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始まる前の話

注:これは処女作です。おかしな文法や誤字、脱字があると思いますので、遠慮なく教えてください。

「・・・え?」

 目の前で起きた唐突な出来事に、神野達也(じんのたつや)は状況を理解できずにいた。

 簡単に説明すると、日曜の昼下がりに夕食の買い物を終えて帰っている途中、小さな公園の横を通った。子供達が遊んでいるのを見て、『昔は兄さんとよくここで遊んでいたなぁ』などと思い出に浸っていると、どこからかふわっと柑橘系の甘酸っぱい香りが漂ってきた。ふと前を向くと、そこには銀色の髪をなびかせている白いワンピースを着た美少女が立っていた。その天色に透き通った目と目が合い、そのあまりにも綺麗な顔立ちに感銘を受けてしまったのか、その場で立ち止まってしまった。いや、動けなくなっていた。

 彼女は優しく微笑みながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。そして気がつけば、鼻息が当たるほどの距離にまで迫ってきていた。しかし、達也は動けなくなるという不可解な出来事が起こっているにもかかわらず、恐怖心を抱くことがなかった。それどころか、ずっとその女神のような美しい顔を見ていたいという衝動に駆られるほどだった。

「貴方、まだ変わられていないのですね」

 不意に彼女が口を開いた。その不服そうな声とは裏腹に、彼女は笑顔を絶やさない。そして、おもむろに懐から何かを取り出すと、大空に向けてそれを掲げた。ちょうどそれが太陽と重なってしまったため、何を持っているのか確認することができない。達也が目をしかめると同時に、それは達也の頭めがけて振りおろされた。

「・・・え?」

 気がつくと、達也は頭から血を流しながら地面に倒れこんでいた。

「あら、結構本気で殴ったのに意識がまだ残っていらっしゃるのね」

 彼女が右手に持っている金槌を見て、ようやく理解することができた。ああ、殴られたのだと。

「う・・・ぁ・・・」

 声をうまく出すことができない。それどころか体もろくに動かず、痙攣(けいれん)し続けている。

「あら、苦しそうね。でもだいじょうぶよ。貴方のことは救ってあげるから」

「・・・・・」

「あら、もっと嬉しそうに・・・。でも、救う・・・・けど、貴方の体・・・・・・・」

 何を言っているのかわからない。頭もぼーっとしてきた。頬に水滴が2、3滴落ちてきたが、それが雨なのかはたまた別の何かなのかもわからなくなっていた。ただ一つわかっていることは、ずるずると彼女に引きずられながら運ばれていることだけだった。



 まだ5月になってそんなに日が経っていない、心地よい春風がなびいているある日、ある女がまだ男が寝ている寝室に向かって勢いよく入っていった。

「お前に次の任務(ミッション)を与える!」

 伯母の棗洋子(なつめようこ)はベッドの上で寝ていた棗純一(なつめじゅんいち)に向かって満面の笑みでそう言いはなった。

「・・・勘弁してくれよ。この前帰国したばかりなんだぜ」

 ため息をつきながら面倒くさそうに声を出した純一だったが、洋子はそんなことお構い無しだった。

「そんなこと関係ないわ。それに、貴方と妹の(ゆい)を今まで育ててきて、生き抜くための(すべ)を教えてあげたのは、何処の誰だったかしらねぇ」

 こんなこと言われてしまうと、ぐうの音も出なくなってしまう。と言うのも、僕と妹の両親は5年程前に「仕事に行ってくる」という言葉を最後に行方不明になってしまった。自宅から約1キロ離れた場所に二人の血痕が残っていたこと以外には何の手掛かりも見つからず、今もまだ捜索中ということらしい。その両親が帰ってくるまでの間、伯母の洋子さんが里親になってくれたのだが、僕達を引き取るや否や「すぐに引っ越すよ」と言われ、理由もわからぬまま生まれ故郷をあとにすることとなった。

