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今日のボランティア部  作者: 味崎樹里
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プロローグ

初投稿です。オリジナルです。

今回はプロローグなのでかなり短めです。

少しでも笑っていただければ幸いです。

「あづぃ……」

半ば唸るようにして出した声は、遠くのビル郡を歪める陽炎に溶けて込んで。夏の特有の熱気と湿気を充分に溜めてじっとりとした空気を肌で感じながら、三崎京は汗で額にはりついた長い前髪を掻き上げた。

先日の大雨の影響もあってか、辺りは立っているだけで蒸されてしまいそうな暑さになっている。青空高くに昇る大きな入道雲と、暑苦しさに拍車をかけるような鬱陶しいセミの鳴き声が、本格的な夏の訪れを伝えていた。



「『さあ、君も青春をエンジョイしよっ!』……か。」


日の光を浴びまくって育ったらしく、膝の丈あたりまで伸びた雑草が辺り一面に生い茂るここは、とある高架橋の付近。

訳あって真夏の屋外でゴミ拾いをしている京は、足元の草の陰にうずもれていた制汗スプレーのゴミを見つけた。川の水で軽く泥を落とした際、浮かんできた文字を興味本位で読み上げてみた結果。

「……はっ、なんだそれ。」

そこに自分には全く縁のない「青春」という単語を見つけて苦笑すると、缶をゴミ袋に投げ入れた(注:今からラブコメが始まるわけではありません)。投げられたスプレー缶が袋の中の別の缶に当たったらしく、乾いた音が晴天の空に響いた。カーン!



私立城真学園高校のボランティア部――通称ボラ部は、今日の放課後も高校の近くの地域清掃活動にいそしんでいた。

…というのは大きな嘘で。

「おい!例のブツ(エロ本)は見付かったか!?」

部長の京(♀)は手早く周辺のゴミを拾いながら、他の部員に声を張り上げて問う。

「京!ダメだ!全部雨でぐしゃぐしゃになってるぞ」

問いかけに答えたのは、学校一の(自他共に認める)イケメン・吉村優人だ。爽やか系男子の彼が汗だくにまでなって彼女に協力する理由はもちろん、ブツ目的である。高校の女子が知ったら卒倒するような事実だが、男なんてみんなハイエナなのだ。優人だって例外ではない。彼にはもう一つ女子に言えない秘密があるのだが、それはまた後々。

「くそっ!これじゃただのゴミ拾いじゃねーか!何のためにこんな暑いなかゴミ拾いしてんだよ」

京は女子――といっても、あくまで生物学的分類上の――らしからぬ口調で悪態をついてトングを投げ出した。常にこんな調子だが、ボラ部の表向きは校長が大絶賛する部活なので、廃部になる兆しは全く見られない。もちろん、城真高校にも廃校の兆しはない。

「竜!お前はどうだ?」

この地域ピカピカ清掃ボランティア活動(仮)に参加しているもう一人の部員で、学校一の不良と噂の瀬川竜は

「京姐さん、やっぱりないみたいです」

きちんと活動するいい駒……でなく善き部員である。鮮血のごとく真っ赤に染めた髪からはその善良さは毛頭感じられないが。

「ん。これ以上やっても無駄だな。よし、今日は暑いし帰るか」

45Lのゴミ袋にはまだ余裕があったが、部長の決定により、本日の活動は終了となった。活動開始からわずか30分しか経っていなかった。が、何事も――活動であってもナンパであっても、引き際が肝心なのだ。そう、これは人生においてとても大切な事柄である。そういうことにしておく。



「ただいま~」

ボランティア部の表札がかかった部室(他の部室より少し大きい)のドアを開けると涼しいクーラーの風が迎えてくれる。

「すーずーしーいー!」

京は外が暑すぎて店内に逃げ込んだ子供の第一声の定番を叫びながら、部屋の正面にある部長専用ソファーに直行し、ダイブする。

「おかえり。今日はどうだった?」

部室の留守番を任されていた副部長の声がした。が、辺りを見回しても姿が見えないので、

「七緒どっかに隠れてない?」

と、どこかにいる坂井七緒に向かって尋ねてみた。すると、部室に3台あるコンピューターのうち、ドアから見て左にある1台の陰からひょっこりと小学生くらいの少女が現れた。顔の真横できゅっと結んだツインテールが抜群に似合う彼女の外見は、もはや幼女のそれだったが、そんな彼女も京達と同じ高校2年生だ。

