11.謎の呪文。
私がそろそろと、露天風呂から寝室に続くドアを開けて中を覗くと、裸でうずくまっているアイリーン姫がいた。
慌てて、傍に飛んでいた妖精のバイオレットを捕まえて尋ねると、事の顛末を教えてくれた。
どうやら、部屋に戻った真っ裸のアイリーン姫がいる時に、イアンがドアを開けてしまい、彼に全裸を見られた彼女が、叫び声を上げたというのが真相のようだ。
一瞬、部屋の中で、二人が抱き合っていたら、どうしようと思ったが、杞憂に終わったようだ。
あのヘタレ男に、そんな勇気があるわけないか。
私は、取り乱しているアイリーン姫を落ち着かせて、洋服を着せると、部屋を出てリビングに行き、戸棚をゴソゴソして、紅茶の茶葉と砂糖、それにミルクを見つけ出すと、イアンを振り返り、ヤカンを差し出した。
「おい、これはなんだ?」
「ヤカン。」
何を当たり前のことを聞いているんだ。
「だから、これをどうしろというんだ。」
「水を汲んで、お湯を沸かして、ちょうだい。」
「なんで、俺がそんな事をする必要がある。」
イアンは、相変わらずの上から目線で、言い捨てる。
「アイリーン姫に、落ち着いてもらうのに、紅茶を入れようとしたけど、お湯がないから、・・・。」
私が途中まで説明したところで、イアンは、すっ飛ぶように、外に出ていった。
すぐにヤカンに水を汲んで、暖炉にあったクリスタルに魔法で炎を灯すと、私にお湯を差し出した。
はやっ!
こいつ本当にアイリーン姫のことになると、人がかわるなぁ。
私はお湯を受け取ると、カップを温めた後、茶葉を濃い目に蒸らし、ハチミツとミルクをたっぷり入れると、寝室に戻った。
「黒子?」
寝室に戻ると、目に涙を溜めたアイリーン姫がいた。
私は黙って、ミルクティーを差し出す。
アイリーン姫は、それを受け取ると口をつけた。
「甘くて、おいしい。」
「少しは落ち着いた?」
私が聞くとアイリーン姫は、真っ赤な目をして、小さく頷いた。
「じゃ、残りもゆっくり飲んで、飲み終わったら横になって休みなさい。」
私がそう促すと、アイリーン姫は頷いて、ミルクティーを全部飲み干した後、ゆっくりベッドに横になった。
しばらく様子を見ていると、そのうち、寝息が聞こえて来た。
私はアイリーン姫に、もう一枚毛布を掛けると、飲み終わったカップを持って、リビングに戻った。
リビングに行くと、ウロウロと部屋を動き回るクマがいた。
私を見つけると、寄って来る。
クマに用はないんだが。
「アイリーン姫の様子は?」
「今は落ち着いて、眠ったから、話は明日ね。」
少しホッとしたイアンがぼそりと呟いた。
「そうだな。だが俺は、どう謝ればいいんだ。」
私はイアンのこの言葉を聞いて、ニヤリとした。
どうやら二人ともお互いが好きなようだ。
なら、ここは少し背中を押してやろう。
「男として、いや騎士として、責任を取るのが普通だと思う。」
私の話にイアンが目をパチクリした。
「責任?」
「もちろん、乙女の裸を独身男が見たんだ。責任を取って、結婚を申し込むべきだろう。」
私の言葉に真っ赤な顔でイアンが答えた。
「結婚!でもなんて言えばいいんだ?」
「もちろん、”アイリーン姫を愛しているので、責任を取らせて下さい。”だ。さあ言って見ろ。」
「・・・・・・。」
イアンは真っ赤になって、俯いてしまう。
やはり、へたれ男には無理か。
私は諦めて、カップを洗って、戸棚に戻すと、寝室に戻った。
しばらくして眠ろうとすると、隣の部屋から謎の呪文が聞こえた。
「アイリーン姫、あああい・・・。」
しばらくすると、同じようなぼそぼそした声がする。
「アイリーン姫、すすすすき・・・。」
また、しばらくすると、
「アイリーン姫、あああ・・・。」
何度も同じところで、つっかえて、先に進まない。
なんつぅー安眠妨害だ。
怒鳴ってやろうかと思ったが、ヘタレはヘタレなりに、頑張っているようなので、布団を頭まで被って、寝ることにした。




