25.チャゲの奥様、現れる。
私たちが隊長室でケーキと紅茶を食べ終わり、ルドルフさんも帰った所に、いきなりパキが駈け込んで来た。
「シルバー隊長、ブラン副隊長、助けて下さい!」
「うるさいわね。何を騒いでいるの?」
「今、砦にチャゲ隊長の奥様が来てるんです。それで隊長に合わせろって、言われて、馬鹿な隊員がチャゲ隊長の容態を奥様にしゃべっちゃって、それで・・・。」
パキはオロオロして、喚いていた。
「まったく、この砦は、ほんとうに騒がしいわね。」
シルバーはそう言うと、ブランを見た。
「分かりました。俺が行ってきますよ。」
ブランが出て行こうとしたので、私も後について行った。
この隊長室に残っていても、仕方がない。
ブランとパキについて、砦の入り口に向かうと、小さな可愛い巨乳の女の子がいた。
「早く、ここを通しなさい。私は、チャゲの妻なのよ。」
近づいて見ると、ピンク色の髪をした、どう見ても十代にしか見えない。
「「えっ、あれが奥さん!」」
思わず、私とブランが、ハモってしまった。
「ええ、あの方がチャゲ隊長の奥様です。ちなみに、ここだけの話、年齢は、チャゲ隊長より上の28歳です。」
パキが、こそっと教えてくれた。
ウソー、あれで28歳って、ことは、私と同い年!
見えないって、いうか・・・。
「もしかして、チャゲ隊長って、ロリコン!」
私の口をパキとブランの手が塞いだ。
しまったぁ。
本音が漏れた。
私の声が聞こえたのか、チャゲ隊長の奥様が、こっちに歩いて来た。
ブランがその姿を見て、すぅと背筋をただすと、お辞儀をする。
パキと私は、ブランの行動に目を瞠った。
「始めまして。私は南門より、本日付で北門に配属になりました、ブランと申します。今、パキに案内させますので、どうぞ、こちらに。」
「やっと、話が分かる人に会えて、うれしいわ。私、チャゲの妻で、リボンと言います。よろしく。では、案内をお願いします。」
ブランはパキに、目線で案内しろと言った。
彼は頷くと、先に立って、歩き出した。
「あのー、チャゲ隊長は、そのぁー。奥方を案内するなと、おっしゃって、いたんですが・・・。」
パキは不安そうに、目線を一瞬、後ろに向け、また歩き出した。
「そう、私を案内するなと、チャゲが部下に、命令したのね。」
リボンは、悪魔も裸足で逃げ出すような、声でパキに確認をとった。
「えっと、はい、そうです。」
パキには、とても、ウソは、つけなかった。
他人の事より、自分の方が人間大事だ。
「大丈夫よ。あなたに迷惑はかけないから、安心して、ちょうだい。」
リボンは、どう考えても、安心できないような声で、パキに答えた。
後ろから、黒いオーラが漂ってきて、悪寒がする。
しばらく歩くと、砦内にある簡易ベットが置いてある部屋に、到着した。
隣室には、砦の医務室があり、今は軍医の爺さんが、チャゲ隊長の容体を見ていた。
リボンは、迷わず軍医がいる部屋のドアをノックした。
中から返事があったので、ドアを押して中に入った。
「おう、リボンじゃないか。元気にしてたか?」
かなり高齢に見える人物が、皺だらけの顔で、笑いかけてきた。
リボンは、深々とお辞儀をすると、お礼を言った。
「うちのチャゲがご迷惑をおかけしました。ありがとうございます、先生。」
「まあ、なんだ。今は眠っているから、躾は、後でやってくれ。それと、そこにいるお嬢ちゃんが、チャゲを救ったようなもんだ。礼なら、その子に言いな。」
リボンは、ビックリすると、くるりと後を振り向いた。
「まあ、こんな小さい方が、助けてくれたなんて、知らなかったとはいえ、ありがとうございます。」
リボンに深々と頭を下げられ、私はドギマギした。
つい、流れで、ついて来てしまったが、こんなことになるんなら、どこかで時間を潰せばよかったと、ちょっと後悔した。
それに、こんなに小さい人に、小さいとは、なんだか言われたくない。
「えっと、確かに、私も間には入りましたが、どちらかと言うと、シルバー隊長が助けたようなもので・・・。」
私の言葉に、いきなり、リボンは飛びついた。
「まあ、この砦にシルバー隊長がいらっしゃるんですか?」
私が頷くと、リボンはなにを思ったか、ブランにズズッと近づいた。
それも満面笑顔なのだが、なぜか周囲が引くほど、恐ろしい雰囲気が漂っていた。
「それじゃ、まさか、ブランと先程おっしゃったあなたは、シルバー隊長の副官であるブラン様ですか!」
ブランは、なぜか、後ろに下がりながら、頷いた。
「まあ、なんてこと。でも、なんで南門にいた、お二人が北門に?」
「今日付けで、隊長も配置転換されました。」
ブランが、付け加えて説明した。
なぜか、リボンのテンションが、さらにヒートアップした。
「南門にいたお二人が一緒に、北門に配置転換・・・。なんてことでしょう・・・。これこそ、噂の酒池肉林・・・。」
なぜか、へんなことを呟いている。
私には、酒池肉林って、聞こえたんだけど、まさかね。
私が今聞こえて来た呟やきを反芻している間に、彼女はブランに迫っていた。
「ブラン様。私、チャゲのことで、お礼を言いたいので、隊長室にお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。よろしければ、ご案内しましょうか?」
ブランの申し出に、リボンは喜々として答えた。
「ぜひ、お願いします。」
たまには、馬鹿チャゲも、役に立つのね。
私の妄想が現実化するなんて。
もう一度、ここで、働かなくっちゃ。
こんな美味しい職場、他にはないわ。
私の耳には、リボンという人がそう呟いたように聞こえた。
でも、まさかそんなことを言うはずがない。
と思いながらも、私は、背後から、小さな彼女の背を、マジマジと凝視してしまった。




