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期日指定郵便  作者: 遊星族
第2章 のようなもの
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梯子を外された理想主義のなれの果て

「では行くぞ、エクスカリバー。この茶番を終わらせる為に」

 ロズウェル氏は踵を返すと、エクスカリバー氏に向かい毅然とした口調で述べた。

「かしこまりました、ロズウェル様。あなた様とならどこへなりとも」

 エクスカリバー氏は、今まで見た事のない穏やかな笑顔で静かに答えた。

「行くって? どこへ行くつもりだ」

 ゲルさんが尋ねた。

「更なる高みへだ。貴様は傍観者として、そこで見物しているが良い」

 ロズウェル氏は背中を見せたままゲルさんにそう述べると、エクスカリバー氏に向かって

「では超銀河郵便連盟護衛艦隊に連絡しろ。数多の宇宙セレブを人質に取った。無事に帰して欲しくば、我らと勝負をしろと」

 そう指示を出した。その直後、大勢の部下が姿を現し、彼女の言動に慌てふためく宇宙セレブ達に向けて、睡眠光線を一斉に放った。

「おい! ロズウェル! 宇宙最強の艦隊に喧嘩を売ってどうする!」

「言っただろう? この茶番を終わらせると。超銀河郵便連盟護衛艦隊を打ち負かし、最強を証明すれば済む話だ」

 ロズウェル氏は再び僕らの方に振り向き、言い放った。

「いや、言ってる事が滅茶苦茶なんだが。大体本気で勝てると思っているのか?」

「お言葉ですが、ゲル・ビーツ様。勝算なくばこのような無謀な勝負挑みません。我々は超多重シールドを既に完成させております」

「超多重シールドだと!」

 ゲルさんが思わず叫んだその言葉に、僕は先日の上様達との会話を思い出した。先日、僕は長い間引っ掛かっていた疑問、本物そっくりホログラム装置が、なぜシュヴァルツシールドの装置より遥かに値段が高いのか、上様達に質問した。



「一言で言えば非常に細かい芸が出来るからです、本物そっくりホログラムは」

 上様がまず、簡潔に述べた。

「シールドの展開と言ったって、ほぼ球形だからな、シュヴァルツシールドは。まあ、多少の調整だったら可能だが」

「ところが本物そっくりホログラムなら、船体の外形に沿ったシールドの展開もお茶の子さいさいなんですよ。こんなのは本物そっくりホログラムの優れた点の、ほんの序の口に過ぎませんが」

「単層のシールド同士なら、むしろシュヴァルツシールドの方が強固なんだよ。何しろ物理的な干渉を無かった事に出来るからな。因果律を捻じ曲げて。ところが本物そっくりホログラムには、シュヴァルツシールドには無い利点がある。シュヴァルツシールドは単層のシールドしか展開出来ないんだが、本物そっくりホログラムは何層ものシールドを展開出来るんだよ。もちろん金に糸目を付けなければだが。この多重シールドこそが、本物そっくりホログラムをシュヴァルツシールドに対して、優位にしている最大の要因だ」

「ついでに言うとシュヴァルツシールドは、ブラックホールの近くではシールドが弱体化してしまうんですよ。グラビトンの影響で、劣化コピー特異点が隠れやすくなっちゃう所為で」

「グラビトンの濃度が薄けりゃ殆ど問題ないんだが、ブラックホールの近くって濃いだろ、グラビトン。ようするにブラックホールの近くでシュヴァルツシールドを展開している宇宙船と、本物そっくりホログラムを展開している宇宙船が追いかけっこをしていたら、本物そっくりホログラムを展開している宇宙船の方が圧倒的に有利って事さ」

 こんな風に本物そっくりホログラムの利点を説明して貰った。特に多重シールドを展開した場合、レールガン過冷却モードでも打ち破るのは相当困難になるとの事だった。

「でも多重シールドだって、過冷却モードのレールガンを何発も打ち込めば、いずれは打ち破れるんじゃないの?」

 そんな僕の質問に対し

「まあ、相手が打ち込まれるまま動かずに、じっとしてくれてれば、いずれはそうなるんですけどね。生憎相手は避けるし反撃もして来ますから。一発目でシールド打ち破れなかったら、二発目以降は殆ど役に立たないんですよ」

