夜の始まり
《夜の始まり》
鳥) 焚き火囲みて 太鼓を鳴らせ
囃して立てよ 勇士の誉れ
彼には秋の女神の幸よ あれ
父母守れよ 双つ肩で
女) 若き勇士と 囃されて
丈夫と言えぬ 肩を叩かれ
かかる言の葉 勇みて戦え
明日立つあなたを 遠くに眺め
影なく送るに 一夜で足らず
男) 小さな肩と 笑われて
それでも老いた 父母と
愛し君を 守れると
2年の別離は 心を刺すが
すすんで勤める 護国の役を
鳥) 初秋の風 気まぐれに
笛吹き誘う 焚き火の辺
村の誰もが 語らぬが
騙るに能わぬ 二人の胸の内
男が円座を 外れても
問わず追わずは 言わずもがな
酒酔い勢い 宴は盛るのみ
男) 心に残るは 君のこと
2年の苦役とは 君のこと
私のことで潰してよい 胸などない
心移るなら それもよい
女) だからあなたは 駄目なのです
潰す胸など もとよりないが
心移りはもっとない
どうすればあなたは知るのでしょう
あなたが私を思っただけ
私はあなたを思うのです
真っ直ぐな瞳は信じるに足り
愛を囁く唇が私を導き
両の腕に包まれれば満たされるのです
男) 光なく揺れる影一つ
触れた唇 更に更にと重ねれど
見つめ合う眼に こぼれる煌めき
夜は深く 闇は暗く
いつまでも離せぬ その手には
椋の髪飾りを残し
菜々花咲く頃 便りも送ろう
やがて月日の 過ぎ往けば
ここの誰もが羨むほどの
富と武勲と ともに帰ろう
女) 願わくはただただ2年の無事を
金貨も武功も何も要らぬ
無事の便りも稀なら要らぬ
あなたが変わらずあればいい
たとえその目が盲ようと
唇焼かれ喉も潰れようと
私を抱く腕が失われようと
あなたの想いが変わらずあればそれでいい
鳥) 東雲染める 空は紫
昇る朝陽が 二人を別ち
涼風渡り 鳥鳴く朝に
二人の恋路の 夜は始まり