73敵国の第一王子
あれが敵国の第一王子か。
私は敵国の第一王子を横目で眺めた。
体は鍛え上げられたがっしり系で、小麦色の肌に、茶い長髪を後ろで緩く結わえていた。
顔は戦場で見た王とよく似た、がっしり系のいい男だった。
私がしげしげと見つめていると、突然、むこうと目があった。
まずい、ぶしつけに眺めていたことに、気がつかれてしまったようだ。
私が内心焦っていると、何故か、向こうの王子に、笑いかけられた。
えっ、私に笑いかけてるの?
いや、まさか、そんなことないよね。
思わず振り向こうとした時、会場に入って来た王が王妃を伴なって、玉座についた。
全員が王に向かい、礼をする。
私も周囲の貴婦人たちを見て、同じように膝を曲げた。
王が手を上げる。
「今日は、和平条約が結ばれた祝いだ、皆のもの、心行くまで、楽しんでくれ。」
王の言葉に、自国の第一王子とその伴侶、それに敵国の第一王子と彼が連れていた女性が曲に乗って、中央で踊り始める。
二人とも超絶美形の部類なので、本当に映える。
思わず、周囲もそんな美形二人のダンスに、魅入られていた。
一曲終わると、惜しみない大きな拍手が、二人に送られた。
その後、順次、周囲にいた貴族たちが、踊り出し始めた。
私がぼんやりそれを見ていると、ホークに、グイッと腰を引かれた。
なんだと思っていると、先程踊っていた敵国の第一王子が、いつのまにか、私たちの前に、立っていた。
「やあ、宰相殿。」
敵国の第一王子は、気軽にホークに、声をかけた。
「これは、アンドリュー王子。舞踏会を楽しまれていますか?」
敵国の第一王子であるアンドリューは、苦笑いを浮かべて、ホークの問いかけに答えた。
「ああ、もちろん楽しんでいるよ。ところで、宰相殿がエスコートされている令嬢は、どなたかな?」
アンドリューが、いきなり私の事を聞いてきた。
げっ、なんで私の事を気にするの?
この隣にふんぞり返ってる、ホークのせいなら、今すぐ、こいつの隣から逃げ出そう。
私は心に誓った。
といってもアンドリュー王子に、声をかけられた時点で、今更、遅いような気がするけど・・・。
「彼女は異世界人で、現在、公爵家に滞在しております。」
ホークの紹介に、私はアンドリュー王子に挨拶した。
「黒井黒子といいます。」
私は、着物の裾を持つと、膝を曲げて礼をした。
「へえ、君がルドルフの弟子なんだ。もっと違う人物を想像してたけど、すっごく小さくてかわいいね。」
アンドリューの視線が、私の全身を、舐めるように眺めまわす。
なんだが、さっき見られていた貴族以上に、ねっとりとした視線だ。
いやだなぁ。
どうしてだが、こいつを今すぐに、無性に殴り倒したくなってきた。
私の思考とは逆に、アンドリューから変な提案がされた。
彼は胸に手をあてて、頭を下げると、
「どうか異世界の姫。私と踊って下さい。」
はあ。
今、こいつ、なんて言ったぁ。
まさか踊ってくれとか言わなかったよね。
この提案に、私の思考は活動を停止した。




