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3.グラウンドファイター

 梨々亜(りりあ)は走行中のトラックから道路上に飛び出し、すぐさま三台を追走し始めた。


 グラウンドファイターの基本的な操縦は普通のバイクと同じだ。

 シフトアップしてスロットルを握り込むと、さっきまで乗っていたバイクとは比べものにならないパワーでぐんぐん加速していく。

 スピードメーターの表示はあっという間に180キロを超えた。

 琴美から悲鳴に近いうめき声が上がる。

 体にかかる抵抗も相当のものがあるが、死ぬ気でしがみついててもらうしかない。


「ボス、下がってて」

《言われなくてもそうするよ》


 ゆるやかに減速するトラックを追い抜き、前を走るSUVとアメリカンバイクに迫っていく。

 両者のあいだに障害物は無い。

 梨々亜のマシンに気付いたらしく、銃の狙いがこちらに移る。

 だが梨々亜の攻撃のほうが早かった。


「『ヴィルトアクスト』オン!」

 音声入力によってサイドカー型のウェポンコンテナ前面が展開。

 六連装レーザー誘導ミサイル『ヴィルトアクスト』が一斉射された。


 ミサイルは吸い込まれるようにしてSUVに直撃。

 直後、前方の視界が爆炎に包まれた。


 梨々亜は道路の端を通って炎と煙の中を突っ切る。

 視界が晴れたところでサイドミラーを見ると、SUVが横転して炎に包まれていた。


 二人乗りのアメリカンバイクは運良く攻撃から逃れたらしく、一拍遅れて煙の中から飛び出してくる。

 このままスピードを上げればなんなく振り切れるが、それでは梨々亜の気が済まない。


「『アドラプファイル』オン!」

 後部カウルに装備された20ミリ機関銃『アドラプファイル』が大量の弾丸を吐き出す。

 真後ろのアメリカンバイクは成す術もなくズタズタにされて横転。

 直後、漏れ出た燃料に火が付き爆発を起こした。


 ◆

 

 サイドミラーの中で、暗闇に浮かぶ炎が遠ざかっていく。

「あそこまでしなくても……」

 憐れむような琴美の呟きが聞こえ、梨々亜は少しだけ苛立った。


「銃は簡単に人を殺せる。だから銃をこっちに向けてくる奴がいたら、やられる前にやるしかない。……死にたくなかったらね」


 梨々亜が13歳の時、父と母と妹が強盗に銃殺された。

 梨々亜も腹を撃たれて重傷を負った。

 たった一丁の銃によって家族を奪われ、一生消えない傷跡とひとりで生きていかなければならない孤独と辛苦を押しつけられたのだ。

 だから梨々亜は容赦をしない。

 そういう輩には。


「……そうだね、ごめんなさい。梨々亜ちゃんはわたしを助けるためにこんなにしてくれてるのに」

「いいよ別に。それより、あいつらの他に追っ手は?」

「たぶん、いないと思うけど……」

「そう」


 梨々亜はわずかにスロットルを緩め、長い息を吐いた。

 スピードメーターの表示が150を下回る。


 高速を下りる前に、どこかで美都と合流してトラックに乗せていってもらう必要があった。

 都内はグラウンドファイターの走行が禁止されている区域が多い。

 この首都高環状線もだ。

 今警察と出くわしたら厄介なことになる。

 

 そんな時、ミラーにヘッドライトの光がひとつ映った。

 美都のトラックが追いついてきたにしては早すぎる。

 梨々亜は用心して加速をかけた。


 速度が200キロを超える。後続車は離れない。

 さらに加速する。

 240……250……260……。

 しかしヘッドライトは遠ざかるどころか、逆にどんどん近付いてきていた。

(このスピードは……!)


《ほほほほほっ! 遅すぎですわーっ!》


 甲高くて耳障りな笑い声が無線に割り込んでくる。

 こんなテンションで喋る奴を梨々亜はひとりしか知らなかった。


《ロードヴァルキュリア【最速】のわたくしと! このローズマローダーから! 逃げられるとお思いですの、梨々亜さん!》


 毒々しいメタリックピンクのバイク――グラウンドファイターが、梨々亜のマシンを追い抜いていく。

 乗っているのはライダースーツを着た金髪の女だった。


「ティナ……!」

 梨々亜は苦々しく顔見知りの名を呟いた。

「な、なに……?」

 琴美が困惑の声を漏らす。

「ただのアウトロー……薄汚い荒野のネズミよ」


 『ロードヴァルキュリア』は、トーキョー郊外を根城にして長距離輸送の荷物などを狙う窃盗集団だ。

 梨々亜たち配達業者の天敵と言える存在である。

 とはいえ梨々亜も一年前まではそのチームに所属していた。


 年端もいかない少女がひとりで生きていくためには手段を選んでいられなかったためである。

 だが真っ当な生き方に憧れて足を洗い、今の会社に拾ってもらった。

 あえてこの仕事を選んだのは、過去の行ないに対する罪滅ぼしのつもりでもあった。


「ティナ! 今はあんたと遊んでる暇はないよ!」

《わたくしもお仕事でここにいますのよ! 》


 前を塞ぐように走る堂家どうかティナのグラウンドファイターは矢のように細い。

 装備も最小限で、リアタイヤの左右に小型のウェポンコンテナが付けられているだけだ。

 そしてそのどれもがこちらに砲口を向けていた。


《もっとも、あなたが載せてるその大きな荷物をお渡しになってくだされば、素直に引き上げてもよろしくてよ!》


「荷物……琴美のこと!? あんたもこの子を狙ってんの?」

 しかし、先ほどの連中と手を組んでいるとは考えにくかった。

 彼女らロードヴァルキュリアは女だけのチームだ。

 男とは組まないはず。


《さぁ、渡しますの? 渡しませんの? わたくし、気が長いほうではありませんわよ!》

「決まってんでしょ。あんたに渡してやるのは引導だけよ」


《ほほほほほっ! それでこそわたくしの永遠のライバル! ロードヴァルキュリア【最強】の名を欲しいままにした梨々亜さんですわ!》

「いいかげんその恥ずかしい呼び方やめてもらいたいんだけど。もう私はチームとは関係ないんだから」


《ええ、そうしますわ。【最強】の称号とその荷物、今からまとめてわたくしが貰い受けますもの!》

「勝手に名乗ってなよ」


《『ヴィルトアクスト』オンですわ!》


 ティナが、メタリックピンクのグラウンドファイターへ攻撃指令を送る。

 リアタイヤ両側に付けられたウェポンコンテナが同時に展開。

 大量のミサイルが怒涛のごとく梨々亜へ襲いかかってきた。

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