36妖艶な美女
私は、障子越しの影に釘づけになった。
影の男の手が、包丁を小刻みに動かすたびに、音が響き、その匂いが甘みを増して、周囲に漂ってくる。
トントン
グツグツ
トントン
グツグツ
それは、単調に繰り返された。
ちょうど子供用の影絵が上映された時のようだ。
気がつくと私の手は、その障子に伸びていた。
なんだかわからないが、障子を開けて、中を覗き見てしまいたいという、欲求に胸がせり上がってきた。
我慢出来なくなって、障子を開けようと伸ばした、その手を、誰かに掴まれた。
横を見ると、そこには公爵家のメイド長であるメリルが、私が今まさに、障子を開けようとした手を握っていた。
「あのぉーですね。これは、そのぉー。」
私は、なんて言い訳していいかわからず、口ごもった。
メイド長であるメリルは、にっこり笑うと、なぜか戸惑っている私をお風呂に誘った。
私はどうしたらいいかわからず、彼女につれられるまま、浴室に連行された。
ここの浴室は、純和風で、今のいままで知らなかったが、どうやら、24時間使えるみたいだ。
メリルは、脱衣所で、束ねていた綺麗な赤毛の髪を解くと、洋服を脱いで、浴室に入っていった。
ふと見ると、彼女の背には、白い肌に鬱血した赤い痕が点々と、身体中についていた。
思わず、その痕に、目が釘付けになる。
私はその場で、呆然と固まって、しまった。
そこに浴室にさきに入ったメリルから、声がかかった。
私はハッと我に返ると、彼女の後から、自分も洋服を脱ぐと、浴室に入っていった。
中に入ると、彼女は体を洗って、ちょうど湯船に浸かるところだった。
私も体を洗うと、湯船に浸かる。
目の前にいる人は、私よりだいぶ年上のはずだが、若々しく見える。
それ以上に、うらやましいのは、胸がかなり豊かなことだ。
メイド服を着ているときにも思ったが、裸だとそれは、想像以上のボリューム感に溢れていた。
それにしても、その胸にも残る赤い鬱血痕は、誰がつけたものなのだろうか?
聞いていいのやら、無視すべきものなのか?
私は、視線をウロウロと、さまよわせた。
それを見ていたメリルから、私に話が振られた。
「気になる?」
「えっ、えっと、何がでしょうか?」
どう答えていいのか、わからず、しどろもどろになってしまった。
メリルは、くすっと笑うと、違う質問にしてくれた。
「黒子さんは、独身でしょ!」
私は彼女の真意が、わからなかったが、素直に頷いた。
「でも、この痕が何かは、知っているのね。」
メリルの質問に、私は真っ赤になりながら、頷いた。
一応、それがなんで出来るかの、知識はある。
ちなみに、そんなものは、これまで生きて来て、つけられたのは愚か、つけられた人を見たこともなかった。
今、現在、目の前で見せつけられているのを、見るのが、正真正銘、うまれて、初めてだ・・・。
彼女はうろたえる私を楽しそうに見ながら、こんな事をのたまった。
「これは、全部あなたのせいよ、黒子!」
なんですとぉー。
その痕が、私のせいとは、聞き捨てなりません。
「どういうことでしょうか? 私のせいとは?」
私は思わず、きつい口調で、相手を問い詰めてしまった。
彼女は気にした風もなく、私の顔を見て、うれしそうに答えてくれた。
「彼をあなたが楽しませるから。あの人ったら、その腹いせで、夜がこのところ、すっごくって、とても大変なのよ。」
私は彼女の答えに面喰った。
私が彼を楽しませたっていう、その彼とは、一体、誰の事でしょうか?




