75舞踏会
私が抜け出そうと、周囲をそれとなーく見ていると、いきなり、隣から声をかけられた。
視線を向けると、そこには、イアンにエスコートされたアイリーンがいた。
「黒子、久しぶりね。」
「アイリーン姫!」
私が見ると、きれいに着飾ったアイリーン姫が微笑みながら、そこにいた。
隣にはアイリーンだけを見つめる、ストーカーのようなパートナー。
「珍しいな、イアン。」
私の横にいたホークは、イアンをちらりと見て声をかけると、すぐに視線を、その後ろに移した。
後?
誰かいたっけ?
ホークの視線を追って、イアンたちの後ろを見ると、そこには、燃えるような赤毛の巨乳美女が、これまたド派手な真っ赤なドレスと、金糸がふんだんに織り込まれた豪華なドレスを着て佇んでいた。
その女性は、イアンとアイリーンを睨みながら、お供の女性たちを従えて、真っ直ぐこっちに向かってきた。
その姿は、まさに、この舞踏会の女王様だ。
なんだかわからんが、私はその迫力に、危機回避能力が反応したので、じりじりと後退って、逃げようとした。
ところが、それを、ホークに腰をがっしり掴まれ、引き留められた。
おのれ、逃げたいのに、なにをする。
思わず、隣を睨めば、にこやかな笑顔が返ってきた。
こいつ、わざとだ。
絶対そうだ。
私がそう確信した時、その女性がホークに声をかけた。
「宰相、御機嫌よう!」
「ご無沙汰しております。レイン様。」
レイン様って、誰???
私はわからなかったが、イアンとアイリーンは知っているようで、2人とも顔色が変わっている。
「そちらのお嬢様は?」
レインと呼ばれた女性は、鋭い視線で私の見た後、ホークに問いかけた。
私は慌てて、膝を曲げて、礼をすると、名乗った。
「黒井黒子と言います。」
「まあ、あなたがうわさの黒子ね。」
なんだか、かなりわざとらしい言い方だった。
「叔母様、ご無沙汰しています。」
私たちが話ていると、横からイアンが、突然、声をかけてきた。
へえ、この人がイアンの叔母様なんだ。
言われてみれば、似てるかも。
「あら、イアン、来ていたの。」
レインは、突然声をかけてきた甥に、それはそれは、冷たく言い放った。
ふと見ると、彼の隣にいるアイリーンの顔が真っ青だ。
「叔母様、何を言いたいんですか?」
イアンが怖い顔で、睨んでいる。
二人の睨み合いに、隣にいたアイリーンが、今にも泣きそうな顔で、それを見つめていた。
「レイン様。わ・・・わたくしは、ここで失礼します。」
震えるような声で、アイリーンはそういうと、レインの前でお辞儀をすると、その場を去っていった。
「待ってくれ、アイリーン。」
イアンが、慌てて、彼女の後を追いかけていった。
「まったく、困った子ね。」
それを見ていた、ホークが、げんなりとした顔で、二人をフォローした。
「イアンは、武官ですから、お手柔らかに、お願いします。」
「確かにイアンは、武官かも知れないけど、アイリーンは、王女なのよ。」
レインは、そう言って、扇で口元を隠すと、溜息をついた。
そこに、背後から、大柄な二人が近づいてきた。
レインは、気配で後ろを振り返ると、満面の笑顔で、その人に声をかけた。
「マナ!御機嫌よう。」
「レイン様、お久し振りです。」
マナは、優雅にお辞儀をすると、レインに満面の笑顔を向けた。
「今度は、どこに行っていたの?」
レインは、にこやかに話しかけた。
「少しばかり、隣国を散策してきました。」
「まあ、その馬鹿を連れてなら、さぞ、大変だったでしょうね。」
レインは、労わるような眼差しで、マナの隣をちらっと見ると、そう呟いた。
「俺のことはいいが、アイリーンに対する、さっきの態度は、なんだ。」
グリムは睨み付けるように、レインに詰め寄る。
「まあ、怖い。でも、あなたがねこっ可愛がりしたせいで、ああなったのを、少しは自覚しなさいよ。」
レインも負けじと睨み返して、そこは、今にも一触続発の状態となった。
「レイン。」
そこにマナが、間に入って、声をかけた。
さすが将軍、この状況の間に入って仲裁とか、凄すぎる。
レインが鋭い顔で振り向いた。
「明日、ルドルフの最新ケーキを持って、黒子と遊びに行きたいんだが、空いてるかい?」
唐突な話題転換に、レインが呆気にとられた。
「ルドルフの最新ケーキ、ですって。」
レインが、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
彼女は、少し考えてから、すぐに返事をした。
「いいわ、最高級の紅茶を用意して、空けておくわ。」
レインは、そう言うと、その場を去って、王の所に行ってしまった。
「すまん、マナ。」
グリムは、マナに申し訳なさそうに謝っている。
「これは貸しだ、グリム。」
マナもきちんと、あとで返せと、グリムを睨んだ。
本当に、この夫婦って・・・。
私は、そう思った時、ふと、さっきの会話を思い出した。
”黒子”を連れてって、言ってなかったっけ?
いや、まさか・・・。
私は、遠い目をして、現王と談笑している女性をぼんやりと見つめた。




