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巫祭り

前回のあらすじ

入学初日に空喰高校そらはみこうこうの校長、一之瀬智恵いちのせちえに導かれ自分の教室に着いた棗純一なつめじゅんいち、そこで彼は神野達也じんのたつやと出会うのであった。

 ある日、ある研究所で一匹の化物が生まれました。その化物には生まれたときから性格があり、感情があり、知識があり、願いがありました。まるで人間のように。ある男はこう言いました。

「君の願いを叶えることはできない。そのガラスの中でおとなしくしていてくれ」

 この言葉に化物は激怒し、目の前にあるもの全てを破壊し尽くしました。その規模は凄まじく、都市を丸ごと一つ吹き飛ばしてしまうほどでした。化物自身も暴れまくったあげく、力尽きてしまいました。その様子を見ていたある偉い人は言いました。

「あの力を失ってしまうのは惜しい。でもあのままでは力が強すぎる。だから・・・」

 少し間をあけ、そしてこう言った。

「バラバラにしてそれぞれ保管しよう」

 これは、純一の生まれる前のお話。



「おい純一、次体育だぞ。早く着替えろよ」

「ん、ああ」

 棗純一なつめじゅんいち空喰町そらはみちょうに潜入してちょうど一週間がたった。学校生活には慣れてきたものの、授業中に寝てしまうことが多々ある。と言うのも、純一は施設にいた頃に同じことを学んでおり、どうしても退屈に感じてしまう。

 ふと顔を上げると、友人の神野達也じんのたつやは目の前で着替えており、その背中には少し大きなアザがあった。

「達也、それって・・・」

「ん、ああこれか?「昔火傷をして」・・・な」

「そうか・・・。すまなかったな、変なことを聞いて」

 純一の申し訳なさそうな様子を見ると、達也は「気にするな」と笑った。

「そんなことはいいから、お前は早く着替えろ。もう体育始まっちまうぞ」

「ああ、わかった」

 純一と達也はさっさと着替えると、教室の外へ飛び出していった。確か今日の体育は、サッカーだったような・・・。



「純一・・・お前何者なんだよ!?」

「どうかしたか、達也?」

 表情こそ冷静な純一であるが、内心は少し焦っている。

 何かへまでもしてしまったのだろうか。いや、そんなはずはない。俺は潜入に特化した訓練を受けてきたから一般人にばれるなどまずあり得ない。だったらなぜ・・・。

「ったくよぉ、どこでどんな訓練受けたら、あんなこと出来るんだよ!?」

「ん?あ、あぁ」

 訓練を受けていたこともばれているだと!?こいつやっぱり俺の正体に感づいているのか?それとも、こいつ自体もどこかから派遣されたエージェントとかなのか!?

「お前、やっぱり・・・」

 どうする?銃を抜くか?いや、こんなところで発砲なんてしたら、俺の存在が町中に知れ渡ることになる。そうなってしまえば任務どころではなくなる。最悪、妹のゆいにまで危害がおよぶかもしれない。どうする!?

「やっぱり、プロサッカー選手とかなんだろ。隠さなくてもわかるぜ」

「・・・へ?」

 一瞬思考が止まった。達也が何を言ったのか理解できなかったからだ。そして冷静さを取り戻すと、大きく深呼吸した。

「何を言っているんだ達也?俺がプロのサッカー選手なわけないだろ」

「だったらどうして、あんな先を読んでいるようなプレーができたんだ?」

 あれは|近接格闘術(CQC)の特訓をしているときに体得したもので、相手の呼吸や目先などから行動を読み取っていただけだ・・・などと説明してもわからないよな。

「たまたまだよ」

「たまたまねぇ。まぁ、お前がそう言うなら本当に偶然だったんだろうけどよ」

 一応誤解は解けたようだ。今後はもっと周りに注意しながら行動した方がいいのかもな。

「あんた達、ま~たアホな会話してんの?」

 達也と言い合っていると、クラスメイトの涼風香織すずかぜかおりが茶々をいれにきた。誰に対してもフレンドリーで、純一もすぐに友達になった。

「なんだと!?俺は純一にだなぁ・・・」

「ねえ純一君、くだらない話だったんでしょ?」

「ああ、とてもな」

「純一、てめえ!」

「ほら、花音かのんも何か言ってやりな」

 そう香織が言うと、その後ろからそそくさとメガネをかけた少女が現れた。彼女は九重花音ここのえかのんといい、物静かな性格でいつも香織と一緒のイメージがある。そして何より、どがつくほどの天然なのだ。

「大丈夫だよ達也くん。達也くんは頭は悪いけど、決してアホじゃないよ」

「花音それ、カバーするつもりで言っているのか!?」

「うう、俺には味方がいないのかよ」

 などと他愛もない話をしていると、次の授業の準備をしに先生がクラスに入ってきた。

「そういえば、次の授業って何だったっけ?」

「え~と、確か『かんなぎ祭り』について話し合うはずよ」

「巫祭り?何だそれは?」

 初めて聞く祭りだ。伯母の棗洋子なつめようこからも聞いていない。

「純一は初めてなんだよな。なら俺が教えてやるよ。いいか、巫祭りってのは」

「巫祭りは、昔この町に存在した『魔のことわりに準ずる巫女』、通称『魔理亜まりあ』と呼ばれていた巫女の魂を鎮めるための祭りなんです。彼女は生まれながらにして特異な力をもっていて、町に溢れるけがれをその力を使って浄化していました。ですがそんな彼女を、当時の町の人たちは忌み嫌っていました。そして彼女の死後、町中に穢れが満ち、彼女の大切さを知った町の人たちは、彼女の遺骨が奉られてある神社に向かい、こう言いました。

『貴女の願いを聞きましょう。貴女の望みを叶えましょう。だからお願いです。もう一度だけ力を御貸しください』

 すると、町は不思議な光に包まれて、穢れは全て浄化されました。それ以来、彼女のことを忘れてしまわない為に行われている祭りなんです。彼女のことを唄にして語り継がれてもいるんですよ。確か・・・」

「おい花音」

 達也が怖い顔をして花音を睨んでいた。

「ど、どうしたの達也くん?」

 怯える花音。

「てめぇ、やっぱわざとだろ!!」

「ふぇ、ごめんなさい~」

 涙目になりながら逃げる花音にそれを追いかける達也、香織は呆れながらもその仲裁に入りにいった。

「巫祭り・・・ねえ」

 誰にも気付かれないくらいのボソッとした声でそう呟いた。洋子さんからは何も聞いていない。言う必要がなかったからなのか、あるいは言えない理由があったのか・・・。今は考えても仕方がないと理解した達也は、三人の後を追っていくのだった。

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