85.疲れ
かなりの時間を、マナに剣の相手をさせられ、結局その間に、黒子は王宮から、公爵家に帰ってしまった。
なんのために、宰相の執務室から遠い、近衛隊の訓練場に来たのかと、思いながら、非常に機嫌の悪い、副将軍のグリムに、剣を返してから、ホークは一旦、執務室に戻った。
部屋には、今日中に終わらせなければならない書類の山と、なぜか王である異母兄が、珍しくそこにいた。
「めずらしいですね、陛下。」
「異母兄で、かまわないぞ。」
ホークは、陽気に微笑む異母兄を、うんざり顔で見ると、ことさらゆっくり、ここにいる理由を説明しろと迫った。
「ああ、わかったよ。私の所に隣国の王より、内密に信書が届いた。」
「まさか、黒子を王太子の伴侶に、私には、王女を娶れですか?」
「なんだ、もう知っていたのか。どう思う?」
「お断りです。」
ホークは、すぐに全否定した。
「まだ会っても、いないのにか。けっこう、綺麗な王女だそうだぞ。」
王はニヤニヤしながら、ホークに話しかけてきた。
「王女なら、王子が妥当でしょ。」
「私の息子か?まあ、向こうが、それでいいと言うなら、別に、それでもかまわないが、黒子は、あちらさんが熱望している。私の娘というわけには、いかない。」
「身分が釣り合いません。」
ホークは、事実をそのまま、指摘してみた。
「公爵家が、後見すれば、問題にならんさ。」
なぜかわからないが、ホークはそれが、非常に面白くなかった。
「なんで、わざわざ公爵家が、後見しないと、ダメなんですか?」
いつもと違う、異母弟の態度に、王は目を剥いた。
珍しいな、ホークが感情を、こんなに顕わにするなんて。
「なんだ。なにが気に入らないんだ?」
なので、素直にホークに問いかけて見た。
「今回は、我が国が圧勝したんです。それなのに、敗戦国のような態度でいるのは、面白くありません。」
ほう、まあ、ホークの言い分も、わからなくないが、本当にそれで拗ねているのか?
「確かに今回は圧勝したが、長期戦になれば、物量にまさる隣国の方に武がある。それを考えれば、王子に我が国の女性を娶ってもらって、同盟を強固にするのは、意味があるさ。」
「黒子はこの国のものじゃなく、異世界人ですし、同盟を強固にするなら、彼女じゃ、役不足ですよ。」
「確かに黒子は異世界人だが、公爵家が後見して、結婚ともなれば、それこそ隣国の王に、恩を・・・。」
王の言葉は、ホークの声に遮られて、最後まで言うことができなかった。
「あ・に・う・え。黒子の件も、私の件も、お断りしてください。」
ホークは、王を睨むと、そう告げた。
王は目を見開いて、ホークを見た。
ちょっと、待て。
今、ホークは、私を兄上を呼んだのか?
あの、ホークが!
王はご機嫌で、ホークを見た。
「わかった。可愛い異母弟の願いだからな、そうそうに、断りを入れておこう!」
王はそう言うと、ご機嫌な顔で、宰相執務室を後にした。
うん、ホークが私を兄と呼んでくれるとは・・・。
うんうん、きっと明日は、雨だな。
ホークは、王が出て行った後、執務机に突っ伏して、頭を抱えた。
俺は一体、なにをしているんだ。




