06.霊峰富士で精霊に会いました。
私と愛犬プーは、アイリーン姫のログハウスで聞いた人物を捜しに、霊峰富士によく似た山を目指した。
幸いこの異世界では、私もプーも飛ぶように走ることができる。
私たちは、全速力で、山の麓を目指した。
ふと隣の愛犬プーを見ると、とても嬉しそうに走っている。
こいつ散歩と間違えていないか?
まあいいか、ようは着けばいいんだし。
私とプーは、あっという間に、山の麓にたどり着いた。
山を見上げる。
さすがに、素早く飛ぶように走れるとは言え、山は人間と犬にとってはデカイ。
目指すところを先に確認するべきか。
私がそう思って、山を見上げていると、一人のきこりが通りかかった。
「なにをしているんだね。」
純朴そうな爺さんきこりが、声をかけてくれた。
「あのですね、この山に異世界人が住んでいたと聞いて、見に来たんですけど、どの辺りだろうかと思って、眺めていたところです。」
「なるほど、そうさなぁ。ほら、あの中腹で光っている辺りが見えるかね。」
純朴そうな爺さんきこりが、キラキラしている山の中腹を指した。
私は素直に頷いた。
「あの辺りがそうさ。だが、気を付けなされ。あの辺りは、何かの魔法で守護されれているようだから、普通に行くと・・・・・・。」
純朴そうな爺さんきこりが気がつかないうちに、犬と変な格好な人物は、消えていた。
「あれま、素早いこった。まっ、行けても中には入れないので、無駄足だと思うがなぁ。」
純朴そうな爺さんきこりは、山の中腹を見上げながら、さらに呟いた。
一方、良い情報を得た私と愛犬プーは、ポップ・ステップ・ジャンプをしながら、まっしぐらに、山の中腹を目指した。
さすがに、上に行くにしたがって、息が上がってくる。
どうやら少し麓より、空気が薄いようだ。
ふと見ると、なぜか愛犬プーは元気だった。
こいつは疲れという言葉を知らんらしい。
私とプーは、少し苦労して、中腹にあるキラキラ光る場所に、たどり着いた。
「ここか。」
見ると、洞窟がぽっかり穴を開けていて、入り口は透明な膜に覆われていた。
「何これ。」
触ると、ポヨヨーンとして、割れないシャボン玉のような感触が、手に伝わって来た。
「まあ、いっか。行こう、プー。」
私とプーは、洞窟の入り口を覆う透明な膜を無視して、強引に中に押し入った。
パチンと派手な音がして、膜が割れる。
ちょっとびっくりしたが、入れたんだし、問題なしだ。
私とプーは、どんどん先に進んだ。
中は綺麗な光る壁に、覆われていた。
ちょっと触って見るが、触るとただ岩の感触が、手に伝わるだけだった。
これが金塊なら大金持ちなんだけどなぁ。
どうでもいいことを考えながら、洞窟を進むと、すぐに行き止まりになる。
そこには、立派な戦国時代の甲冑が置いてあった。
なんでここに、武士がつける甲冑があるの?
私が唖然として、それを見ていると、目の前に、ひらひらとこの間助けた小人が現れた。
小人はなぜか、ハアハアと荒い息をつきながら、私の目の前を飛んでいる。
「ちょっと、なんで声かけたのに、先に行くのよ。」
「声をかけた? 聞こえなかったけど。」
小人はイライラしながら、私の目の前に来ると、なんでか、目の前に置いてある甲冑を指差す。
「さあ、早くそれを着なさいよ。異世界人。」
「はぁ、なんで私が甲冑を着なければならないの。それにどう見てもこれは、私のサイズには、ぜったいに合わない。」
「大丈夫よ。着れば甲冑が、勝手に着た相手に合わせて、サイズを変えてくれるから、問題ないわ。」
「はぁ、そうだとしても、その甲冑を着なければならない理由が、私にはない。」
私は小人の提案を、にべもなく断った。
小人は羽ばたきながら、何かを考えると、おもむろに叫んだ。
「わかったわ。それ着たら、私が今あなたが一番知りたい情報をあげる。それならいいでしょ。」
「小人風情が、私の知りたい情報を持っているとは、思えないので、却下。」
「なっ、なにを言うの。それにさっきから小人こびとって、言ってるけど、私とブルーは、妖精であって、小人じゃないわ。訂正して頂戴。」
「はぁ、妖精ね。じゃ、その証拠は?」
「証拠は、今、目の前を飛んでいるじゃない。」
「虫も目の前を飛ぶんだから、それは証拠とは言えない。」
「虫は、金色の粉を撒いて、飛ばないでしょ。これは希少価値のあるマラカナイトよ。人間の世界では、すっごい価値があるんだから。」
確かに、虫は金色の粉を撒いて飛ばないし、妖精が本物なら、その羽についている金粉が、希少価値と言うのも頷ける。
さて、どうしたものか。
私が黙って考えているうちに、小人もとい妖精が違うことを言いだした。
「わかったわ。あなたがなぜ、ここに来たのか教えてあげる。」
妖精の思いがけない提案に、私は思考を中断して、顔をそちらに向けた。
「あなたたちは、妖精王が開けてしまった、異界の穴に落っこちて、この世界に来たのよ。」
なにー、妖精王が開けてしまった異界の穴だと。
「それじゃ。私たちは、当然、その妖精王とやらが責任を持って、元の世界に返してくれる、ということなんでしょうね。」
私は、妖精と名乗る人物に詰め寄った。
「えっと、だから・・・・・・。」
なぜか、そこを問い詰めると、妖精はあたふたして、無言になった。
おい、妖精、何か答えろ!!!