邂逅の曲
屋根は崩れ、十字架は傾き、ガラスの散ったこんな町外れの教会に、わざわざ訪れる人間がいるとは思いもしなかった。
だからこそ、時折勝手に根城にしていたし、遮るもののない、あけっぴろげな空間に寝転がりに来ていたのに。
敷地に足を踏み入れた時、ポーン、と響いたのは教会の隅に置かれた小さなオルガンだった。
まだ、音が出るものだったのか。
調律を確かめるようにグリッサンドし、一呼吸置いて和音が続く。
入るに入れなくなった空間の外で、雲一つない晴れた空からサンサンと降り注ぐ光を浴びながら、まあ良いか、と目を閉じた。
誰だか知らないが、出くわす前に今日は此処を去ろう。
浅く息を吐き、ああ、でも、もう少しだけ、と思ってしまう。
途切れることなく、躓くことさえなく続くメロディーに耳を傾けながら懐かしさを覚え、同時に、違和感を感じた。
懐かしさ、なんてあるはずもない。
何で俺がこの曲を聞いたことがあるんだ。
……いや、違う、これは。
ハッと目を開け、慌てて中を覗き込む。
俺が中を覗き込んだのと同時に音が止み、こちらを振り向いた小さな彼女は、驚くでも怯えるでも狼狽えるでもなく、ただそっと微笑んでもう一度鍵盤に向き直る。
そうしてまた、繊細な旋律を並べ出す。
あんぐり、開いた口が塞がらない。
こんな所でこんな風に弾かれてしまっては、まるで、賛美歌のようじゃないか。
なんで、どうして。
だってそれは、俺が作った曲だ。