表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
期日指定郵便  作者: 遊星族
第1章 神が振ったサイコロ
13/35

闇を切り裂く声

 静寂を切り裂くように吹く風の音に混じり、甲高い声で叫び、あるいはすすり泣く女の声。突然浮かんでは消えるその姿。

 勿論これは本物そっくりホログラムによる演出である。

 本物そっくりホログラムの装置の使い方を上様から教わった僕は、真夜中に眠たい目を擦りながら、アパートの廊下でこっそりと使っていた。新しい入居者達を驚かせる為に。

 僕にこの任務を命じた上様は、「夜更かしは美容の大敵ですから」とぬかし、さっさと自宅に戻ってしまっていた。残された僕は、夜中の2時過ぎに部屋を出て、作戦通りに本物そっくりホログラムを起動させた。



 翌朝、当然ながら僕は寝過ごした。ちゃぶ台に目をやると、既にフルーツグラノーラを食べた痕跡のある皿が置いてあった。僕は彼女が部屋に侵入した事も気付かないほど、爆睡していたようだ。

 遅めの朝食をとってから部屋を出た僕は、廊下で初老の男性に出くわした。昨日越して来た新しい入居者の一人だ。

 一昨日の月曜日にアパートを見に来て、すぐに契約をした人達の何人かは、既に昨日越して来ていた。

 僕は軽く挨拶をした後、すぐに通り過ぎようとしたが、それは叶わなかった。見学に来ていた時から薄々感づいていた事だが、この男性は話し好きのようで、案の定、僕は立ち話に付き合わされる羽目になった。彼はニヤニヤしながら僕に小声で告げた。1時間程前に僕の部屋から、大家さんが出て行くのを見たと。

 そして

「昨夜もなかなか大変だったようですね。このアパート中、噂でもちきりですよ。いやあ若いって凄いですな」

 と付け加えた。

 どうも新しい入居者達は、僕らが若い事と幽霊騒ぎには、何か因果関係があると思っているらしい。

「訳ありアパートだと聞いて来たんですが、こんな訳ありなら大歓迎ですよ。まあ中には迷惑がっている人もいますがね」

 何て事を、更にニヤニヤ笑いながら言った。

 最近の人達は幽霊を余り怖がらないのだろうか? もっともこう世知辛い世の中では、相対的に幽霊の怖さも低下してしまうのだろう。



「幽霊が出るなんて聞いてないよ!」

 翌日の朝、例の話し好きの男性が僕の部屋に上がり込み、物凄い剣幕で僕らに訴えた。僕と上様は朝食をとっている最中だった。

「えっ? 出るんですか? 幽霊。いやあ、私も噂には聞いていたんですが、まさか本当に出るとは思ってもみませんでしたよ」

 しかし上様はいつも通り、涼しい顔でこう答えた。

「何言ってるんですか、あんた! 出るって分かってたから家賃安くしたんでしょ? それをいけしゃあしゃあと、自分は知らなかったみたいな言い方をして!」

 言いたい事は分かるぞおっさん。僕は心の中でそう呟き、この男性に共感もしていたが、しかし彼の努力が無に帰すだろう事も、容易に想像がついた。

「お言葉ですがねえ、私がこのアパートの大家になったのはつい5日前なんですよ。だから私だって被害者なんですよ、出るって分かってたら、このアパート買ってませんから。むしろ私が一番の被害者だと思いません? だって大枚はたいて買ったアパートが、実は幽霊が出る訳ありアパートだったなんて。折角苦労して、嫌な思いもいっぱいして、やっと貯めたお金で、夢だったアパート経営始められると思ったら、思ったらですよぉ、そこが幽霊が出る訳ありアパートだったなんて。散々苦労して、嫌な思いもいっぱいして、お金を貯めたのに……最悪じゃないですかぁ」

 最悪なのはお前のそのハッタリだろう。恐らく僕はこの時、世界で唯一そう思えた人間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