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05.腹黒宰相が現れました。

 結局、私とアイリーン姫がダイニングの隣にあったベッドルームに泊まり、ダイニングの床にイアンが布団を敷いて、寝ることになった。

「アイリーン姫、もしそのものが、何か怪しい行動をとったなら、すぐに叫んでください。私が駆けつけますので。」

 イアンはそう何度も、アイリーン姫に説いてから、部屋から出て行った。

 思わず姫を見ると、さすがに呆れて、溜息をついている。

 私が一体、アイリーン姫に何をするっていうんだ。

 私は、同性愛者じゃないんだけどなぁ。


 その後、私は借りたベッドに寝るために、外で井戸を使い、緑色の粘々がついたコートとセーター、ついでに洋服を洗うと、外に干した。

 今はアイリーン姫に借りた寝間着を着ている。

 かなり胸の部分がゆったり、いやはっきりいえば隙間が有り過ぎるが、この温度なら明日には乾くので、問題ないだろう。

 私がベッドに上がろうとすると、アイリーン姫から、突然、とんでもない告白を受けた。

「あのー、驚かないでほしいんだけど、私前世を憶えているの。それで私の前世って、日本人なの。」

「えぇぇーー。」

 なんと驚いた。

 この世界には、異世界に落ちた人間だけじゃなく、転生者までいたとは思わなかった。

 結局、それからアイリーン姫の前世語りを、明け方まで、聞くことになってしまった。

 彼女は中学生くらいの時に、病死して、こちらの世界に転生したらしい。

 しかし、話を聞く限り、時代は私とほぼ同時期のようだ。

 なのに、彼女はもう今、16歳と言うことは、単純計算すると、こっちの一年間は向こうのおよそ12年間に、相当することになる。

 もし時間を遡ることが、出来なければヤバイことになる。

 あっと言う間に、無断欠勤になって、苦労して入った会社を首になる。

 いくら心労があろうが、私の老後が危うくなってしまう。

 そんなことを考えているとは、知らないアイリーン姫は、私の不安顔を気にすることなく、朝方まで語ってくれた。


 アイリーン姫から事情を聞いた翌日。

 丸太小屋に、王都にいる宰相が訪ねてきた。

 言っちゃなんですが、全身が光り輝ような美男子が突然、小屋で朝食を食べていた三人の前に出現しました。

 この国の水準は、どうなっているんだ。


「アイリーン、入りますよ。」

 美男子は、そういって、いきなりドアを開けて入ってくると、こじんまりしたテーブルに座って、朝食を食べていた一同を見た。

「これは、イアンと見慣れないお嬢さんがいますね、アイリーン。」

 アイリーン姫と同じ銀髪で、こちらは茶色の瞳で、眼光鋭い美男子が厭味ったらしい言い回しで、私を指した。


「「ホーク!」」


 イアンとアイリーン姫が同時に叫ぶ。

 イアンは叫んだと同時に、ホークと呼ばれた男に掴み掛った。

「お前がついていながら、なんでアイリーン姫が、侍女もいないような、こんな粗末な小屋に住んでいるんだ。早く説明しろ!」

 ホークは首元を締め上げていた、イアンの手を苦も無く解くと、彼の軍服の襟元を逆に引っ掴んで、同じように締め上げると、美麗な笑顔を浮かべて、返答した。

「お前がいつまでもグズグズしているうちに、アイリーンに刺客が放たれる事態になったんで、一旦ここに避難して貰ったんだ。それが不服ならとっとと、姫と同衾でもして、早く公に姫を守れ、アホ。」

 ホークは言いたいことを言うと、イアンの襟を離した。

 イアンは真っ赤になって、口をパクパクしている。

 アイリーン姫を見るが、彼女には聞こえなかったようで、愛らしく小首を傾げて二人を見ている。

 私は、さっさと食事をかき込むと、席を立った。

「それじゃ、ご馳走様でした。私はこの辺で、お暇させていただきます。」

 アイリーン姫は慌てて、私を引き留めようとした。

「まだ、その・・・・・・。」

 引き留める理由がなく、なぜかホークを見る。

「ねえ、ホークからも、なにか言ってくれない。もう少しここで、ゆっくりして行ってほしいのよ。」

「ゆっくりも何も、私は彼女を全く知らないのですが、どちらさまなのでしょうか?」

 アイリーン姫はハッとすると、慌てて私のことを説明する。

「ホークが興味を持った前世の私と、同じ世界から来た人なの。」

「ほう、つまり、あなたと同じような生まれ変わりだと言うことですか?」

「ううん、違うの。彼女は生まれ変わりじゃなくて、そのまま私の世界からこっちに来ちゃった人なのよ。」

「はぁ、今なんと言ったんですか?」

 ホークと言う人物が唖然としている。

 美形は、唖然としても、美形なんだなと、なぜか私は感心してしまった。

「だから、こっちの世界に、あっちから、そのまま来ちゃった人なの。」

 ホークは私をまじまじと、全身舐めるように見た。

 なんだか、かなり居心地が悪い。

「なにか証拠になるものでも、ありませんか。」

 私は肩を竦めた。

 そんなことを急に聞かれても、逆に何が証拠になるのかも、わからない。

「さあ、そんなもの別にないんで、じゃ、アイリーン姫。昨日は、泊めていただきありがとうございました。」

 私は、そう言って、小屋を出て行こうとした。

 そこにホークの呟きが聞こえた。

「そう言えば、何年か前に、あの山の中腹に、同じような境遇の人物が、住んでいたような話を聞いたことがありますね。」

 私はくるりと振り向いた。

「どの山?」

 ホークは小屋の窓から見える山脈を指差した。

 山頂はまだ、雪をかぶっている。

 見ると富士山にそっくりだ。

 霊峰富士というくらいだ。

 何かのヒントがあるかも知れない。

 私は愛犬プーを連れて、その山に向かうことにした。

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