのは大きめの包丁だった。


「ならば…」


「ひっ!!?」

 咄嗟に回避しようとしたがすでにロゼッタの手中にはまっていた。ベールの首を左手で掴んで壁に押さえつけられた。

宙に浮くような高さで押さえつけられているため、首の締め付けがより強かった。

まともな力のない子供なために、ベールは手でロゼッタの腕を掴んでもがく事しか出来なかった。

だがロゼッタの眼光を見て恐怖に震え、もがく事も出来なくなった。

絶望に涙しながら手に持つ包丁に怯える。


「あっ…がっ、だめっ…」

 あまりの恐怖にベールは身震いしながら失禁してしまった。それにロゼッタも若干驚きを見せる。


「私はそういう子が嫌いよ」

 そう言って包丁を逆手に持って刃先をベールに狙いを定める。

殺されると察した瞬間、我に返って再びもがき始める。


「いあっ!あっ、…やめってぇっ!」

 ロゼッタはニヤけた直後、包丁を一旦後ろへ下げる。ベールは目を閉じて、痛みに耐えるよう身構えた。

包丁が近づいてくる感覚が視界を塞ぐ中でも伝わってきた。ほんの一瞬だったが「やっぱり私はこういう定めなのだろう」と、

心の中で自身の悲愴に不思議と納得してしまった。


(ザッ!!)

 包丁が刺さる音がした。でも一切痛みを感じなかった。

激痛を通り越すと痛みなんて感じないのだろうか。でも、風は左頬を撫でる触れるように伝わっていた。

恐る恐る目を開くと、自身の顔面から若干左にロゼッタが振りかぶった包丁が刺さっていた。

一体何が何なのか分からなかった。放心状態に近い自分は助かったのだろうかと考える事しかこのときは出来なかった。

ロゼッタはゆっくりとベールの首を掴んだ左手を壁と垂直にして降ろしていく。


「はぁ…はぁ…」

 何故かロゼッタの息づかいが荒かった。自分も一体何が起こっているのか理解に苦しんだ。

すると、ロゼッタが口を動かした。


「これで…メリー・アトリウムは殺された」


「…?」

 そういうや否や、ロゼッタが怖くて身動きが取れないベールに近づいて自身のつけていたペンダントを彼女の首に掛けてあげた。


「貴方はこれから、ご主人様の娘となるのですよ。

 もし今後も同じような仕草をするようならば。その都度、痛みを与えてまで貴方の過去を切り取らせて貰いますよ」


「…あっ…」

 最初から殺すつもりは無かった。ということだろうか。そう理解した瞬間、腰が抜けて両膝をついてしまった。

その時、違和感に気づいて下半身に目をやった。


「はっ!?!?やだっ!!」

 失禁していたことにようやく気づいてベールはすぐ立ち上がって慌てだした。ロゼッタもそういえばと気づいて一緒に慌てだす。


「も、申し訳御座いませんっ!やりすぎてしまいました…!」

 土下座するロゼッタにベールは慌てるもそれ所じゃない現状が今自分自身に起きている。

ロゼッタに拭くものを要求すると彼女は返事をして一人部屋を出て行った。


(あれ、召使い達を呼ばないの…?)

 そう疑問に思ったベール。だがこの格好で部屋を出るわけにもいかない。

おとなしくロゼッタが帰ってくるのを待つしかなかった。

布巾やタオル、薬品の入った籠を持てるだけ持って、しかも代わりの着替えまで一気に持ってきてくれていた。

すぐに着替えをロゼッタ一人だけで行う。先ほどの疑問を彼女に投げかける。


「あの…召使いさんは…」


「自分の失態はまだしも、メリー様の哀れな姿を晒すような真似は出来ませんので…!」

 私の立場まで守ろうとする姿勢にベールは感銘を受けた。タオルを使って、下半身を拭いて

代わりの着替えをし終えるとベールはロゼッタを抱きしめる。


「メリー様?」


「ありがとうございます…!私なんかのた――」

 ベールがいい終わる前にロゼッタが両手で彼女の腕をわし掴み、鋭い眼光を向けながら言い返した。


「先ほど、申し上げたばかりですよ?ベール様…?」


「あっああっ…ご、ごご、ごめんなさいっ!」

 怯えながら謝る様子にロゼッタは息をつきながら微笑んで、

一言申し上げた後にカーペットの汚れを薬品を使用して布巾で拭き取り始める。

そのロゼッタの姿を見ながら、自分のこれからを心の中で自負する。

まだ自分自身の過去を完璧に拭えたわけじゃないけど、このままでは一向に変わる事が出来ないんだ。

カーラやロゼッタ、メイドの皆さんにはこれからも迷惑を掛けると思う。でも、少しづつ、新しい自分になれるように努力し、

皆のために生きれる様、心の中で強く誓った。

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