80.アイリーンの新婚旅行
アイリーンが、イアンとやっと結婚した。
私も面倒な淑女教育から解放されて、乗馬も慣れたので、公爵家の馬車ではなく、毎日自分で馬に乗り、楽しく、王宮に通っている。
ここ一週間は、それこそ、本当に何も問題なく、平穏無事に、毎日が過ぎた。
過ぎたはずなのだが、なんでか、今、私は、目の前にいるアイリーンに、抱き付かれて、大泣きされていた。
いったい、新婚旅行で何があった?
「黒子、お願い。助けて。」
そう言うと、先程から、あまりボリュームのない私の胸に、縋りついて、ただただ泣いていた。
「あの、アイリーン姫、じゃなかったアイリーン侯爵夫人。何があったのか、よかったら・・・。」
私がここまで聞くと、まさかのさらなる大泣きに、傍にいたブランが、気を利かして、近衛隊にある隊長室を貸してくれた。
アイリーンは、隊長室でブランが入れてくれた温かい紅茶を飲んで、何とか気を静めた。
それを見て、私はもう一度問いかけた。
「あの一体、何があったの?」
「何もなかったのよ。」
「はっ?」
思わず、よくわからなかった私は、もう一度、アイリーンに問い返していた。
「だ・か・ら、新婚旅行に行ったのに、何もなかったの。」
アイリーンは今にも、泣き出しそうだ。
「えっと、つまりナニがなかったと。」
アイリーンは、真っ赤になりながら頷いた。
私はあまりのことに、呆気にとられた。
さすがヘタレ、やることも、やれないなんて・・・。
えっと、でもこういう場合、どうすればいいのかしら?
私は、どう答えて、いいかわからず、沈黙してしまった。
黙ってしまった私の手を、アイリーンはギュッと掴むと、うるうるした目で懇願してきた。
「黒子なら、年齢から言っても、いろいろ経験してるでしょ。現代日本での、彼を誘惑する方法もいろいろ知っているはずよね。お願い。それを私に、伝授して、頂戴。」
真剣な目で、アイリーンが迫ってくる。
えっと、確かに年齢は、いってるけど、実際の経験は、皆無なんですけど、どうしよう。
私はチラリとアイリーンを見た所で、横からシルバーが会話に加わって来た。
「あら、なんでチビッ子の年齢が関係してくるの?チビッ子って、いくつだったかしら?」
「えっと、ですね。28です。」
「「えっ」」
なんでかシルバーとブランがハモった。
「私より、三つも上なの。なにそれ。」
「俺より、八つも上?信じられない。」
二人の目が私の顔と胸を見た。
ええ、そうでしょうとも、発育なんて、してないわよ。
思わず、睨み付けると、なんでか、可哀相な目で見られた。
なにそれ、なんで、そこ、そんな目で見るのよ。
「あのー、お取込み中のようなんですが、私の相談を先に何とかして、欲しいんですけど。」
「ああ、ごめんなさい。ヘタレじゃなかった、イアン侯爵の事よね。」
私は、考え込んだ。
どうせ、俺の嫁、かわいい、ばかりで、手を出して嫌われたら、どうしようとかアホなこと考えて、結局、何もできなかったんだろうけど、どうしたらいいのかな?
ヘタレの操縦法なんて、知らないし。
私はちらりと、隊長室で執務をしていた、シルバーを見た。




