97.騙されました。
「うーん。熱いし、眩しい?」
私は、横にあった湯たんぽを押し除けてから、顔の前に手をかざして、眩しい光に目をパチパチさせた。
「おはよう。」
なんでか隣の湯たんぽから、声がして、すぐに固くて熱い体に、抱きしめられた。
なに?
私は、ぼんやり眼を、自分の横に向け、ギョッとした.
なっ、なんで裸・・・は・だ・か・・・ああ・・・。
「なんだ。朝から、元気だな。もう一戦やりたいのか?」
私は、思いっきり首を振って、後退りしました。
滅相もございません。
慌てて、ベッド脇にあったガウンを羽織って、立ち上がって、ベッドを出ようとした所、べシャッと良い音を立てて、床に頽れた。
うそー、なんで立ち上がれないの?
もう一度、床に手をついて、立ち上がろうとする私を、ホークは、ヒョイと抱き上げると、すぐ隣にある温泉まで、運んでくれた。
お願いだから、脱衣所で降ろしてくれと、何度も耳元で叫んで、なんとか、そこに降ろしてもらった。
「一人で入れるのか?」
疑わしい顔で見るホークを前に、私は意気込み満々で、返事をした。
「大丈夫です。」
ホークは疑いながらも、何も言わずに、踵を返して、脱衣所を出て行ってくれた。
ホッとしたのも、つかの間、数分も立たないうちに、重い音と私の悲鳴が、脱衣所で響き渡った。
もう・・・、お嫁に行けません。
いや、すでに嫁になっているので、そこはいいのか?
イヤイヤ、女を捨てたら、何かが終わりの気が・・・。
人生は、ままならないものだなぁー。
それから、私は、別荘で、ホークと一週間、ナニをして、過ごしました。
一週間後、今度は自分の足で、きっちり魔法陣の中に立つと、念願の公爵家に、帰りついた。
輝く光が収まると、そこには、公爵家の面々のお出迎えが・・・。
「「黒子、お帰り。」」
公爵夫人のスズ様、将軍のマナ様が、私を抱きしめてくれました。
「ただいま戻りました。スズ様、マナ将軍。」
途端に、二人に物凄い迫力で、睨まれた。
もう、ホークと結婚したんだから、家族なのよ。
だから、お義母様、お儀祖母様と呼びなさい。
”家族”なんだか、泣きたくなる響きだ。
私が感動していると、今回は庭に魔法陣があったので、どこからか、プリンちゃんと我が家の駄犬プー、それにその子犬たちも、私を出迎えてくれた。
私は温かい気持ちになると、共に、まだ公爵家の人たちに、プリンちゃんの件を、まともに謝っていなかったのを、思い出した。
慌てて、謝ろうとすると、隣にいたマナ将軍が、いきなり子犬を抱き上げた。
「見てみろ、黒子。この子犬。お前の犬に、そっくりだぞ。」
本当、すみません。
「きっと、勇猛果敢な犬になるな。」
えっ、思いっきり、自慢してる?
なんで?
私は慌てて、マナ将軍じゃない、お義母様に恐る恐る、我が家の駄犬は、血統書がない、ただの雑種なんですが、と真実を告白した。
「何を言っている?黒子が飼っていて、なおかつ、あの”洗面器のすきま”の戦いで、大活躍した犬だぞ。それが王都の貴族連中にも知れ渡っていて、ぜひ交配させてほしいと、未だに山のように、手紙が来るぞ。」
知らないのか?と言われ、面喰った。
あれ、じゃ、なんで、私はホークと結婚したんだ。
思わず、後ろを振り向くと、ニヤリと笑う男と目があった。
騙された。
思いっきり、頭に来て、何か言おうとした途端、ホークにキスで口を塞がれました。
私が、あまりの恥ずかしさに、コーチョクしていると、その耳元で”まだ俺の愛が信じられないなら、これから証明しようか?”と、抱き上げられ、思わず全力で拒否させて、いただきました。
ちなみに、その後、無情にも姿を消した妖精二匹は、駄犬プーを高級牛肉で釣って、見事、居場所を突き止め、今回の件をキリキリ吐かせました。
「だから、黒子とホークは、運命の魂の片割れなのよ。」
バイオレットは掴まれた手の中で、ぶつくさ呟いた。
「だから?」
「頭悪いわね。いくら身の危険を黒子が感じても、本当の危険なんかないのよ。ゆえに、異世界パワーもゲットした鎧の効力も、当然発揮できないわ。」
という、よくわかるんだか、わからない説明を受けました。
「なんじゃ、そりゃ。」
思わず私が叫ぶと、さらにバイオレットから、衝撃の一言が飛び出した。
「それに、黒子はもう、魂の片割れの子を身籠ってんだから、当然、私たちとの契約も解除されてるわよ。わかったら、ブルーとの蜜月を邪魔しないで、頂戴。」
なんですとぉー。
誰がぁー。
何だってぇー。
私が呆然としているうちに、二匹は金色の粉を振りまいて、どこかに飛んで行った。
「ちょっ・・・ちょっと、待ってぇー。」
私は我に返って、無情な叫びをあげたが、それはきれいなお花畑に消えていった。
それから、数十か月後、公爵家には、家族が一人増えました。
めでたし、めでたし。
あれ、これって、めでたいの?
私の最初の野望、いや希望は、平安無事な庶民生活だったはず。
あれ?
それなのに、なんで、こうなった?
ワン。(プリンちゃん、愛してるよ。)
ワン。(嬉しいわ、プー。)
お前ら、うるさい。
「なんだ、黒子。ここにいたのか?メイド長が、公爵夫人としての心得を教えると、捜していたぞ!」
ホークが腕に、長男のホープを抱きながら、私を捜しに来た。
げっ!
私は、慌てて、異世界人パワーを全開にして、逃げようとしたが、捕まりました。
メイド長、恐るべし。
「ほほほほっ、こんなの朝飯前ですわ。私の前では、何人たりとも、逃げおおせる事は、出来ませんのよ。」
メイド長は両手を腰に、手を頬にして、私の前に、仁王立ちしていた。
「千里の道も、一歩からですわ。黒子様。」
「がんばります。」
地獄は続く、どこまでも・・・。