 上様はそう言って肩を竦めた。そんな上様の説明を補足するように、ゲルさんはこう述べた。

「まあ、多重シールドに対抗する為に、過冷却モードを多連装式で使えるレールガンも開発されててな。話は横に逸れるが、通常モードのレールガンであれば多連装式はお茶の子さいさいなんだが、過冷却モードとなるとこれが技術的に難しいんだよ。カシミアエンジンが共鳴しちまう所為で。だから過冷却モードを多連装式で使えるレールガンを装備しているのは、艦隊の宇宙船ぐらいなんだが、これを使うと避けたり反撃したりする間を与えずに攻撃出来るから、多重シールドにも十分対抗出来るって寸法だ。特に、数多の艦隊の中でも最強と謳われる超銀河郵便連盟護衛艦隊の攻撃力は、他の艦隊を圧倒している。その中でも、旗艦神々の黄昏号の攻撃力は、宇宙最強と言われている」

「神々の黄昏号!」

 宇宙の終わりを暗示するかのような、その得体の知れない宇宙船の名前を、僕は思わず叫んだ。

「そうだ、最強の宇宙船の名だ」

「かつて宇宙の破壊を目論んだ、絶大な超能力を持った正体不明の恐怖の大王を、やっつけ仕事で倒したという伝説もあるくらいですから」

 上様が神々の黄昏号の武勇伝を紹介してくれた。

「ま、それはあくまで都市伝説に過ぎんがね。しかし、ハルマゲドンが泣いて逃げ出す宇宙最強の船、と渾名されているのは確かだ」

 ゲルさんが若干補足し、続けた。

「当然ながら多重シールド程度では全く物ともしない。しかし、その攻撃力をもってしても、打ち破れないものがある」

「宇宙最強の船でも?」

「そうだ。宇宙最強の船でも打ち破れないものがある。それは、超多重シールドと呼ばれるものだ」 

「超多重シールド? それって本物そっくりホログラムの、多重シールドの一種?」

 僕の質問に上様が

「確かに多重シールドの一種ではあるんですが、本物そっくりホログラム装置を幾つも使って、何層ものシールドを作る通常の多重シールドとは違ってまして。本物そっくりホログラムで、本物そっくりホログラム装置を作っちゃうんですよ。そしてその装置が作った本物そっくりホログラムで、更に本物そっくりホログラム装置を作って、というのを何段階も繰り返して行くんですね。このようにして出来たシールドは、攻撃を受けても装置自体がホログラムですから、装置自体を再生する事で、すぐにシールドも再生出来ちゃうんです。その結果、あらゆる攻撃を無力化出来ちゃうんですよ」

 このように超多重シールドの仕組みを説明してくれた。

「言わば宇宙最強の絶対的防御領域だ。もっとも、殆ど成功した事がない技術とも言われているが」

「なんで?」

「莫大な資金と非常に高度な職人技が必要とされる技術だからですよ、超多重シールドは」

 先日の説明では、このように宇宙最強の盾ではあるが、同時にほぼ実現不可能な技術であるとの事だった。



「ふん、ゲル・ビーツ、感謝する事だな。新たな歴史が幕を開ける瞬間の、目撃者となれる幸運を」

 超多重シールドを以ってして、宇宙最強の艦隊に勝負を挑まんとするこの人物は、再び不敵な笑みを浮べた。そして再び踵を返し、大勢の部下が左右に整列する中を威風堂々と歩いて行った。僕は不謹慎な事に、一瞬その姿に見とれてしまった。これほど威風堂々と歩くツインテールの猫耳メイドを目の当たりにする日が来るとは、夢にも思わなかったからだ。

「やれやれ、どいつもこいつも、セレブのパーティーの何たるかが、分かってない奴らが多過ぎて困るな、全く」

 睡眠光線を受けて眠っているはずの、大勢の宇宙セレブ達の中から、1人の人物がむっくりと起き上がりながら言い放った。それは先程ゲルさんと嫌味を言い合っていた宇宙セレブだった。

