08.ログハウスに戻ることにしました。
光が収まって、気がつくと、あの甲冑を纏っていた。
妖精が言った通り、サイズはピッタリだ。
でも、かなり目立つ。
これを着て普段歩くと思うと、流石に恥ずかしい。
着れることがわかったので、脱ごうとしたが、脱げない。
「ちょっと、脱げないけど、どうすればいいの?」
妖精は何を言っているんだという顔で、私を見た。
「一度着たら、ずっと脱げないわよ。」
何ですとぉー!!!
そう言うのは、着る前に言うことでしょ?
私が唖然として固まっていると、隣にいたプーも起き上がると、なぜか私が身に着けた甲冑が置いてあったそのすぐ傍に、落ちていた首輪に触れた。
私の時と同じように、真っ白な光が出たと思ったら、プーも勇ましい甲冑を纏った姿になった。
プーはビックリしたようで、慌てて体を振ると、途端に甲冑が消えた。
「消えた?」
私は思わず、呟いていた。
「違う。消えたんじゃなく、首輪に収納されたの。」
妖精に言われて、よく見ると、プーの首には、私が散歩用につけたのとは違う首輪が嵌っていた。
「消せるの?」
「消すんじゃなくて、邪魔だと思えば、収納できるのよ。」
妖精の説明に私は、素直に甲冑を邪魔だと考えた。
あっという間に、甲冑が消えて、右手に腕輪が嵌っていた。
しげしげと自分の腕輪を見る。
その腕輪には、”守護”と”状態維持”の二つの文字が、漢字で記されていた。
「よかった。これで妖精王様に言われた事を、一つクリアできた。後は魂の伴侶を見つけるだけね。」
二匹の妖精は、嬉しそうに互いに抱き合って、喜んでいる。
その様子に、私は、隣から文句を言った。
「その前に、食事にありつけるように、してほしいんだけど。どうやって、今日の夕食を確保すればいいの?」
「それは知らないわ。私たちがどうこうできることじゃないわ。」
そういうことなら私にも考えがある。
私は、パシッと妖精の一匹を鷲掴みにした。
「ちょっと、痛いじゃない。なにするのよ。」
ちっさい妖精が私の手の中で暴れる。
「さっき、言っていたじゃない。妖精がまき散らす光る粉は、マラカナイトという高価なものだって。ならそれを貰って、売れば当分食べられるでしょ。死ぬわけじゃないんだから、問題ないでしょ。」
私がそう説明を終えると、手の中にいた妖精が暴れ出した。
「ちょっと動かないで、ちょうだい。」
「それなら、目の前の岩を削ればいいでしょ。それ全部マラカナイトよ。」
妖精が悲鳴の様な声で叫んだ。
私は思わず、目の前の岩を見た。
「本当に?」
「うそじゃないわ。だからあなたたちの前にこっちの世界に落ちた田中は、この洞窟に守護の封印をして、他の人間が入れない様にしたんだから。」
私は岩を見た。
背負っていたリュックを降ろすと、ペンケースからカッターを出して、その岩を削り、犬の糞を始末するために持っていたビニール袋を出すと、削った粉をそこに溜めた。
直ぐに袋いっぱいになる。
念のため、いくつかに小分けにして、袋の入り口をゴムで縛る。
さて、妖精の言葉が本当なら、これで大金持ちだが、これを直接取引できるわけがない。
下手な所に持って行けば、こっちの常識がわからないので、逆に安価に叩かれる可能性がある。
それに希少価値のものなら、持ち込む場所も、限られている可能性もある。
どこに持ち込むのが正解か?
こっちの事情が分かっていて、信用できる人間。
ここは素直に、信頼できるアイリーン姫の所に、持って行くのが正解でしょうね。
あの腹黒そうな宰相も、きっともういないだろうから、それがいいだろう。
私は、プー、それに妖精の二匹を連れ、アイリーン姫がいるログハウスに戻ることにした。
私たちが洞窟を出ると、洞窟の入り口は、また同じような透明な膜でおおわれた。
それを見ていた妖精二匹が文句を言った。
今度来た時は、壊さないで、ちゃんと呪文を唱えなさいよと。
ちなみに一応、呪文を聞くと、呪文は定番の”ひらぁーけ、胡麻!”だった。
「もう少し捻れよ、呪文。」
思わず私は、つぶやいていた。