09.腹黒宰相とアイリーン姫
「ホーク。なんで何百年も前の人物が、今でも生きているような事を言ったの?」
アイリーン姫の咎めるような視線を、まるっきり無視すると、ホークは珍しく二人に説明をした。
「さっきも行ったように、彼女が本物の異世界人なら、洞窟の守護の扉を開いて、マラカナイトの粉を持ってくるはずだからですよ。」
「へっ、何言ってるのよ。そんな貴重なものが、今だにあるわけないでしょ。それは、おとぎ話よ。」
「さて、おとぎ話かどうかは、すぐにわかるでしょう。」
ホークはそう言いながら、ログハウスから見える山を眺めていた。
彼の話に、イアンとアイリーン姫も、なんとなく山を見上げた。
瞬間、山の中腹から、眩い光がきらめいたように見えた。
「ねえ、今なにか光らなかった。」
アイリーン姫の問いかけに、イアンが答える。
「確かに、今、何かがきらりと光ったように見えました。」
二人がそう話して、山を見ていると、もう一度、山の中腹が輝いた。
「また、光ったわ。」
アイリーン姫がそう言ってから、従兄のホークを見ると、彼は黒い笑顔を浮かべていた。
「ホーク?」
「アイリーン、あなたのお蔭で、私は貴重なマラカナイトを、手に入れられそうですよ。」
「「はっ。」」
二人は同時に叫んでいた。
ホークがそう呟いてから、間もなくして、さっき出て行ったはずの異世界人である黒子とその愛犬プーが、アイリーン姫のログハウスを訪ねて来た。
「黒子!!!」
アイリーン姫が嬉しそうな声で、出迎えてくれた。
私は、嬉しそうにはしゃぐアイリーン姫に、ドアを開けたら抱きしめられた。
すぐ傍のイアンは、それを面白くなさそうに、見ている。
「マラカナイトを引き取りましょうか。」
私がアイリーン姫と再会を喜んでいると、傍にいたホークが何の前触れもなく、ぼそりと呟いた。
「まらかないと?」
一応、私はすっとぼけて見た。
「マラカナイトですよ。洞窟の岩から、削って来たんでしょ。」
「なんのこと?」
私は再度、わからない顔をした。
何もかも、お見通しみたいな態度は、癪にさわる。
確かに持っているが、当然、渡すだろうと言われると、人間かえって渡したくない。
私がそう考えていると、連れてきた妖精のうち、羽が薄紫色のバイオレットが、宰相のホークに近づくと、周りをパタパタと飛び回り、最後に、彼の肩にピタリと止まった。
「本当に大きくなったのね、ホーク坊や!」
「ぼうや!」
私はバイオレットの一言に、非常に大うけした。
どう見ても、三十路は過ぎていそうなおじさんが坊や!
もう駄目だ。
我慢、出来ない。
私は一人うけまくった。
「おい、何を笑っている。」
「だって、ぼうやって、ぼうや・・・・・・。」
私が涙目で見ると、隣で笑いを堪えるアイリーン姫がいた。
イアンは何が起きたのかわからず、きょとんとしている。
「二人とも笑いたければ、どうぞ。でも、ここに妖精がいる以上、マラカナイトがないとは、言い逃れできませんよ。」
ホークが畳み掛けてきた。
私は目に涙を溜めながら、ポケットから小袋に分けたマラカナイトを見せた。
ホークの目の色が変わる。
「では、ありがたく・・・・・。」
私はホークが手を出そうとした、その目の前でマラカナイトの袋を取り上げた。
「いくらで買ってくれるの?」
ホークは私の言葉に、一瞬躊躇した後、答えた。
「王宮での食事一か月分。」
「王宮で兵士クラスで、五年間の無償での食事/部屋/洋服の提供と生活する上での教育。プラス一か月の三食分の給料。」
私はそう言って、書いた紙をホークに提示した。
ホークは、黙って受け取ると、それにサインをする。
次に私は、その紙にアイリーン姫のサインをもらった。
最後に、イアンにもその紙を渡す。
「なんで、俺がこの紙にサインをしにゃならんのだ?」
「そう。」
私が紙を受けとろうとすると、イアンはなぜかサインをして、私にその紙を戻した。
「質問だ。なんで兵士クラスなんだ。王侯貴族並みにも出来たのに?」
「貴族は信用できない。それにこれから私は、庶民として生活するつもりなんで、貴族の知り合いより、庶民の知り合いが必要だから。」
「なるほど。」
ホークは、それ以上は何も言わず、私からマラカナイトを受け取った。