71.時機を逃す
薄暗くなった頃、私はブランに公爵家まで、送ってもらった。
公爵家の門の前で、ブランと別れると、いつものように門を潜った。
すると、入った途端、待ってましたとばかりに、メイド長のメリルがそこいて、いきなり腕をガシッと掴まれた。
「メリル、メイド長?」
私は、メリルに、ずんずん腕を引っ張られながら、屋敷の奥に連行された。
「あのー・・・。」
理由がわからず、後ろから声をかけるが、見事にスルーされる。
一体何があったのだろうか?
そう思っているうちに、豪華な扉の前に着くと、そのまま、その部屋に押し込まれた。
そこには、にこやかにドレスを持って、微笑む、スズ公爵夫人がいた。
「さあ、黒子。これを着てね。」
「えっ。」
私がキョトンとなっているうちに、いつの間にか、隣に来ていた、私より、かなり年若い茶髪のメイドさん達に、周囲を封鎖される。
ワキワキと動く両手に気を取られ、思わず逃げ遅れた。
しまった。
やられた。
私がそう思った時には、遅かった。
四方から伸びた手に、下着を取り去られ、コルセットという、拷問着を付けられていた。
「さあ、黒子。行くわよ。」
メリルのかけ声に、両脇に控えていた、年若い茶髪のメイドさん二人に、いきなり紐を締められた。
ギョィェーーー
不気味な呻き声と共に、私のウェストが細くなる。
二度、三度と同じことが繰り返された後、ガーターをつけられ、異国情緒溢れる着物バージョンドレスを着せられた。
もう精根尽き果てた所で、スズの声で我に返った。
「まあ、素晴らしいわ。さすがお父様と同郷の方ね。」
スズがそう私を褒めた時、隣の部屋から、先程の私が上げたのと、同じうめき声が聞こえた。
ギョィェー ぎゃぁー
ギョッとなって、恐る恐る隣の部屋のドアを見ると、やつれ果てた姿のマナが、ドアから現れた。
見るとマナは、私の世界にある袴バージョンのドレスを着ていた。
茶髪の髪をきれいに結い上げ、黒い瞳がキリリとしていて、藍色のグラデーションがかかった袴バージョンのドレスが、非常に似合っていた。
思わず見とれてしまった。
「すごいな。そのドレスを着こなすなんて。」
なぜか、見とれていると、逆にマナから絶賛された。
「いえ、そんなことは・・・。」
私がそう言うと、マナとスズが、そろって変な誤解をした。
「さすがお父様(お爺さま)の同郷ね。奥ゆかしいわ。」
いや、奥ゆかしいわけじゃ、ありません。
ぜったい。
私が反論しようとすると、部屋の外から声がかかった。
「もう、入って良いかい。」
そう言って、公爵であるクリスが現れた。
「入るぞ、マナ。」
副将軍のグリムも入ってくる。
「素敵だよ、スズ。」
クリスがすかさず、スズの腰を抱くと、マーメイドラインのドレスを着ていたスズを褒めた。
「ありがとう、クリス。」
スズがお礼のディープキスをした。
「美しすぎだ、マナ。」
グリムがマナの細い腰に手を添えて、キスをする。
私の周囲で、いきなり、ハートが飛び交い始めた。
二組のバカップルに囲まれ、いい加減何か言おうと、私が口を開く前に、違う人物が現れ、二組のイチャラブを止めてくれた。
「もう、行かないと遅れますよ。」
そこには、私が待ちに待った、腹黒宰相ことホークが、自分の瞳と同じ緑色に、黒い縁取りのされた礼服を、かっちりと着こなして、優雅に立っていた。
思わず、その魅力的な姿に、ボウーとなって、見惚れてしまった。
お陰で、見事に、文句を言うタイミングを逃してしまった。
異世界のイケメンの破壊力、恐るべし。