「面倒だから大人しく寝たふりでもしてようかと思ったんだが、これだけ無粋ではな。麻布十番ロズウェル、お前さん相変わらず厨二病が治ってないようだな。超銀河郵便連盟護衛艦隊を倒して、最強の座を手に入れるとかなんとか」

「ふんっ、厨二病の貴様に厨二病呼ばわりされたくはないわ! バミューダ虎夫。ところで睡眠光線はどうやら厨二病患者には効果が無いようだな」

「ふんっ。勝手にほざいてろ、麻布十番ロズウェル。我輩は常に最悪の事態を想定して、本物そっくりホログラムのシールドを身に纏っているのだよ。お分かりかな?」

 そう言って物凄くいやらしい笑顔をロズウェル氏に向けた。それから視線を僕の方に向けると

「お前さんが佐藤由宇作だな? お前さんの事は色々調べさせて貰っている。我輩、今日は麻布十番ロズウェルの裏をかいて、お前さんから切手を買い取るつもりで来たんだが、どうやらそんな悠長な事も言ってられんようだ。では、日を改めてまた会おう」

 再びいやらしい笑顔でそう述べると、人間業とは思えない猛スピードでこの会場を後にした。後を追おうとしたエクスカリバー氏に向かってロズウェル氏が

「良い! 放っておけ。あ奴と同じ空気を吸わなくて済むだけ、遥かにマシだ」

 嫌悪感をあらわにしながら言い放った。

「ゲルさん、今の人って?」

「バミューダ虎夫。人様の込み入った事情に茶々を入れるのが三度の飯より好きな、万年厨二病の宇宙セレブだ。まあ、あんな風に口は達者だから敵も多い所為か、意外に用心深い男でな。今回も自分そっくりの本物そっくりホログラムを身に纏って、シールドにしてたようだな。それで睡眠光線が効かなかったんだろう」

 ゲルさんの説明を聞いた僕は、ある事を閃いた。そしてゲルさんに小声で作戦を伝えると、隣でうずくまる上様のポケットから本物そっくりホログラム装置を取り出し操作した。すぐさま僕らの目の前に幽霊が出現し、不気味な叫び声を上げながら会場中を飛び回り始めた。

 自律モードでパーティー会場中を動き回る、この幽霊のホログラムは、今現在眠らずにいる者達の殆どの視線を、釘付けにした。唯1人ゲルさんを除いて。皆が幽霊に視線を奪われている頃、うずくまっていた上様が突然立ち上がった。



『大胆無敵』

 そう書かれたエプロンを身に付けた上様が、会場の真中で眠りについている大勢の宇宙セレブ達に向かって猛ダッシュした。すかさず宇宙セレブ達の懐をまさぐったかと思うと、次々に正体不明のキャラクター達が会場中に姿を現した。

「この方がツングースカっぽくていいだろ?」

 ゲルさんが笑いながら言った。先程僕はゲルさんに頼んで、眠っている上様にシールドを纏わせるよう本物そっくりホログラムを設定して貰った。そう、バミューダ虎夫氏のように。未だ眠りについている上様に代わり、シールドになっている上様そっくりのホログラムが、自律モードで動いているという寸法だ。ついでにゲルさんは、エプロンの標語もアレンジしてくれた。

「ツングースカ十六文キーーック!」

 実物の上様をその身に包み込んだホログラムは、突然の騒ぎに唖然としているロズウェル氏の部下達に向けて、掟破りの必殺技を次々と繰り出した。後で上様に怒られないようにとの配慮からか、パンツの部分はホログラムでうまく隠れるように設定されていたから、ツングースカ十六文キックを躊躇する事無く繰り出す事が出来た。

「ピンチの時は、混乱を余計に煽ればいいんですよ」

 以前、上様はそう言っていた。ピンチの時は無理に事を丸く収めようとせず、むしろ混乱に拍車を掛けた方がいいと。バタフライ効果によって相手の思惑を破綻させた方が、むしろピンチから抜け出すチャンスを得やすいと。

