32早朝訓練
朝食後、グリムとマナ、それにホークの三人は、魔法で王宮に行くのではなく、公爵家の馬車で向かった。
私は、彼らを見送った後、ルドルフと一緒に、徒歩で、北門の砦に向かった。
ルドルフは、今日もバスケットを抱えていた。
チラッと私が、バスケットを見ると、にこりと笑って、中身を教えてくれた。
「訓練の後に、隊長室でお出ししますよ。ちなみに、本日は、イチゴのショートです。」
「イチゴ?」
私の声にルドルフは、さらに付け加えた。
「この間のご旅行先より、マナ様が”幻のイチゴ”をお土産に持って帰られましたので、本日は、それを使って作りましたのが、こちらのバスケットに入っていますイチゴのショートです。」
「幻のイチゴ!」
私の脳裏に、幻のイチゴの言葉が刻み込まれた。
食べたい。
今、すぐ、食べたい。
私の心の声が聞こえたのか、ルドルフから、”待て”の一言が加わった。
「ちょうど、訓練後の時間が食べ頃ですから、訓練が終わってから、お出ししますね。」
私の頭の中で、”訓練が終わったら、幻のイチゴのショートケーキ”が食べられる。
訓練が終われば、幻のイチゴのショート!
この言葉が、深く浸透した頃、北門の砦に着いた。
「おはようございます。」
ルドルフが、にこやかに挨拶した途端、最敬礼した門番の兵士が、両手両足を同時に出しながら、私たちを訓練場まで、案内してくれた。
訓練場には、すでに大勢の兵士が、待っていた。
すぐにブランが、私たちの所に来た。
「おはようございます。ご要望通りの人員を集めておきました。」
「ありがとうございます。では、準備体操代わりに、この訓練場を50周ほどして、いただきましようか。」
ルドルフは、にっこり微笑んで、そうのたまった。
「ご・・・ごじゅっ周ですか?」
流石のブランも、ちょっと頬が引きつっている。
「おや、50周では、少なすぎましたか?もう少し・・・。」
ルドルフの言葉を、後ろにいたシルバーが遮ると、全員を先導して、走り出した。
私が唖然とルドルフと砦の兵士とのやり取りを見ていると、彼が急に、こちらを振り向いた。
「では、両手を出して下さい。黒子さん。」
「手ですか?」
私は何だろうと思いながら、ルドルフに手を差し出した。
ルドルフはどこから出したのか、綺麗な色のバングルを私の両手に装着した。
私が、疑問符を浮かべていると、ルドルフから声がかかった。
「では、私たちも準備運動をしましょうか」
「えっ。」
気がついた時には、ルドルフに引きずられるように、訓練場50周に参加していた。
最初の10周目は、全員、元気だった。
次の20周目で、三分の一が脱落した。
それからは、5周ごとに脱落者が増えて行き、最後の50周を完走したのは、前回隊長室でケーキを食べた、シルバー、ブラン、それに昨日、私をいろいろ案内してくれたパキ、それに私と指導役であるルドルフだけだった。
「おや、おや、困りましたね。指導前の準備運動で、こんなに脱落ですか?」
いや、逆に50周完走して見せた三人の方が、異常なんじゃないだろうか。
私は地球の重力で運動していたので、地球で言う中学校のグランドで10周するくらいの間隔だけど、こっちの人間の感覚じゃ、もっときついんじゃないの?
私がそう思って、見ていると、シルバーが準備運動に参加していない兵士に、模擬刀を持ってくるように、合図していた。
「私の方で、早急に準備運動くらいで値を上げないように、訓練しておきますので、今日はこのメンバーに、指導をお願いします。」
シルバーが汗で滴っている銀髪を搔き上げながら、ルドルフにお願いした。
「そうですか、では。皆様、お好きなように、模擬刀で斬りかかって、来て下さい。ああ、私が暇にならないように、二人交代でお願いします。」
ルドルフは、そう言って、バスケットを右手に持ったまま、剣を正眼に構えた。
私は、思わず叫んでいた。
「幻のイチゴのショートがぁ・・・こ・・・壊れます!」




