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期日指定郵便  作者: 遊星族
第1章 神が振ったサイコロ
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ビフォーアフター

 僕は今まさに、絶望のどん底に突き落とされていた。

 そんな僕の目の前に、突如として現れたのは! 

 ……彼女だった。そう、上様こと山田ツングースカだった。

 彼女がスマートフォンのような物を取り出して操作すると、二人の捜査員は突然姿を消した。

「あ、今のは本物そっくりホログラムっていう、我々のオーバーテクノロジーのひとつです。さっき言ったじゃないですか、ファーストコンタクトの記念に、由宇作にだけ特別に、オーバーテクノロジーお見せするって」

「は??????」

「だからさっきの二人ですよ、警察を名乗って私の事詐欺師だとか言ってた。あれ本物の人間じゃなくてホログラムなんですよ、本物そっくりの」

「えぇーっ! ……って、嘘って事?」

「いえ、本当ですよ、私が宇宙人だって事は」

「いや、そうじゃなくて、僕を騙してた詐欺師だって事が」

「騙したのは本当ですよ。気付きませんでしたか? あんなにまんまと騙されて」

「じゃあやっぱり詐欺師じゃん」

「違いますぅ、宇宙人ですぅ」

「じゃあ詐欺師の宇宙人?」

「違いますぅ。詐欺なんてして無いですぅ。騙しただけですぅ」

「それを地球では詐欺って言うんですが」

「詐欺じゃ無いですよ、騙しただけですよ。騙しただけじゃ詐欺にはならないでしょう?」

 確かに地球でも、騙しただけでは詐欺にはならない。でも僕はそれじゃあ、腹の虫が納まらなかった。

「それに……」

 彼女は僕の目を見つめながら

「うまい話は信じないって言ってたじゃないですか。その割にはまんまと騙されてましたよね」

 そう言ってにやりと笑った。

 この女は一体どこの魔界からやって来たんだろう?

「上様ってさあ、ほんとっ何者なの?」

「いやですよ、あたしゃしがない郵便配達員ですよぉ」

 彼女はなぜか照れ臭そうに笑いながら、そう答えた。

 宇宙人てのは、もしかしたらこんな奴ばかりなんだろうか? そんな考えが頭をよぎった。もしそうなら……もしそうなら宇宙の中心で「金返せ!」って叫びたくなる。

「それでさあ上様、こんな所で立ち話してるのも近所迷惑だから、家に上がって積もる話でもゆっくりしない?」

 さあどう釈明して貰おうか。

「それはいいですね、お茶でも飲みながらゆっくりと……あっ、でもひとつ言っときますと、近所迷惑じゃないですよ、立ち話してても。だってこのアパート今、由宇作しか住んでないですから」

「へっ?」

 まっ、まさか、このアパートで地球人集団行方不明とか? この宇宙人ならやりかねない気がした。

「立退いて貰ったんですよ、大金積んで。そりゃもうはずみましたよ、立退き料」

 僕の予想に反して、なんかまともな事をこの宇宙人は言った。

「じゃあ続きは部屋の中で。ちょうどおいしそうなプリンがあったんで、買ってきました」

 そう言うと、僕より先に部屋に上がりこんだ。



「これから活躍して貰うんですよ、この本物そっくりホログラムに」

 先程のスマートフォンっぽい物を、彼女は僕に見せながら説明した。

「活躍して貰うって、どういう事?」

「驚くと思いません? 人が急に現れたり消えたりしたら」

「そりゃ驚くでしょ……ってまさか! 驚かせるつもり! オーバーテクノロジー使って」

「そのまさかです」

 にやりと笑いながら彼女は答えた。

「てか、いいの? オーバーテクノロジーそんな風に使って」

「今回はケースがケースですからね。多少の事は大目に見るって路線で行きます」

「…………で、誰を驚かせるの? それ使って」

 その質問に彼女はにやりと笑い、こう答えた。

「このアパートに、これから入居しようとする人達ですよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ上様! 今まで住んでた人達には、大金積んで立退いて貰って、今度は新しく入居する人達にそんな悪戯とか! 何考えてるの?」

 全くこの宇宙人はアパート経営を何だと思ってるんだ! 

