07.異界の穴が出来た理由が判明しました。
私は、だじろいで、無言になった妖精に、答えを迫る。
妖精は羽ばたきながら、だんだん後方に下がっていく。
私が壁際まで追い詰めると、もう一匹いた妖精が庇うように、目の前に、飛んで来た。
「ぼくたちは、妖精王の命令で、君たちを幸せにするために、ここに来たんだ。」
もう一匹が、私の問いとは、関係ないことをいきなり喚く。
ちょっと、待て!
私は、今、そんなことは、聞いていない。
「もしかして、君たちの主である妖精王は、間違って穴を開けて、私とプーをこの世界に連れて来ておいて、戻せないから君らを代わりに使いに寄越し、幸せになるから、その事を忘れるようにとか、そーんな都合のいいことを、よもや考えているんじゃないよね。」
妖精二匹は、青くなりながら、頷いた。
「冗談じゃない。そんな都合のいいことが、世の中、通ると思ってるの。」
私が二匹に近づく。
「だから、私たちが今から、あなたたちが前にいた世界以上に、幸せになれるようにするって、言ってるのよ。」
「ほう、具体的にどういうふうに?」
私の目が据わっている。
「あなたたちの魂の片割れを、見つけてあげる。」
妖精が鼻高々にのたまった。
「ほう、魂の片割れね。でも、もしかして、その魂の片割れは、元いた世界にいるんじゃないの?」
妖精は、自信満々に言いきった。
「それはないわ。妖精王様が、そう言っていたもの。」
「ちなみに、その魂の片割れを見つけられると、なにかいいことでもあるの?」
私の質問に、妖精二匹は唖然としたようだ。
「あなたは、魂の片割れについて知らないの?」
「私がいた世界にはないので、知らないわ。」
私の答えに、二匹はさらに驚いたようだ。
二匹は気を取り直すと、私に魂の片割れについて説明した。
「魂の片割れとは、今までの転生輪廻で、何度もペアになった相手のことで、この二人が出会うと本当に愛し愛されて、幸せになれるのよ。」
二匹はどうだ、といわんばかりに、私の顔を見た。
私は肩を竦めて、そのままスルーした。
「ちょっと、待ちなさいよ。どこ行く気?」
「そりゃ、元の世界に帰れないと聞いたからには、とりあえず生きていくために、お金を確保する必要があるでしょ。だから、人がいる場所に戻ろうと思っただけよ。」
「はっ、なんですって?」
「生活するために、どこかで仕事を捜すってこと。」
私は理解出来るように、懇切丁寧に、二度も説明してあげた。
人間、魂の片割れより、明日のごはんだ。
食べられなければ、生きていけない。
「なっ、その前に、その甲冑を着なさいよ。」
何故か妖精は、また、私に甲冑を勧めてくる。
「なんで?」
「決まっているでしょ。そうしないと、あなたたちが生きていけないからよ。ここでは、魔法が使えないとだめなの。」
「なら、その甲冑を着れば魔法が、使えるようになるっていうこと?」
「いいえ、違うわ。その甲冑を着れば、魔法が使えないあなたたちが、魔法攻撃を受けても、死ぬようなことがないってこと。それに、今、この世界であなたたちが早く走れたり、強い力を使えるのは、今いる世界と前の世界の重力が違うせいなんだけど、その甲冑は、その力を、ずっと保ってくれるからよ。」
ちょっと、待て!
今なんか、さらっと、とんでもないことを言わなかった。
「この甲冑を着ないと、どうなるですって?」
私の問いかけに、妖精はなんでわからないんだという顔で、再度説明した。
「この甲冑を着けない状態で、相手に魔法を放たれれば、運が悪いと死ぬし、甲冑を身に着けないで、何か月も生活すれば、すぐに、ここの人間より、弱くなって、あっという間に、殺される可能性が高くなるっていっただけよ。」
おいおい、そりゃ、ないんじゃないの。
「こんな状態に放り込んだんだから、魔法力くらい最強にするっていうのが、普通の常識じゃないの?」
「それは無理よ。もとが異世界人であるあなたたちは、どうやっても魔法を使えるようにはならないわ。だから、今持っている人より早く走れるとか、力が強いっていうものを維持するための道具を、ここに用意してあるんだから、それで、十分でしょ。」
「はあ、なんでこんなので十分だっていうの? ここが、魔法の世界なら魔法を使えるようにするのが、ここに引き込んだ妖精王がやることでしょ。あなたたち、下っ端じゃ話にならないわ。妖精王を出しなさいよ。」
私がそう言うと、妖精二匹は、首をふった。
「「無理よ。」」
「なんで?」
「妖精王様は数百年に一回しか目を覚まさないの。今回、目覚めたばかりだから、後百年以上は起きないわ。起きない限り、私たちにも妖精王が、どこにいるかわからない。」
私は、二匹の話に、唖然とした。
なんて無責任な話なんだ。
いや、本当の話ではなく、ウソかもしれない。
「プー。」
私の呼び声に、プーは目をキランとさせると、妖精の一匹に飛びついて、地面に押し倒すと、ペロペロ舐め始めた。
「イヤン。うそじゃないから、止めさせてぇ・・・・・・。」
どうやら嘘をついているようでは、ないようだ。
私はプーに、お座りを命じた。
プーは妖精を離すと、尻尾を振って、私を見る。
仕方なしに、ポケットから犬用おやつを取りだした。
全部やってしまうと、後で困るかも知れないので、小さくして与えた。
本人は満足そうに齧っている。
さて、これは本格的に、あきらめて、あの目立つ甲冑を着るしかないか。
私は甲冑に手を伸ばした。
途端、洞窟中に眩い光が充満した。