※容姿がロリロリしているのは――、失敬、幼いのは別に黒ずくめの組織に怪しい薬を飲まされたわけでもなんでもなく、単なる発育途上の問題である。


「隠れてなんかないもん!バカにしてるでしょ!」

頬を膨らませて小型犬のようにキャンキャン文句を言ってくる彼女はロリータホリックにとって

「たまらん!」

存在だ。

「もう!変なことばっかり言うんだから!」

腕をブンブン振り回す仕草もまたかわいい。

京は反射的に口からこぼれ出たよだれをすする。じゅるり。

そこに若干引き気味の表情をされて、食べてしまいたい衝動が急加速、元から脆かった理性が綺麗に粉砕した。

「美味しくいただきま……」

「てぇいっ!」

「っ!?」

七緒が咄嗟に投げたマウスパットが京の偏差値の低い顔面にクリーンヒット。悪は制された。


「いたたー……」

マウスパット手裏剣により理性を取り戻した京は、パットを元の位置に戻しつつ、思い出したように七緒に問うた。

「あ、そういえば、『エターナルブレイン』攻略出来た?」

『エターナルブレイン』は最近話題(だと聞いた)のネットゲームだ。せっかく入手したので、ぜひ七緒にやってもらいたいと、清掃活動に行く前に部室のコンピューターにダウンロードしておいたものだ。

が、七緒はその名を聞くと、可愛いロリ顔を豹変させ、完全にネトゲオタクモードに入った。彼女はこのモードに突入すると、口調と顔付きが一変する謎の性質があるらしく。

「ああ、あんなクソゲーとるに足らないわ。指摘したい点はたくさんあるけど、まず、ヒューマンドラマのヒの字もないことが大きな間違いよ。エターナルブレインは魔王に奪われた姫の感情を取り戻すゲームなのに、勇者である主人公にさえ感情がないんだもの!だいたい物語からしてマリ●がピー●姫をク●パから取り戻すあれに酷似じゃないの!製作者の脳が凍ってるのよ。画質も悪いし、主人公を選べない点もいまいちよね。見た瞬間にクソゲーってわかったけど、自分でダウンロードしたわけじゃないから一応攻略済みよ。でもね、ゲームって言うのは……」

「もういい!わかった!」

このまま放っておくと延々とうんちくを語られてしまうので、京は無理矢理黙らせる。七緒はそれが不満だったようで、京に詰め寄った。

「わかってるなら言ってみてよ、はい、ゲームとは?」

「操作もストーリーも誰にでも分かりやすいの第一で、ゲームの最終目的がきっちりとあり、予想外な展開が所々に盛り込まれ、途中で飽きることのないもの+α美少女・美少年……でしょ?」

京は何かのマニュアルを読んでいるかのようにすらすらとネトゲ厨式・ゲームの定義を述べた。

「おー!さすが京ちゃん!天才は何でもおぼえちゃうんだね!」

それを聞いて満足した七緒はコロリと態度を変えて京を称賛する。確かに京は一回聞いたこと、見たことは大体忘れないという特異な体質をしてはいるが、それ以前に毎日しつこく…それこそ朝昼晩(夜はメール)と聞かされれば誰だって覚わる。

「私じゃなくてもあれだけ聞かされれば馬鹿でも覚えてるよ……な、吉村?」

先程から漫画を読んでいた優人は名前を呼ばれて顔をあげる。

「何だ?」

「ゲームの定義だよ、暗唱してみろ」

「ゲーム…それは生と死を分ける決闘(バトルロワイヤル)。俺たち光の騎士団(ライトニングナイツ)が近い将来むかえるであろう、悪の破壊神(デストロイヤー)との最終決戦(ラストゲーム)のことだろう?もう噂になっているのか?…奴らとの決戦の時は迫って来ているようだな、ふふ」

何が面白いのか、優人はくっくっと肩を震わせ不気味に笑った。空気が一瞬凍りついたように静かになる。

「……厨二病式・ゲームの定義は訊いてねーんだよ、てめえが空気の破壊神(デストロイヤー)だ、馬鹿」

なんとか喉の奥から絞り出した京のツッコミにより、かろうじて凍りついた空気は解消された。優人の第二の秘密はこの厨二病で、部活中はずっとこんな調子だ。実を言うと京はツッコミという名のフォローに大分辟易している……いちいちルビふりを解読するのが面倒くさいのだ。

