31礼儀作法
ルドルフの手により、メイン料理が作られ、六人はそれぞれ夕食の席に着いた。
公爵に始まり、順に料理が運ばれてくる。
私は、それを見て、唖然とした。
「えっ、和食!」
ごはんに、味噌汁に、サンマらしきものの塩焼き?
えっ、でもなんで?
私が疑問符を連発していると、スズが説明してくれた。
「基本、公爵家の食事は、朝と晩は和食よ。昼は、クリスのご要望で、こっちの午後の紅茶を取り入れているけど、基本は和食なの。」
スズはにっこり微笑んで、私に説明してくれた。
私は唖然としながら、箸を手にとった。
「あなたは、他のものの方が、よかったかしら?」
心配したスズが声を掛けてくれた。
「いえ、そんなことはありません。ただあまりにも以外だったもので、ちょっとびっくりしただけです。」
「そう、なら良かったわ。」
スズがそう言うと、夫であるクリスに目を向けた。
クリスが手を合わせると、全員がそれに倣う。
「「「「いただきます。」」」」
その後、全員が箸を手に取って、食べ始めた。
私は慌てて、遅れながらも、”いただきます”を言うと、箸を持った。
私が箸を持った瞬間、なぜかルドルフから、殺気のような鋭い視線を感じた。
私がそちらに意識を向けると、それは、すぐに霧散してしまった。
どうしたんだと思って、周囲の様子を見ると、唖然とした。
スズやマナは、わかるとしても、クリスもホークも、器用に箸を使って、和食を食べていた。
ふと気がつくと、その中で、グリムだけが、箸に悪戦苦闘しているようだ。
周りに、ボロボロと料理がこぼれている。
綺麗な顔をしている分、そのしぐさが、思いっきり残念に映る。
私は、なんとなく気になって、それをチラチラ見ながら、食事を終えた。
最後に、メイドさん達が、熱い緑茶を持って来てくれた。
思わず味わえた和食に大満足しながら、お茶を飲んでいると、ルドルフがみんなに羊羹を持って来てくれた。
羊羹なんて久しぶりだ。
「まあ、これ新作ね!」
思わず、スズから感嘆の声があがった。
「なんと、ここでルドルフの新作を食べられるとは。本当に家に帰って来て、良かったっと思う瞬間だな。これは・・・。」
マナの言葉に、スズが頷いている。
なんか、そんなことでいいのかと、私は思ったが、ここは口に出さない方がいいだろうと思って、だまっていた。
「さあ、皆様。緑茶と一緒に、味わって下さい。」
ルドルフに促され、全員が羊羹を食べた。
途端、チーズケーキ以上の感動を味わった。
なんだ、この舌の上で、蕩けるようにうまい羊羹は?
すご・・・凄すぎる。
私は思わず唸っていた。
「これは、店どころか、王宮に出せる味だわ。」
スズがそう言葉に出して、賞賛した。
「うん、さすが、ルドルフっていう味だね。」
マナも絶賛だ。
「次回宰相室に来るときは、こちらのものを持って来てほしいね、ルドルフ。」
ホークの声に、ルドルフは満足げに答えた。
「畏まりました。」
ルドルフがクリスを見た。
「私の意見は、スズと一緒だ。とても美味しいよ、ルドルフ。」
最後にグリムを見る。
「美味しいです。」
ルドルフが一歩下がった所で、全員が食事を終え、”ご馳走様”と言うと席を立った。
私も皆に倣って席を発つ。
ふと見ると、ルドルフがグリムの後ろに立って、何か呟いていた。
グリムの顔が、真っ青になる。
私が唖然と見ていると、マナがグリムの肩を叩いて、
「だから私は、旅先でも、箸の練習は、欠かすなと言ったんだがなぁ。」
と言うと、さきに食堂を出て行った。
見ていると、多量の豆が載った平皿と何もない平皿が、グリムの前に置かれていた。
「では、最低30回は、往復しましょう、グリム様。」
そう笑顔で囁く、ルドルフがそこにいた。
私は、箸の使い方を厳しく躾てくれた、母に感謝しながら、食堂を後にした。
翌日、私は、目の縁に隈をつくったグリム様が、項垂れた様子で、朝食の席についているのを発見した。
私は昨日以上に、気合を入れて、その日の朝食に臨んだ。




