86.新たな事件
いつもの自分なら、今の話を、好機と捉えて、黒子と隣国の王子との結婚を喜々として、推し進めたはずだと、陛下の話を、頭の隅で聞きながら、理解はしていた。
理性では、理解できたが、感情は隣国の王子の横に、黒子が並ぶ姿に、激怒していたのだ。
俺は、・・・。
すっかり、動く気が失せたホークは、家に帰るのを止めて、結局、そのまま朝まで、宰相室で仕事をした。
執務室の窓から、朝日が入って来たのを、ぼんやり眺めていると、早朝にも関わらず、誰かが宰相室の扉を、叩く音が聞こえた。
「宰相様、申し訳ありません。文官長のブンです。急ぎの用件です。」
「入れ。」
ホークの声に、ツルツル頭を光らせた細身の男が、宰相室の扉を開けて、入ってきた。
「朝早くから申し訳ありませんが、中の国に潜ませている者より、極秘の報告が、上がってきました。」
文官長は、そう言うと懐から、透明な長方形のクリスタルを出した。
ホークはそれを受け取ると、執務机の隅に掘られた窪みに、それをセットした。
すぐに、テーブルに、細かい文字が浮かび上がる。
彼は、手をそれに、サッと翳して、一読した。
一瞬にして、眉間に深い皺がよる。
「間違いないのか?」
ホークの問いかけに、文官長は頷いた。
面倒なことになった。
ここ数年、周辺国によって、経済支援を受けて来た、中の国が、何を思ったのか、ここに来て、さらに軍事物資に、資金を投入しているようだ、という知らせが入った。
このまま、放っておくと、すぐに隣国と境界を接している、我が国が侵略される恐れがある。
早急に、なんとかしなければ、ならない。
ホークは頭を切り替えると、急いで将軍と王に、内密に話し合いたい案件があると、早朝だが、呼び出しをかけた。
呼び出しを掛けた後に、文官長を振り返る。
「ブン。」
「畏まりました。」
ホークの呼びかけに、文官長はツルツルの頭を、キラリと光らせると一礼して、宰相室から音もなく消えた。




