チャンスメーカー
ある夜、夢を見た。
その夢の中で、僕は魔女と出会った。
黒いとんがり帽にローブという姿、たぶん魔女だろう。
「特別な能力が欲しくないかい?」
魔女が、そう訊ねてきた。
僕は、「もちろん」と答える。どうせ夢の中なのだから、不思議な力を身につけてみたい。
「能力名『チャンスメーカー』」
僕の人生、パッとしない。
マンガとかで見るようなこれぞ主人公たる人生を送る人も、世の中にはいるだろう。
だけど、僕は違う。
僕はとても主人公なんて器じゃない。
僕は、名前すらつけられない、誰かの人生の『登場人物A』でしかない。
登場人物Aは、常に誰かの引き立て役だ。
劇をする時は、舞台を飾る木々の一部。
クジ引きは、ハズレを引く役。
誰かが責任を逃れるための99・9%の確率の残り0・1は、僕の為にある。
こんな人生、好き好んでやる人がいるだろうか?
少なくとも、僕はイヤだ。
だけど、イヤでも、それが僕の人生だ。
面白くない人生が、少し変わりそうな出来事があった。
夢の中でだが、いや夢の中だからか、魔女と出会った。
その夢の中で魔女は、僕に特別な力をくれた。
「チャンスメーカー?」
「素敵な能力だよ」
僕のパッとしない人生は、魔女と出会い、しかし、やはりパッとしなかった。
せっかく特別な力を得ても、何も変わらない。
入場者1万人目のカウントダウン、その9999人目は僕。
パチンコをすれば回すだけ回して金を浪費し、やめた直後に誰かが当たりを持っていく。
チンピラに絡まれていた女性を助けようとしても、僕はボコボコにされ、後から来たヒーローが全てを持っていく。
笑えてくる。
ついでに、泣けてくる。
ちょっと と言うほど些細ではない、すごく と言うほど大袈裟でもない。
僕の人生、なんかツライ。
「素敵な能力って、どんなふうに?」
「能力名が全てを語る」
「好機を作れるってこと?」
「そのとおり」
魔女は、おかしそうにヒッヒッと笑った。
「その能力があれば…」僕は訊いた。「その能力があれば、僕も幸せになれますか?」
「幸せになりたいのかい?」
「なりたい。僕も幸せになりたい」
僕は、願うように言った。
○
幸せになりたい、そう思いながら人生を送る。
普通のことかもしれない。でも、何故か忘れかけていた。
魔女と出会って、思い出せた。
「短い人生、そうそうチャンスが巡ってくるものじゃない」夢の中で魔女は言っていた。「チャンスを作れるというのは、それだけですごい才能だ。世の中にはチャンスが来ないと嘆いている人だっているのに、それを作れるのだ。あとは、それを掴めるかどうかだ」
「…掴めなかったら?」
「それは知らん」
ヒッヒッヒと魔女は笑った。
僕も、苦笑した。
僕の人生、パッとしない。
それでも前向きに生きて行こう。
いつかきっと僕もチャンスを掴める。
そう信じながら、今日もチャンスを作り、逃していく…。
チャンスがあったとしても、必ずそれをつかめるわけでもない。
チャンスを作れたとしても、それは同じ。
みたいなことを書きたかったのだと思います。