「だから言ったじゃないですかぁ、アフターサービスだって。その為にこのアパート買い取ったって」

「うん、それは知ってるけど。けど、それとどう関係あるのか、まるっきり分からないんですけど」

「由宇作、ここの家賃って高いと思います? それとも安いと思います?」

「高くも無ければ安くも無いね」

「じゃあ駅に行ったり買い物に行ったりするのには?」

「便利でも無ければ不便でもないね」

 確かに僕の住むアパートは良くも悪くもそれなりだった。

「つまりここはそれなりのアパートって事です。そして周りを探せば、同じようなそれなりのアパートが幾つも見つかります」

「だろうね。僕がここをネットで見つけた時も、似たような条件のアパートが幾つかあったし」

「それなら同じような条件の部屋を近くに用意して、立退き料をはずめば、快く立退いて貰えると思いません?」

「まあそりゃそうだろうね」

 少なくとも今の僕ならそうするだろう。

「その後、家賃を半額に下げたらどうなりますかね?」

「は、半額! つ、つまり1万5千円って事? 上様家賃1万5千円にするつもりなの?」

「その通りですよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ上様! 僕は家賃が3万円のつもりだったから、上様に食事を作る事にしたわけで、1万5千円だったら割に合わないでしょ」

「え? だって由宇作は3万円のままですよ。半額になるのはあくまで新しい入居者ですから」

「何それ? 超不公平じゃん!」

「ほう。超不公平とな。それはどの口が言ってるんですか?」

 僕の頬を摘んで引っ張りながら彼女は言った。

「幸運パワーを分け与える私が、特別に由宇作の側にいるにもかかわらず、超不公平だと?」

 幸運パワーという物はこんなにも頬が痛くなる物だとは、不覚にも今まで気付かなかった。

 僕の頬から指を放した彼女は、後ろから僕の首に腕を回すと

「新しい入居者は、オーバーテクノロジーの事知らないんですよ。知ってる由宇作と家賃同じだったら、割に合わないじゃないですか」

 そう耳元で囁いた。

「ノブレス・オブリージュってやつですか」

「まあそんなところです。で、質問を繰り返しますが、家賃を半額にしたら?」

 そう言いながら彼女は自分の席に戻ると、お茶を啜った。

「そりゃ入居希望者殺到するんじゃない? まさか上様、この界隈のゴーストタウン化を阻止するつもり?」

「うーん、惜しい!」

「惜しい?」

「ゴーストのところだけ」

「そこだけかよ!」

「由宇作、もし家賃が格安のアパートで、急に人が現れたり消えたりしたらどう思います?」

「そりゃ、やっぱり出るんだなと。出るから家賃安いんだなって思うよ、多分」

「出るって何がです?」

「そりゃ勿論、幽霊が」

「そんなアパート住みたいと思います?」

「出来れば避けたいね。……ただどうしても背に腹はかえられない時は、別だけど」

「そうなんですよね。そして世の中には、そんな背に腹はかえられない事情を抱えた訳ありの人達も、実にたくさんいるわけでして」

「まさか訳ありの人達を集めるために、わざと訳あり物件にしようって魂胆? わざわざオーバーテクノロジー使って」

「そのまさかですよ、由宇作。何しろ今後のミッションを考えると、オーバーテクノロジーが使われる局面も想定しなければいけませんから。そんな時に、訳あり住民が住む訳ありアパートなら、何とか誤魔化しが利くって寸法ですよ」

「確かにマスコミやら公的機関やらが介入して来て、アパートに住み続けられなくなったら死活問題だからね。オーバーテクノロジーをカモフラージュするには、ある意味一番都合がいいやり方かも知れないね」

「これを我々は訳ありバリアーと呼んでいます」

「訳ありバリアーか。……何か身につまされるなあ」

 結局訳あり人生を送っている人間は、こんな風に利用されない限り、安住の地を得られないのかと思うと、何とも遣り切れない気分になる。いつか足元を見られなくても、安住の地を得られる世の中が来ないものかなと、ふと思った。