「分かりやすく説明すると、もし会社でセクハラやパワハラを受けたら、泣き寝入りするより、バタフライ効果でリーマン・ショックのような経済危機を引き起こす方が、遥かにマシって事ですよ」

 などとのたまっていた。

「極たまに、役に立つ事を言うんだよ、あいつは。まあ、本当に極たまにだが」

 そう言いながら、ゲルさんはもうひとつの本物そっくりホログラム装置を操作した。すると目の前に見慣れた装置、宇宙非実在青少年キャンセラーが出現した。

「まあ、混乱に拍車を掛けるには、現実と仮想現実が入り乱れるようにするのが一番手っ取り早いからな」

 言い終わらぬうちに、宇宙非実在青少年キャンセラー製のホログラムが会場中に展開した。

「流石IT企業を一代で築き上げただけあって、トロイの木馬はお手の物ってわけですか」

 僕がそう言うと、ゲルさんは肩を竦めて見せた。すかさず僕らは会場中央部へ行き、眠りについている宇宙セレブ達を、彼らの本物そっくりホログラム装置で作ったカプセルに乗せ、自律モードで各々の宇宙船に向かわせた。こうして人質となった宇宙セレブ達は開放され、ロズウェル氏の巨大フラーレンの中は彼女達の一味と僕らだけになった。

「最早超銀河郵便連盟護衛艦隊は動かないぞ。人質は開放しちまったからな」

「ふっ、ゲル・ビーツ様。お忘れですか? 一応、あなた様も宇宙セレブの端くれでございます」

「生憎だな。例え宇宙セレブでも、超銀河郵便連盟の職員である限り、人質の価値は無い。少なくとも超銀河郵便連盟護衛艦隊にとっては。せいぜい警察機構が動けばいい方だろう」

 そんなゲルさんの言葉に、ロズウェル氏が肩を竦めながら

「ふっ、とんだお笑い草だ。まあ、あの男がこのパーティー会場にやって来た時から、嫌な予感はしていたがな。全く人の込み入った事情に横槍を入れる天才だな、あの万年厨二病男は」

 忌々しそうに言い放った。

「バミューダ虎夫氏の事言ってるの?」

 僕は小声でゲルさんに尋ねた。

「ま、それ以外に思い当たる人物はいないからな」

 ゲルさんが当然と言わんばかりに答えた。

「ですがロズウェル様、我々にはまだ……」

 しかし、そう言いかけたエクスカリバー氏をロズウェル氏が遮った。

「仕切り直しだ! 興が冷めた。あの万年厨二病男に茶々を入れられぬよう、万全を期してから続きを始めようではないか」

「仕切り直しって、まだ勝負を挑むつもりか? 超銀河郵便連盟護衛艦隊に」

「愚問だな、ゲル・ビーツ。しかし……案外やるではないか、佐藤由宇作。ツングースカの影に隠れているしか能がないとばかり思っていたが」

 射抜くような視線を僕に向けると、すぐさま不敵な笑みをこぼした。

「ロズウェル様、これを」

 そう言いながら、エクスカリバー氏はホログラム製のリストをロズウェル氏に見せた。

「なるほど。佐藤由宇作、貴様梯子を外された理想主義のなれの果てというわけか。……ツングースカが拘るわけだ」

 リストには、僕に関する調査記録が書かれているらしい。

「面白い! 今日のところは貴様に免じて、無事に帰してやる事にしよう」

 そう言って不敵な笑みを満面に浮べた後、こう続けた。

「せいぜいツングースカの酔狂に付き合ってやるんだな、梯子を外された理想主義のなれの果てよ」



 上様を連れて宇宙船に戻った僕らは、すぐさま巨大フラーレンを後にした。そして地球へ向かう道すがら、先程ロズウェル氏が言った言葉、『梯子を外された理想主義のなれの果て』についてゲルさんに尋ねた。

「言葉の通りの意味だよ。地球で言えば、そうだな、ワイマール共和国ってあったと思うが。あんな感じだよ」

 ワイマール共和国……かつて理想主義に基づいて作られた国、そして地球の歴史において、あまりにも有名な末路を辿った国。

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