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4.最強vs最速

「『イーヴィスシュベルト』オン! 『レルヘドルヒ』オン!」

 梨々亜の音声入力に従い、サイドカー型のウェポンコンテナ上部が展開する。

 11ミリCIWS『イーヴィスシュベルト』が起動。

 同時にフロントカウルに二門装備された13ミリ機関銃『レルヘドルヒ』が発射された。


 白銀のグラウンドファイター『バイスデヴァステイター』は、弾幕を張って無数のミサイルを撃ち落としていく。


 だが火砲の数が圧倒的に足りない。

 梨々亜は弾幕をすり抜けてくるミサイルを瞬時に見極め、針の穴に糸を通すようなライディングでミサイル群を突破した。

 背後から猛烈な爆風が巻き起こる。


《火器を満載したヘビーマシンを御自慢のライテクで無理矢理操ってみせる……健在ですわね、その粗暴な戦い方は》

「あんたもね」

 

 ティナのメタリックピンクのグラウンドファイター『ローズマローダー』は軽量スピード型だ。

 武装は少ないが後方に集中させることで火力を確保している。

 自慢のスピードで決して相手を抜かせず、前から一方的に攻撃を加えていく戦い方だ。

 梨々亜の『バイスデヴァステイター』は他のマシンより火器を多く積んでいる。

 それでなんとか持ちこたえられている状況だった。


《嬉しいですわ梨々亜さん! あの頃と同じあなたを倒してこそ、最強と最速のダブルホルダーとしてわたくしの名前が未来永劫チームに残るんですもの!》


 ティナが高笑いを上げる。

 無線を切りたいところだが今はその余裕すらなかった。

 背中にしがみつく琴美は硬直して悲鳴すら発さない。


《『ヴィルトアクスト』オンですわ!》

 第二射が来る。


 弾幕を張ると同時に梨々亜もミサイルを発射。

 視界すべてが爆炎で埋まる中、梨々亜は姿勢を低くして突き抜けた。


《ほほほほほほっ! いつまでも避け続けられるものではありませんわーっ!》


 極限状態の集中力は長い時間保たない。

 ほんの少し操縦ミスをしただけで先ほどのSUVと同じような目に遭うだろう。

 ティナに勝つには前に出るしかない。

 だが通常の走りをしていては難しい。

 ただでさえ二人乗りで重量が増えているのだ。


(チャンスは次の一回……ここ!)