 それからが本当に大変な毎日だった。洋子さんに変な施設に連れていかれ、そこで読唇術(どくしんじゅつ)やら|近接格闘術(CQC)やら銃器の扱いなど普通の学生なら絶対に学ばないことを小6の頃から叩き込まれた。そう、僕はこの人にスパイとして育てられてきたのだ。もちろん、妹も。

「あと、唯にも今回は同行してもらうから」

「だったら、尚更その任務を受けるわけにはいかない!それに、あいつはまだ子どもなんだぞ」

 少し強い口調で言ったが、洋子はその程度では何も感じなかった。 「朝からぎゃあぎゃあうるさいわね。いい、これは命令よ!」

「・・・イエス、マム」

 この人に「命令」という言葉を使われると、それがどんな内容だとしても納得せざるを得ないし、行動せざるを得なくなってしまう。そういう風に調教されてきたからだ。

「そんな辛そうな顔しないの。それに、今回のはそれほど難しいものじゃないしね」

「・・・どんな任務なんだよ」

「え、知りたい?」

 洋子が「はぁ」とため息をつき、仕方がないわねと言わんばかりの動作をしてきたことに怒りを覚えたのは黙っておこう。

「君たちには、ある町に潜入・・・というより、そこで暮らしてきてほしいの」

「その町で何か奇妙なことでもあったんですか?」

「特に何もない、いたって普通の町よ。最近あったことといっても、周りの町と合併して『市』として扱われるようになっただけのはずよ」

「どうしてそんな、何の変哲もない所に潜入する必要があるんだ?」

「強いて言うなら、そこの市長である楠橋健次郎(くすはしけんじろう)という男と、藤村第一病院の院長の藤村伊織(ふじむらいおり)という男の様子を見てきてもらいたいの」

 懐から二枚の写真を出して見せてきた。おそらくこの写真に写っている二人の男性が、楠橋と藤村なのだろう。

「この二人はどういった人物なんですか?」

「楠橋という男については知らない・・・というより情報があまり無いのよ。たぶん市長になるまでは一般の人だったんじゃないかしら。そして藤村だけど、彼は元々医学の分野で人の細胞について調べていた研究者だった。でも、その研究成果があまりにも人道から外れていたから、これ以上研究を進めさせないために研究施設から追い出されて、あの町に流れついた。あそこは医者不足が深刻だったから、仕方なくそこに病院を建てて自分の人脈から医者を集めて、その問題を解決したって聞いてるわ」

「なぁ、これって本当に潜入する必要あるのか?話を聞く限り、藤村って人も悪いやつじゃないっぽいし」

 すると洋子は、懐からもう一枚写真を取り出した。ぼやけていてよくはわからないが、人が何かを運んでいるようにも見える。

「洋子さん、これは?」

「先に潜入してもらっている工作員から送られてきたものだ。これはどうやら、女性が男性を引きずりながら運んでいる様子らしい」

 確かにそういう風に見えなくはないが、如何せん写真がぼやけすぎていて、人物を特定するのは難しいだろう。

「その運ばれた先が藤村第一病院だ」

「え、それって・・・」

「もしかしたら、病院ってのはただの表向きで、裏では何かしているのかも知れない。お前にはこれについて調べてきてほしい。藤村と楠橋が裏で繋がっているという情報もあるけど、それは別の人に調べてもらうから。とにかく、純一は1ヶ月間その町に潜入して、ある程度生活に慣れてきたら藤村第一病院について調べてきて」

「あの、拒否権は?」

「ないわ。さぁ、こんな話はもうやめにして、いつまでたっても起きない唯を早く起こしてきなさい」

「そういえば、大事なことを聞いてなかったな。俺たちが潜入する町って何て言うんだ?」

「あぁ、まだ言ってなかったわね。え~と・・・」

 洋子はあごに手をあててう~んとうなりだした。

「そうだ思い出した。空喰町(そらはみちょう)よ」

 純一と唯の、長くて不思議な一ヶ月が始まる!

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