「京姐さん」

京が心の中で優人にメンチ切りしていたところに竜が声をかけてきた。

「何だ」

「俺にも訊いてくださいよ」

なぜか目を輝かせながら要求してくるが、とりあえず訊いてあげた。

「……ゲームの定義は?」

「わからないのでお仕置きください!」

笑顔で京に猿轡を手渡す竜はどこからどう見てもドMだ。

「てめえはゲームじゃなくて別の何かをプレイしたいだけだろーが……よし、待ってろ……」

ちょうどイライラしていたところに天然のサンドバッグを見付けた京は、素早く竜に猿轡をセッティングして、回し蹴り用意。ゆらりと立ち上がり、軽く助走をつけて足を振り上げた。

その時、


ガラッ!


急に部室のドアがいきおいよく開いて校長が入ってきた。

「チョリーッス、諸君!元気にやっとるかね?」

元気よく入ってきたものの、校長の目の前には部室にあるまじき光景が広がっていた。

「なっ!?」

校長は唖然といった表情で部室内を見渡した。

散らかった菓子のゴミに、長机にドッサリと置かれたエロ本と漫画の束、それから部員に回し蹴りしようとする部長の姿……。

「しょ、諸君?」

校長は信じられないといった風に、小さな目をぱちぱちさせている。

しかし、京は全く動じずに、校長を一瞥するとそのまま竜の胴体に回し蹴りを食らわした。

「おらっ!!」

衝撃でぶっ飛んだ竜は校長を巻き込み、二人一緒に倒れこんでいた。

「「ぐへっ!」」

その間に京は本棚から広辞苑やら英和辞典やら……のケースを高速で取り出して、その中に漫画を数冊ずつ放り込み、さらに優人と七緒はエロ本と菓子のゴミを清掃活動に使ったゴミ袋に投げ入れた。

その間わずか10秒。

竜と校長が起き上がった時には3人は長机の前に着席していた。

「痛たたた……校長急に扉開けないでくださいよ」

竜はわざとらしく頭を掻きながら起き上がり、校長もよろよろと立ち上がった。

「ああ、すまない……って、三崎君!?」

竜を退けて素頓狂な声をあげながら校長はずかずかと部室に入る。

「はーい?何ですか?」

京はぶりっこ用の黒縁ダテ眼鏡をかけながらゆっくりと振り返った。

「あのエロ本は……じゃなくて、部室!どうなってるんだ!管理は任せたはず……あれ?」

またも校長は唖然とする。数秒前のニートの部屋から一転して、部室はすっかりきれいになっていた。

「どうしたんですか?」

平然とした口調の部長からは、どう考えても部員に回し蹴りする気配は感じられない。

「ワシは一瞬息子の部屋を見たんだが……」

「何言ってるんですか〜!ここはボランティア部ですよ」

京はにっこりと、念を押すように微笑む。

「あ、校長先生、次からはちゃんとノックしてくださいね。瀬川君、ドアにもたれてたみたいですから」

自分が蹴り飛ばしました、とは口が裂けても言えないので、さりげなく校長への牽制をしつつ、証拠隠滅も忘れない。さらに。

「それより校長先生、見てくださいよ!このゴミ!卑猥な本ばっかりですよ!高架橋の下で拾ったんですけど本当に迷惑ですよね!」

と心底迷惑な雰囲気を醸し出して、エロ本がたんまり入ったゴミ袋を差し出した。ゴミ袋が揺れる。校長の目が揺れる。

「おお…本当だな〜困ったな〜それは迷惑だ!先生が引き取ろう」

口元がニヤついて仕方がない校長にゴミ袋を手渡し、地球に優しいリサイクル完了。

「ありがとうございます。本当に助かります。」

「いや、いいんだよ。じゃあ、これからも部活も勉強も頑張ってくれたまえ!特に三崎君!大いに期待してるよ」

と校長はスキップしながら帰って行った。


「あいつ、ギャルゲのロリっ子より落とすのチョロいな……つか、何しに来た?」

京が眼鏡を放り投げながら呟き、一気に静かになった部室に、部員達の安堵のため息が漏れた。


ボランティア部は今日も明日も毎日、廃部と存続の瀬戸際を歩いていく。


ここまで読んで下さったあなたに多大なる感謝を。

ありがとうございました!

感想などなど随時受け付けております。書いていただけるとこの上なく嬉しいです。

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