 ティナのマシンが第三射を放った。


「『ナイトロブースト』オン!」

 梨々亜の声を認識し、『バイスデヴァステイター』のエンジンにナイトロ燃料が注入される。

 同時にボディ全体がダウンフォースを得られるように可変。

 最高速の状態からさらに爆発的な加速をし始めた。


 白銀のグラウンドファイターがアスファルトの上を滑るように疾走。

 稲妻のようにジグザグに走ってレーザー誘導を切り、反射神経だけでミサイルの雨を避ける。

 時速350キロ。

 かすむ視界の中でティナのマシンの右側をすり抜けた。


《ほーっほっほっほっほっ! 勝負を焦りましたわね梨々亜さん! こっちはまだナイトロを温存しておりますのよっ!》

「じゃあよく燃えそうね!」


 梨々亜はサイドカー型のウェポンコンテナを切り離した。


《なっ……!?》

 猛烈な勢いで後方に吹っ飛んでいったコンテナが、ティナのマシンのフロントカウルに突き刺さる。


「『アドラプファイル』オン!」

 梨々亜はすぐさま、リアカウルに装備された20ミリ機関銃『アドラプファイル』を真後ろへ向けて発射した。

 撃ち抜かれたコンテナが爆発。

 ティナのグラウンドファイターに誘爆して巨大な炎を巻き上げた。


《りっ、梨々亜さぁぁぁぁん!!》


 怨嗟の叫びを残して無線が途切れる。

 夜闇に煌々と浮かんだ爆炎はミラーの中で徐々に小さくなり、やがて消えていった。


 ◆


 梨々亜は最寄りのサービスエリアに入った。

 深夜とあって駐車場はガラガラだった。

 長距離トラックの運転手らしき男性の奇異な視線を受けながら、梨々亜はグラウンドファイターを駐車スペースに停める。

 ヘルメットを脱ぐと、開放感と心地良い夜風が頭を包み込んだ。


「梨々亜ちゃん、GF乗るのすっごい上手いんだねー! びっくりしちゃった!」


 琴美がシートから下りてぐぅっと体を伸ばす。

 高速走行に慣れている梨々亜はともかく、琴美の体にはかなりの負荷がかかっていたはず。

 だが案外けろりとした様子だった。


「生きてくために覚えただけよ」

 梨々亜はライダースジャケットの前を開けて深呼吸する。

 胸元の豊満な膨らみが露わになったのを見て、琴美が「うわぉ」と謎の声を上げた。


「ずいぶんなとこまで来ちゃったもんだね」

 梨々亜は無視してひとりごとを言う。

 トップスピードで戻るわけにもいかないので、自宅に帰れるのはさらに遅くなるだろう。

「明日は長距離配送が入ってるってのに」


 とはいえ社長の美都も当事者だ。

 多少は仕事を融通してくれるかもしれない。

 梨々亜は美都に電話をし、感謝の言葉と現在地だけを告げる。

 あとは来るのを待つだけだった。


「あの……梨々亜ちゃんを配達屋さんと見込んでおねがいがあります」

 通話が終わるのを待っていたらしい琴美が、なにやら神妙な面持ちで切り出した。

「わたしをオオサカまで連れて行ってください」


「あのさ、話には順序ってもんがあると思うんだけど?」


 ◆


 琴美は自動販売機の横に置かれたベンチに座り、缶カフェオレを開ける。

 梨々亜も缶コーヒーを開けて横に座った。


「ママがオオサカにいるの。わたしはずっとこっちでパパと暮らしてたんだけどね、いろいろあって……家を飛び出してきちゃった」


「それであんたを連れ戻すためにあんな連中差し向けたってこと? オヤジは組長かなんかなの?」

「社長……かな」

 琴美ははにかんだ笑みを見せた。

「キタムラって会社をやってるの。名前は喜多村克実。梨々亜ちゃんなら聞いたことかな?」


「キタムラって……あの?」

 梨々亜は驚いて、無意識に自分のグラウンドファイターを見た。

 白銀のボディには『KITAMURA』のロゴマークが刻まれている。

「うん。その」


 国内一のグラウンドファイター製造メーカーだ。

 社長の名前は知らなかったが、梨々亜の愛車『バイスデヴァステイター』もキタムラ製である。


「さっきの人たちは、わたしじゃなくてこれを取り戻したかったんだと思う」

 琴美はリュックからUSBメモリを取り出して梨々亜に見せた。

「これに入ってるデータを警察とかに見せたら、きっとパパは逮捕されちゃうから」


「なんのデータなの?」

「えっと……」

 琴美は露骨に口ごもる。

 しかし意を決したように答えた。

「人間を改造して、グラウンドファイターに組み込んじゃう計画」


「は……?」

 突拍子もない言葉を聞かされ、梨々亜は目をぱちくりさせた。


「変な薬を飲ませたり手術とかして体を強くしたり、催眠術みたいに意識を失わせて勝手に操ったり……っていう人体実験もしてるの。でもそれはやっぱり違法なことだから……」


 法律的なことは梨々亜にはわからないが、キタムラがヤバいことに手を出しているというのは理解できた。


「けどさ……親子でしょ? そりゃ世間にバレたらまずいことになるんだろうけど、あそこまでする?」


 琴美が傷付くのも構わずといったやり口だった。

 それを父親が指示しているというのが梨々亜には信じられなかった。


「それは……パパならするかもしれない。わたしはもう娘とは思われてないみたいだし……」

 琴美は思い詰めた顔をして目を伏せる。

 違法な研究云々の前に、親子関係にも問題があるように思えた。


「一回は警察に行こうかと思ったんだ。けど、出来なかった。やっぱり……なんていうか、かわいそうっていうか……」


 他人であれば迷う必要もなかっただろう。

 自分の手で父親を断罪せねばならないという重さは、梨々亜には想像も及ばなかった。


「だから、一回ママに相談しようと思って。電話じゃ出来そうにない話だし、直接会いに行きたいの」

 琴美は梨々亜の顔を見る。

 固い決意に満ちた目だった。

「梨々亜ちゃん、おねがい。わたしをオオサカまで連れて行って」


 オオサカまで行くとしても、公共交通機関は間違いなくさっきのような連中に見張られているはずだ。

 グラウンドファイターであれば身を守りつつ迅速に目的地まで行くことができる。

 琴美にしてみれば、梨々亜と出会えたことは運命的にも思えるのかもしれない。


「悪いけど……うちの会社が運ぶのは荷物だけだから。人間は対象外よ」

 梨々亜は冷たく言い放った。


 事情は理解した。

 だが、だからといって今後も助けてやる理由はない。

 これ以上トラブルに巻き込まれるのは正直言って御免だった。


「さっきのは個人的に売られたケンカを買っただけだし……。自分の問題は自分で解決してよね」


「ことわられた……」

 琴美の顔に深い絶望が浮かぶのが見てられなくて、梨々亜は目をそらす。

 ふたりのあいだに重い沈黙が生まれた時だった。

 

「お〜の〜れ〜で〜す〜わ〜〜!」

 焼け焦げたライダースーツを着た金髪の女が、ふらふらとその場に歩いてきた。

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