「由宇作」

 いつの間にか彼女は僕の目を覗き込んでいた。

「もしかしてその切手を売って、オーバーテクノロジーで、世の中を変えてみたいなんて思ってません?」

 流石にそこまでは考えてなかったから、首を横に振ったが、もしかしたらそんな人生もあるかも知れないなと、ふと想像した。

「ところで由宇作」

「何? 上様」

「夕飯の前にお風呂頂いていいですか?」

「へ?」

「ですからお風呂ですよ、この部屋の」

「え? だって大家さんの家に無いの? お風呂」

「ありましたよ。私が壊すまでは」

「……って、壊したのかよ!」

「だって仕方ないじゃないですか。宇宙船格納するのに丁度良かったんですから」

「えっ……って、浴室壊して宇宙船格納したの?」

「だって浴室無くたって、お風呂は由宇作の部屋で頂けば済む話ですから、てへへ」

 笑ってる場合か! と思いながらもふと疑問が湧いた。確かに大家さんの家の浴室は、僕の部屋のに比べれば何倍もありそうだが、それでも宇宙船を格納出来る程とは思えなかった。

「てか入ったの? 宇宙船」

「ぎりぎりですけどね。形状記憶合金製ですから、多少狭くても何とか格納出来るんですよ。飛ぶ時に元の形に戻せばいいだけですから」

 改めてオーバーテクノロジー半端ねえと思った。

「それじゃ、お風呂頂いちゃいますね」

 そう言うと彼女は徐にメイド服と靴下を脱ぎ、下着姿になった。それは宇宙からやって来たクリーチャーとは思えないプロポーションだった。

 言うべき事は色々あったが、僕はその中で最も重要な事を彼女に伝えた。

「上様、風呂まだ沸かしてないんですけど」

「えっ! 24時間沸きっ放しとかじゃ無いんですか?」

「どんだけガス代食うと思ってるんですか!」

「そう言えば地球のエネルギー事情大変みたいですからね」

「僕の懐事情も似たようなものです」

 目のやり場に困りながらも、僕はいつもの如く彼女と会話を続けた。

「そ、それにしても上様、流石に地球を調査してただけあって、なかなかいいデザインの下着だね」

 我ながら良くこんな台詞が出てきたものだ。僕は半ば自分に感心した。

「別に地球は関係ないですよ。このデザインは宇宙製ですから」

「えっ! だってまるで地球製のデザインみたいだし」

「まあ宇宙でも地球でもやる事は一緒だから、似たようなデザインになるんじゃないでしょうかねえ」

 彼女は涼しい顔でそう答えた。

「じゃあ由宇作、さっさとお風呂湧かして来ちゃって下さいよ」

「は、はい上様!」

 こうして僕は風呂を沸かしに風呂場へすっ飛んで行った。あのクリーチャーに変な妄想を抱くんじゃないぞと自分に言い聞かせながら。



「15分ぐらい待っててよ上様」

 風呂場から戻って来た僕は、そう彼女に言った。

「えぇー! 15分もこんな格好でいたら、さすがに寒くなっちゃいますよ」

「服着ればいいじゃん!」

「あっ、そうでしたね。これはこれは私とした事が、てへへ」

 こいつ絶対わざとやってるだろう。そう心の中で叫んだ。

 思えば今日一日中、正確には昨日から彼女には振り回されっ放しだった。時計を見たら午後4時を過ぎていた。5月の中旬ともなると日は大分高くなっているので、外はかなり明るかった。正面を見ると彼女がメイド服を後ろ前にして着ていた。そして涼しい顔をしてお茶を飲んでいた。

「上様」

「何ですか? 由宇作」

「任務の事忘れて無いよね?」

「も、勿論じゃないですか……な、何いきなり変な事言うんですか……危うくお煎餅喉に詰まらせるところだったじゃないですか」

 なんかちょっと逆切れされた。

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