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21.北門の砦で

 私が北門の砦で、命令書をチャゲ隊長に見せていると、後ろから誰かが近づいて来る気配がした。

「なかなか楽しい試合だったわよ、チャゲ。」

 後ろから美しいテノールボイスが響いてきて、思わず、背後を振り返ってしまった。

 だれだ、この声?

 見るとそこには、サラサラとした美しい銀髪を後ろで結わえ、目の前にいる男とは、対照的なきれいに整った顔の人物が、黒い隊服を着て立っていた。


「シルバー。なんで南門の隊長であるお前が、ここにいるんだ?」

 チャゲの質問に、シルバーは、和紙に書かれた命令書を見せた。

「まだ北門に来て、三か月だぞ。何かの間違いじゃないのか?」

 チャゲが疑わしそうに、シルバーが持って来た配置変更の命令書を眺めていると、北門の副官が訓練場にやってきた。


「チャゲ隊長。王宮より配置変更の命令書が届いています。」

「なんだと。」

 チャゲは自分宛に届いた命令書を広げて見ている。

「どうやら、間違いないようだ。俺と一緒に来い、シルバー。隊長室で引継ぎをする。」

「強面のチャゲの顔なんか眺めたくないけど、仕方ないわね。」

 シルバーの発言にムッとしながらも、チャゲは黙って先を歩いて行く。


 私は慌てて、二人に声をかけた。

「あのー、私はどうすればいいでしょうか?」

 二人のうち、シルバーが振り返って答えた。

「うちのブランに、砦内を案内してもらいなさい。じゃ、ブラン。後はお願いね。」

「ちょ、隊長。俺、北門の砦は、初めて、なんですけど。」

 ブランの呟きは、まるっと無視され、二人は行ってしまった。

「あのー、良ければ俺が、二人を案内しますよ。俺、パキって言います。」

「俺はブランだ。今度、北門で副官をすることになった。宜しく頼む。」

 二人が挨拶を交わすと、私を見た。

「黒井です。」

 礼儀正しい日本人の私は、お辞儀をした。

 二人は不思議なものを見る目で、私を見ている。

「君、もしかして、王宮でメイドをしていたの?」

 ブランから質問が飛んだ。

「いえ、就職しようとして、試験を受けたんですが、落ちました。」

 今、思い出しても、腹がたつ。

 魔法が微力でもあれば、私は今頃、王宮でメイドになっていたはずなんだが。

 私がそう考えて、顔を曇らせていると、気まずい雰囲気を察した、パキが砦の中を案内するため、先に立って歩き出した。

 ブランもパキの後について、砦の中に向かった。

 私は考えるのを止めて、二人について行った。


 砦の中は、かなり広々としていた。

 まず入ってすぐに、食堂があった。

 中は当然男ばかりで、汗臭さが漂っていたが、厨房からは、それなりに、美味しそうな匂いが漂っていた。

 次に、当直時に使う簡易用のベッドを見せられ、トイレも案内された。


 はっきり行って、ここで男の人と、一緒にトイレに入るのは、勘弁してほしい。

 私の渋い顔を見て、前を歩いていたブランが、声をかけてくれた。

「大丈夫。後でトイレの件は、俺がシルバー隊長に、掛け合ってあげるよ。」

「でも、新人は普通・・・。」

 パキの言葉をブランが遮った。

「言いたいことはわかるけど、小さいとは言え、女の子が入っているトイレに、入りたい?」

 ブランの問いかけに、パキはブンブンと大きく首を振った。

 ブランは心配顔の私の頭をごつい手で撫でると、優しく微笑みかけてくれた。

 彼の目が、小さい子は、心配するなと言っているが、間違いなく年は、私の方が上なんだけど、この誤解は、解いた方がいいんだろうか?

 私は彼の顔を見た後、諦めた。

 本当の事をいっても、この見た目では、間違いなく信じては、もらえないだろう。

 そのうちわかるからいいやと、私はこの件を放置することにした。

 ちなみに、その後で、砦で働く兵士以外のおばさん達に、紹介された時は、この容姿のお蔭で小さい子がガンバルねと、頭を優しく撫でて貰った後、二度も言いたくないが、三十路近い大人なのに、なぜか断り切れず、飴までもらってしまった。


 そして、三人は、最後に、隊長室にやって来た。


 ブランは、無造作に、扉をノックすると、返事も聞かずに、ドアを開けた。

 そこでは、机に押し倒されたチャゲがいた。

「あら、早かったわね。ブラン。」

 真っ赤な顔で怒っているチャゲと涼しげな顔のシルバーの対比が、これは現実なんだと教えていた。

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