87.早朝会議
「マナ。」
グリムは、隣で寝ているはずのマナに、手を伸ばそうとして、空ぶった。
慌てて、起き上がると、彼女はすでに、王宮に出仕する時の隊服に着替えて、部屋を出て行くところだった。
「どこに、行くんだ?」
彼の呼びかけに、彼女はドアのノブを掴んだまま、振り返った。
「緊急会議が招集された。グリムは、まだ寝ていてくれ。行ってくる。」
彼女は、そう言うと、寝室を出て行ってしまった。
「緊急会議だと。何があったんだ。」
裸のまま布団の中で、グリムは呟いた。
一方、王宮の緊急会議では、満面笑みの王が、将軍の到着を、ホークと待っていた。
「昨日といい。今日といい。この二日間は、私にとっての幸運日だな。」
「なんで、幸運日なんですか?」
超ご機嫌な王に、ムカムカしたホークは、ぶっきら棒に声をかけた。
「そりゃ、昨日に引き続き、今日も朝から”異母兄、緊急会議を開きますので、至急お越し下さい。”って、ホークから伝言が、来たからだよ。 あ・に・う・え、ってね。」
王はかなり嬉しいようで、二度、繰り返した。
ホークは、苦虫を噛み潰したような顔で、口を開いた。
「緊急で、会議を開くときの伝言は、そうしろと言ったのは、あなたです!」
「ホーク。そんなに、恥ずかしがらなくても、いいのに。」
満面笑みの王が、嬉しそうに話す。
「恥ずかしがってなど・・・。」
そこに、扉をバーンと開いて、将軍のマナが登場した。
「すまん、遅くなった。」
「いえ、では始めましょう。」
ホークは助かったと心の中で思いながらも、そう言うと、今まで脇に控えていたブンに、合図した。
彼は頷くと、机の隅にセットした、クリスタルを起動した。
彼らの目の前にあった白いテーブルに、地図と物資の動きを示した簡易図が浮かんだ。
「動かしてくれ。」
ホークの声に、ブンは頷くと、絵を動かした。
それを見ていた王と将軍が、思わず唾を飲み込んでいた。
「これは、いつの話だ?」
マナがホークに詰め寄った。
「一週間ほど前です。」
それにブンが答えた。
「こんなに大胆に、動いていて、なんで気付くまで、一週間もかかったんだ。」
マナが組んでいた足をダンと踏み鳴らして、イライラと腕を変えた。
「主食のムギと一緒に、輸入されていたので、気がつくのに、時間がかかりました。」
ブンが珍しく部下を庇うような発言をした。
「そうなのか、ホーク。」
マナは、ホークに顔を向けた。
「ええ、そうです。シャドウでなければ、気がつかなかったかも、知れません。」
ホークも素直に、答えた。
「そうか、わかった。それでどうする?」
マナは、二人に問いかけていた。
「このまま、放って、おくわけには、行かないな。」
王の発言に、二人は頷いた。
「とは言え、我が国が単独で動くと、下手をすると、また開戦になるぞ。」
マナが面倒くさそうに、テーブルを見ながら、こぼした。
「一番いい方法は、ギルバート王が治める国と、共同戦線を張れるのが最適です。」
ブンが画面の操作パネルを、動かしながら、そうなった時の動きを示した。
マナと王が、ブンが示した動きを、興味深く見ながら、頷いた。
「ホーク、ギルバート王は、今回の件について、知っていると思うか?」
マナの問いかけに、ホークは首を横に振った。
「怪しいなと疑っていても、ここまで詳細に、軍事物資を動かしているのには、まだ、気づいていないでしょう。」
「ふむ、なら今回の件を、極秘裏に伝えて、恩を売ろう。」
マナの意見に王も頷いて、ホークを見た。
ホークは王の視線に、うんざり顔で頷くと、大きな溜息をついて了承した。
「どうせですから、今回きた信書の申し出を利用しましょう。」
マナは、王とホークの会話に、可笑しそうに、同意した。
「いい時に、良い案が出ていて、良かったな、ホーク。」
マナの嬉しそうな笑顔に、ホークがいやそうに呟いた。
「嫌味ですか、お母さん。」
「いや、自分の息子が、こんなにもてるんだと思うと、嬉くらいだぞ。」
マナの満面の笑みに、さらにホークの顔が、曇る。
「単なる嫌味にしか、聞こえません。」
そこで、極秘裏に行われた会議は、終了した。




