91.会食
私のライフがゼロになった所に、ホークが迎えに現れた。
私は高いヒールを履いて、ホークの手に縋ると、なんとかヨタヨタと歩き出した。
その姿は、まるで生まれたての小鹿のようだ。
「行くぞ。」
そんな私におかましなしに、彼はスタスタと歩き出した。
「ちょ・・・ちょっと、待ってよ。早過ぎ・・・。」
私の言葉は、途中で固まった。
何を考えたのか、ホークがクルリと振り向くと、私の足は宙に浮いていた。
よーく自分の現状を把握する。
私の足の下には、ホークの手が添えられていた。
いわゆる、お姫様抱っこだ。
なんで、どうして、どうなってるの?
私の頭がショートしているうちに、彼に抱っこされて、いつの間にか、会食の会場に着いていた。
扉の前に待機していた兵士が、私の姿を見て、ポカーンとしている。
そこで、やっと私は、我に返った。
「ちょっ・・・、私を降ろして!」
ホークはなんでか、爽やかに微笑むと、そのまま扉の前に控えていた兵士に、扉を開けるように、指示を出した。
イヤイヤ、いくら何でも、お姫様抱っこで登場とか、それ絶対に、嫌がらせだから。
私は彼の首根っこを、ムンズと掴むと、彼の耳元で、文句を言った。
「早く降ろして下さい。」
「歩けないんだろ。これが合理的だ。」
ホークは全く聞き耳をかさず。
そのまま部屋の中に、足を踏み入れた。
中にいた全員が一斉に、こちらを見つめる。
当然、注目の的だ。
最悪なことに、そこには陛下、その伴侶であるキャサリン王妃、それに彼女の息子である第一王子マイケル、そして、隣国の第一王子であるアンドリューと第三王女のアンバーが、こちらを凝視していた。
うっ、穴があったら入りたい!
ホークは、何食わぬ顔で、私を抱いたまま、決められた席に私を降ろすと、その隣に腰かけた。
「遅くなって申し訳ありません、異母兄。」
この一言で、何か言おうとしていた陛下の口を封じたホークは、視線を傍の使用人に向けると、無言で食事を運んでくるように指示を出した。
「黒子は、どうかしたのかしら?」
キャサリン王妃から、やんわりと抗議の声が上がった。
私が口を開く前に、ホークに遮られた。
「途中で足を挫いたようだったので、私がここまで運びました。」
はっ、いつ私が足を挫いたって!
「まあ、それはいけないわ。シップをしたの、黒子。」
キャサリン王妃が心配そうに、私を見つめて来た。
「大丈夫です。大したケガでは、ありませんから。」
私はホークを横目で睨みつけながら、言い訳をした。
なんで、私が言い訳をしなきゃ、いけないの。
心の中で、盛大に文句を言っている間にも、王族の私的な昼食会は進んでいった。
気がつくと、最後のデザートも終わり、いつの間にか、食事会は終わりを告げていた。
王と王妃が退席し、次に隣国の第一王子であるアンドリューと第三王女のアンバー、それにアンバーをエスコートした第一王子のマイケルが席を立った。
「あまり無理をしないようにね、黒子。後でお見舞いの品を届けるよ。」
アンドリューは心配そうな目で、私を見ると、スッと私の傍に来て、私を抱き上げようとした。
げっ、ヤバイ。
そんな事されたら、足をケガしていないことがバレる。
私は大慌てて、お断りをした。
「ぜったいに、大丈夫ですので、はい・・・絶対です。」
お陰で、おもいってきり、変な言葉を発してしまった。
アンドリューは苦笑いしながら、差し出した手を引っ込めると、異母妹であるアンバー王女と、彼女をエスコートしいる第一王子のマイケルたちと会食会場から退席して行った。
ホッと肩の力を抜いてから、息を吐き出した。
取り敢えず、ばれなかった。
私の気が抜けた途端、またいきなり目線が高くなった。
気がつくと、ホークに椅子から抱き上げられていた。
「ちょっと、なにするんですか?」
私は彼の耳元で、盛大に文句を言った。
本当は大声で叫びたかったのだが、周囲にはまだ、会食会場を片付ける為、大勢のメイドと侍従が傍に控えていたのだ。
「行きだけ抱き上げられていて、帰りは、ピンシャンして、自力で歩いていくつもりか?」
ホークにそう囁かれ、ハッとした。
確かにそれはまずい。
私が葛藤しているうちに、ホークは私を抱き上げて、元来た通路を戻っていた。
なんでか先程、着替えた部屋を通り過ぎる。
へっ、そこじゃないの?
私がその部屋を見ているうちに、彼はそこを通り越し、さらに王宮の奥から、いつもの近衛隊の訓練場と反対方向に歩き始めた。
唖然として見ていると、見慣れた部屋の前に着くと、そこに連れ込まれた。
そこはホークがいつも執務をしている宰相室だった。
中に入ると、そこにはキレイに浮かび上がった魔方陣が輝いていた。
私はホークに抱き上げられたまま、いつも間にか、その魔方陣の中央に、立っていた。
あれ?




