洗濯場で会いましょう
私、シェリアナ・メイ。王城で働く洗濯場の下女のひとり。今日も私はごしごしと、洗濯物を洗っていた。静かな一日、そう思っていたら次の瞬間、耳をつんざくような大声があたりに響いた。何事!?
「王子――――――っ!!!ラズ王子殿下、いずこにおられますか――――――っ!??」
え?王子様がどこかに行ってしまわれたの?まあ、下の者である私には関係のないこと・・・と思っていたら、すっとしゃがんでいた私の頭上がかげった。ふっと顔をあげると、息をあげつつこちらを見下ろしている高貴な男性。どなたかしら、と目をぱちくりさせていると、彼の人はこうのたまった。
「おい、お前。名をなんと申す、オレが許す、申せ」
「はい、シェリアナ・メイと申します。あの、あなた様はどなたなのでしょうか・・・?」
「オレか?後で名乗る、とにかく隠れたいんだ。さあ、洗濯などあとにして隠れるところに連れて行ってくれ」
「へっ?あ、あの、ちょっと、待って・・・・!」
腕をつかまれ、立たされると洗濯場から遠ざかり、私たちがいつも寝起きしている宿舎の方に連れて行かれそうになる。あわてて、私の腕をつかんでいる男性にこえをかける。私は大丈夫だけど、この方がこのままだとみんなにみつかってしまう・・・!
「あの、このままいくと、下々の者たちが働くところや寝泊りするところについてしまいます。よろしければ、私のお気に入りの場所にいきませんか?隠れ家なんです」
「ん。じゃあ、そこへいこう。案内してくれ」
私は、まだ名前も知らない男性を連れ、いつものお気に入りの場所にむかった。洗濯物が気になるけれど、誰かからかくれたい、この人を放ってはおけないし。仕方ない、後で洗濯場の長のメリッサさんに怒られるとしよう。数分後、私と男性は泉のほとりにきていた。ここは、森の中にあり木々がたくさんあるため、人に見つかりにくくなっていたりする。男性に振り返って、ここです、と池をみせると男性は目をみはった。どうしたのかな?
「綺麗なところだな。王城にこのようにうつくしい泉があったとは。礼を言う、シェリー」
「ありがとうございます、って、シェリー?私のこと・・・ですよね?」
「お前以外に誰がいる。ああ、そういえば名乗るのを忘れていたな。オレの名前はラズ。敬語とかはいらねえ、ラズでいい」
「ええ?でも、あの高貴な身分の方なので、そのようなことできかねます・・・」
「オレがいいっていってるんだ、いうとおりにしろ。堅苦しいのは嫌いなんだ。次、同じことしてみろ。押し倒すぞ」
「えっ!?そ、それはイヤ。でも、あのラズはどうして隠れたいの?誰か探してるんじゃない?」
「知るか。オレにだって、休養は必要なんだ。後でどうせ戻るんだ、今だけゆっくりさせてくれ」
「わっ!あああ、あのラズ?」
ラズは、私の膝に頭をのせると、くうくうと寝息を立てて寝てしまった。眠るの、はやい・・・・・。しばらくは、ラズの寝顔を見ていたけれど、私もそのうち眠たくなってきてしまった。うつらうつらしていたけど、そのうち私の意識は闇の中に落ちていった。そして、数時間後。目が覚めた私があたりをみると、すでに真っ暗。やばい、早く帰らないと!あわててラズを揺り起こす。
「ラズ、ラズ!起きて、もうあたり真っ暗なの、起きてよ、ラズ!」
「――――ん・・・あ、シェリー。すまねえ、ゆっくり寝すぎたな。膝大丈夫か?ゆっくり立てよ」
「う、うん。じゃあ、帰ろうか、ラズ。少しは休めた?」
「ああ、ばっちり。サンキュな」
私たちは笑いあうと、城にむかって戻り始めた。同じ王城の中とはいえ、泉からだと城まで少し時間がかかった。初めて会ったところまで戻ると、ラズはくるり、と振り向いて私にいう。
「今日は楽しかったぜ、シェリー。また遊びにくる、気をつけて帰れよ!じゃあな!」
「うん、またね、ラズ!」
手を振りながら、ラズが見えなくなるまで見送り、私もまた宿舎の方へともどる。戻ったら案の定メリッサさんをはじめ、大勢の人に怒られた。急にいなくなった私をさらわれた、と思ってみんな総出で探してくれたのだそうだ。次からは声をかけてからいく、とひたすらみんなにあやまった末、許してもらうことができた。ベッドに横になりながら、ラズのことを思った。また、会えるといいな。そして、数日後。いつものように、洗濯物をごしごしこすっていると、いつか聞いたかのような大きな声。
「ラズ様――――――っ!!ラズ殿下、どこへ行かれましたか、お返事くださぁ―――――――いっっ!!!」
この声、前に聞いたよね・・・と思いながら、洗濯物を洗う手を止めずにいると、頭上がかげった。まさか、と思い顔をあげると、そこには満面の笑みをたたえたラズがいた。
「よっ、シェリー!遊びにきてやったぜ!」
くす、と笑うと私はたちあがる。ラズにむかって私は、にこりと微笑んだ。