22.公爵家執事ルドルフ
「なにやってるんですか、隊長?」
呆れ顔でブランが問いただす。
なにって、ナニしてる最中にしか、私には見えないんだけど、違うんかい。
私は思わず、心の中で突っ込みをいれていた。
「なにって、チャゲが俺の方が強いっていうから、ちょっと、腕試しをしてたんだけど。」
「腕試しをするなら、訓練場でお願いします。ここでは、高価な備品が壊れますので、お二人とも、ぜったい、やめて下さい。」
「相変わらず、堅いわね、ブランは。」
シルバーの軽い返事に、ブランは最終兵器を出した。
「ちなみに、今度、高価な備品を壊したときは、お二人の給料より、差し引く権限を宰相閣下より、直々にいただいていますので、それでよろしければ、どうぞ、ご随意に!」
ブランの一言に、二人は押し黙った。
二人を黙らせたブランを、チャゲの副官とパキが尊敬の眼差しで見ている。
かくいう私も、彼の華麗なお手並みに、尊敬の念を抱いた。
私とパキが感心して、ブランを見ていると、北門の砦の入り口で会った、もう一人の兵士が、ノックをしてから、チャゲの了承を得て、中に入ってきた。
「どうした?」
シルバーの羽交い絞めから解放されたチャゲが、面倒くさそうに聞く。
「今、公爵家の執事が尋ねて来て、こちらの書類を、隊長に渡すように、言われたのですが?」
兵士から書類が、チャゲに渡された。
「ちょっと、なんでチャゲに渡すのよ。隊長は私でしょ?」
「へっ?」
兵士は横合いから、睨まれて、しどろもどろになる。
「まだ、引継ぎが終わっていないんだ。問題ないだろ。」
チャゲはそう言って、書類を開いた。
和紙には、きれいに流れるような字体で、公爵家の執事ルドルフの北門の砦における、兵士訓練の補佐を行うことが、将軍と副将軍の連名で書かれていた。
「兵士訓練の補佐だと!おい、本人はどこにいる。」
チャゲの怒鳴り声に、兵士は恐々答えた。
「はい、ただいま砦の入り口にて、お待ちいただいております。」
「今、すぐ訓練場に案内しろ!」
チャゲは怒りもあらわに、そう言うと、執務室を飛び出していった。
「あらあら、本当にチャゲは、忙しないわね。」
シルバーは呆れ顔で、綺麗な銀髪を搔き上げると、溜息をついた。
「いいんですか、止めないで? 相手は一般人じゃ・・・。」
ブランがそう言うのを、シルバーは、人の悪そうな笑い声で遮った。
「一般人ね。確かに、今の身分は、そうだけど、・・・。」
シルバーはそう言いながら、ちょっと嫌そうな顔をした後、隊長室に残っていた面々に言い渡した。
「ブラン、それに残りの二人もついて来なさい。チャゲが執事に、殺されないうちに、救出に行くわよ。」
シルバーはそう言うと、隊長室から走り出た。
「ちょっ、どういう意味ですか? なんで、チャゲ隊長の救出なんです。」
シルバーは後ろからついて来るブラン達に、教えてやった。
「彼の通り名は、レジェンド・オブ・ルドルフよ!」
「ちょっ、それって、重量山で修行をした名剣士のことじゃありませんか。彼は、確か、だいぶ前に、死んだんじゃないんですか?」
「それは、単なる人のうわさよ。実際は、引きも切らない弟子志願者から隠れるために、表舞台から引退して、公爵家の執事になったのよ。」
「なんで、その事をあなたが知っているんですか?」
ブランの問いかけに、シルバーが答える前に、訓練場に辿り着いた。
訓練場では、剣を構えたチャゲと何故かバスケットを抱えた執事が試合会場で、対峙している姿が、そこにあった。
周りでは、はやし立てる北門の砦にいる兵士の姿があった。
「くそっ、間に合わなかったか。」
珍しく毒を吐くシルバーの声が、三人に届いた。




