17.異世界の絶品チーズケーキ
「確かに、王都守備隊なら腕さえあれば、何もいらないな。」
私が慌てて、声がした方を振り返ると、部屋の中から、銀髪で緑色の瞳をした渋い美形に付き添われた、女性が現れた。
「「マナ!」」
今まで、私と話していた公爵夫人であるスズと、その伴侶である公爵のクリスが、声を揃えて、女性の名前を呼んだ。
マナと呼ばれた女性は、王宮では見かけない男性用の服を着ていて、なぜか腰には剣を下げていた。
「お母様。」
スズは自分より,だいぶ背の高い娘を、しっかり抱きしめた。
「本当に、いつも,いきなり現れるんだから。それでどうだったの?」
いったい何の話をしているんだろうかと思いながら、ふと隣を見ると、公爵のクリスとマナに付き添って現れた渋い美形が、二人の女性の隣で、睨みあっていた。
「なんでお前が、ここにいるんだ?王宮に帰れ。」
公爵のクリスが、ぼそりと呟くと、負けじと渋い美形が言い返す。
「マナの隣が私の居場所です。ちなみに代替わりして、もう王ではないので、王宮に帰る必要もありません。」
へっ、今、なんか王とか言わなかったか、この人。
そう言えば、この渋めの美形さん、なんか顔がホークにそっくりなんだけど。
確か前に、ホークは王族の血を引くとかなんとか言っていたような・・・。
いや、まさか、・・・・・・。
私は恐る恐る、もう一度、渋い美形の顔を見た。
私がそう思って見ていると、今まで空気のように、傍に立っていただけの老執事から、いきなり重量級のオーラが放たれた。
全員がゾクリとして、慌てて、背筋を正す。
老執事は、なんでもない顔で、紅茶を入れて、二人の前に、差し出した。
「どうぞ、クリス様。それにグリム様。」
老執事の無言の紅茶攻撃に、二人はビクリと身震いすると、クリスはスズの隣に、グリムも、マナが座る席に、慌ててついた。
なんだ今の無言の圧力は!
私も席に座りながら、こっそりと老執事を見るが、今は何も感じられない。
でもたしかに、さっきは、身震いするほどの、圧力めいたものを、感じたんだけど。
私がそう思っていると、感動の再会をしていて抱き合っていた二人に、老執事が声をかけた。
「奥様、お嬢様。お茶が冷めますよ。」
二人は老執事の声に、素直に席についた。
老執事の、”揉め事は、お茶を飲んだ後にしろ”という無言の圧力に、男性陣は黙って、紅茶に口をつけている。
「ところで、そちらのお嬢さんは、誰なんですか、お母様?」
マナからの当然の質問に、母親であるスズが説明した。
「あなたのお爺様である初代次郎様と同郷の方で、黒子さんというの。」
スズは嬉しそうに、娘に話す。
「そうなんですか?ならば、剣の腕も素晴らしいでしょうね。」
マナから期待の眼差しで見られ、非常に居心地が悪い。
いくらなんでも、戦国武将と比べてほしくない。
私はりっぱな平和な国、日本で育った、日本人なので、剣道のケの字も齧ったことはない。
きっぱり言おう、剣はダメダメだ。
私がかなり焦っていると、老執事がさりげなく、全員にケーキを勧めた。
「さあ、どうぞ。こちらのチーズケーキも皆様、食べて下さい。それとお嬢様。くれぐれも実技は、お茶の後に、お願いします。」
「もちろんよ。ルドルフのチーズケーキを食べた後に、そちらのお嬢さんの腕前を、見せていただくわ。」
老執事に、マナはそう言うと、居住まいを正して、フォークを持つと、チーズケーキを食べ始めた。
私はマナの一言にかなり焦ったが、みんなが黙々とチーズケーキを食べるので、フォークを持つと同じように、食べて見た。
「う・・・うまい。」
何これ。
口の中に入れると、それがほんのりあまーく蕩けて、本当に絶品だった。
現代日本でも、食べたことがないような絶品チーズケーキに、私は言葉もなかった。
本当に、この老執事さん、何者なの?
異世界と馬鹿にしてたけど、こんなのが毎回食べられるのなら、落っこちて良かったかもと、思わず感じるほどの味だった。
老執事さんが作る異世界チーズケーキ恐るべし!




