26.異世界で腐女子に遭遇しました。
ブランに連れられて、リボンは隊長室にやって来た。
ブランは、すぐにノックをすると、先程と同じように、返事も聞かず、部屋の中に入った。
「何用なの? ブラン。私は、今、忙しいのよ。後にして、ちょうだい。」
シルバーは、なにかの書類を見ながら、顔も上げずに、文字を書き続けていた。
「すごい、声も聞かずに、相手がブランって、わかるなんて、これこそ愛だわ。」
リボンは、手を胸の前に組みながら、うっとりと二人の会話を聞いている。
「隊長、いったい何やってるんですか? よもや仕事とか言わないですよね。隊長が仕事をするなんて、明日は槍が降りますよ。」
「失礼ね。私だって、やりたくてやってるわけじゃないわ。でも、今日中にやる必要があるから仕方なく、やってるのよ。ブランも話す暇があるなら、上官の私の為に、お茶でも入れなさい。」
「今、入れますよ。ちなみに、今こちらにチャゲ隊長の奥様が来ていますので、後は宜しくお願いします。」
ブランは溜息をついて、一言いうと、隣の部屋に消えた。
リボンは、二人の様子を食い入るように見つめていてが、ブランから話を振られ、慌てて挨拶した。
「あのー、シルバー隊長。本日は夫のチャゲを助けていただき、ありがとうございます。」
「別に、私だけが助けたわけじゃないわ。あなたの隣にぼけっと立っているチビッ子も、一緒よ。そっちに、お礼を言いなさい。」
シルバーはそう言うと、いつのまにか、良い香りがするコーヒーを持って、部屋に戻って来たブランからカップを受け取る。
ブランは、それを傍のテーブルに置くと、リボンに声をかけた。
「よろしければ、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
リボンも座ったので、私も雰囲気に流され、ソファーに腰を下ろした。
コーヒーのいい香りが、部屋に漂っている。
一口飲んでみた。
「「おいしい!」」
リボンとハモった。
でも、本当においしい。
マイルドで酸味もあり、日本で飲んでいた喫茶店にも負けない味だ。
「よかったです。」
ブランは、にこりとして、本人もソファーに持たれて座った。
「本当に、無駄にお茶入れは、美味いわね、ブラン。」
「無駄は余計ですよ、隊長。素直に、おいしいといえばいいでしょ。」
「だれも不味いとは、いってないわよ。そういえば、チャゲの容態は、どうだったの?」
シルバーの問いかけに、コーヒーを味わっていたリボンが答えた。
「お陰様で、目が覚めれば、もう帰って良いようですが、今日一日は、こちらで先生に見てもらう予定ですわ。躾はその後、しっかりやりますから、もうこんなことは、起きません。」
リボンの断言に、シルバーは目を瞠った。
「躾ね。さすがチャゲの奥様ね。心強いわ。ではチャゲの件は、あなたに一任するわ。将軍の方には、私から話しておくから。ちなみに、なんで公爵家の執事の件を、チャゲは知らなかったのに、あなたは知っていたのかしら?」
シルバーの鋭い視線に、リボンは、微笑って返した。
「私、チャゲと結婚する前まで、北門の医務室で、看護婦をやっていましたので、ドクターとはかなり懇意にしてましたの。結婚したら、なんだかチャゲが、煩かったので、一旦は、職場を辞めたんですが、馬鹿が南門に配置転換されるなら、また、ここで働こうと思っています。それに明日からは、なんだかおもしろいものが見れそうなんで、ぜひとも、こちらで働くつもりです。」
シルバーは、目を見開いた後、呟いた。
「ドクターに異存がなければ、私にとっては、問題ないわ。」
「まあ、さすがシルバー様ですわ。」
リボンは、うれしそうにすると、ブランが入れたコーヒーにまた口をつけた。
「ただし、チャゲがイエスと言わなければ、ダメよ。そこは、問題ないのかしら?」
「ご心配には、及びませんわ。そこも、私が、しっかり躾ますので、ご心配なく。」
リボンは、にこやかに笑うと、コーヒーを飲みほした。
「こちそうさまでした。私、これからドクターの所に戻りますわ。明日から、よろしくお願いしますね、皆様。」
リボンはそう言うと、満面の笑みで、隊長室から出て行った。
私は彼女の背中を見て、感慨深げに呟いていた。
「この世界にも、腐女子が存在していたとは、思わなかったなぁ。」
二人は私の言葉を聞き取ったようだが、意味までは分からないようだった。
見ていると、目線を合わせて、お互い、首を横に振っていた。




