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魔法少女のぬいぐるみは百合の花を眺めているだけでよくないですか?  作者: 苔茎花


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プロローグ:魔法少女のぬいぐるみ

 路上に落ちてたら嬉しいものってな~んだ。

お前いきなりガキになぞなぞ出されたらどうする? 真面目に考えてやるか? 何も考えずにちょっと待ってからわからないとか言ってんじゃねえだろうな。

本当はわかってないんだろ。どうせ。

答えは簡単。

未開封のタバコだ。

「えっ、えへへへへダモ」

可愛い声から気味の悪い笑いと変な語尾が飛び出してくる。路上にタバコが落ちているってどういう意味かわかるか? 

無料でタバコが合法的に手に入るってことだよ。

本当に合法か? 

お前、道端に草が生えていたとして、抜いて持ち帰っても合法だろう。

そしてタバコは草からできている。つまり、合法だ。

「しかも、雨に濡れてないし、踏まれてもない未開封。美品ダモ」

流石に雨に濡れてたり、踏まれてたら拾わない。それを拾ったら終わりだ。別に汚いからとかじゃなくて、タバコを拾う代わりに、人間性を支払う必要があるから駄目だ。サッと周りを見て、誰も見ていないことを確認し、スッと拾う。愛煙家の中では、これを素人臭いと馬鹿にするやつがいる。馬鹿め。お前らこそ、終わりが始まってるんだよ。恥を知れ。恥を。そんなもんいつまでも素人でいいに決まってるだろ。

急いで地面から広いあげて、ベランダに持ち帰った。

「キ、キチャ~~~~!ダモ」

早速開けて、開けて———

「ん?」

知ってるか? タバコを開けるにはビニールの袋をまず開けるんだ。

だが僕の手はリネン生地でできている。そうするとビニールの袋が滑って開けられない。

リネン生地っていうのはちょっと良さそうなぬいぐるみの生地とかに使われるやつだ。なんでそんな手をしてるんだって? そりゃあ僕がぬいぐるみだからだよ。

「あ、開かないダモ」

どうして開かないんだ?

こんなにも美味しそうなタバコが目の前にありながら、それにありつくことができない。どんな生地獄だよ。

「どうしてダモ~~~~」

夕日を背に悲しみ暮れる。

「うう。何が悪いんダモ」

マスコットに転生したことがわかり、一カ月経った。残念ながら前世の記憶はない。

だが、悪いことばかりじゃない。

「うるさい」

ベランダの窓が開くと真っ黒な髪に真っ黒な瞳の少女が出てきた。人を突き刺せるんじゃないかってくらいの切れ目は、美しくも威圧感を漂わせていた。

「あっ、鏡花。良いところに! これ開けてくれダモ」

「なにこれ?」

そう侮蔑するような瞳で見つめてくるが、実はそんなことはない。これが鏡花の通常状態だ。彼女はいつも心優しく、きっとタバコの封も開けてくれるだろう。

「当然たばこダモ。いやあ、ビニールが手で開けられなくってさ。あとついでにライター持ってたら貸してほしいダモ———ップギャア」

何故かタバコが顔面に飛んできた。

「あんたこのタバコ何処で手に入れたの?」

「ぬ、盗んだりはしていないダモ」

「じゃあ、どうやって?」

これを言ったら怒られる気がする。

「はやく、言いなさい」

「路上で拾ったモ」

だけど、命令を聞かないともっと恐ろしいことになるから言う。

「私に路上で拾ったものを触らせたの?」

「———はいダモ。で、でも、状態は良好だし、雨にも濡れてないから落としたばかりだとおも———ップギャア」

今度は顔面に蹴りが飛んできた。

「あなた、ベランダから一歩でもうちに入るの禁止」

「ダモッ!! 鏡花ちゃん。それは厳しいんじゃないかモ。もっと手心とかあってもいいダモ? この可愛いマスコットに免じて!」

「タバコを拾ってくる魔法少女のマスコットなんていらない」

「うぐっ」

反論ができない。

「開けられないんだったら、いらないでしょ。うちに持ち込まないで」

そう言ってタバコをひったくると投げてしまった。

「路上にポイ捨てしちゃいけないんダモ」

「ぬいぐるみがタバコなんて拾うわけないんだから、元の場所に返しただけ」

まあ、いい。後でタバコなんてもう一度拾いに行けばいいんだから。

「おっ、ラッキー。タバコが空から降ってきた」

「ダモッ!」

ベランダから外を覗くと一人の若い男がタバコを拾っていた。

「それ僕のダモ~~~~~!」

「うるさい。死ね」

傷心の僕に鏡花ちゃんが追い打ちを掛けてくる。

「どうせ開けられないんだから、最初から無いのも同じじゃない」

「開けられないのはともかく、誰かが得するのが嫌なんダモ」

そう言うと何もせずとも人に睨んだと勘違いされる顔が、まるで侮蔑するような目で見てきた。鏡花ちゃんは心優しいからきっと気のせいだよね?

「———そう。二度と家の敷居を跨がないでね」

ピシャリとベランダの閉めて、鍵まで施錠された。


「僕が何をしたんダモ」

路上に落ちていたタバコを拾っただけなのに。

「まあ、いいモ。真昼ちゃんの家に行くダモ」

真昼ちゃんの家は鏡花ちゃんの家からとても近い。真昼ちゃんはとても優しいので、家から追い出すなんてことしない。

「それで私の家に来たの?」

真昼ちゃんの部屋は女の子っぽくていい匂いがするんダモ。

「そうなんダモ」

真昼ちゃんはゆるふわ髪の女の子で鏡花ちゃんと違って酷いことしないし、いつも優しい。

「うーん」

そういって真昼ちゃんは僕のことを抱きかかえてくれた。女の子の柔らかい身体っていいな。まあ、僕もぬいぐるみだから柔らかいし、WINWINの関係ってやつだ。

「でも、私もタバコの匂いしたら部屋に入れないかも」

「え!?」

「ていうかタバコ吸いたいの?」

そう言われると困ってしまう。

「いや、別にそんなことはないっていうか。多分吸っても味分からんと思うけどダモ」

「じゃあ、なんでそんなことするの?」

「人間っぽいことしたいんダモ」

この身体はぬいぐるみなのでご飯も食べなければ、飲み物を飲む必要もない。

「う~ん。そうか。じゃあ、香水とかつけてみる? 香水だったら怒んないと思うよ」

「でも、香水って布製品につくと変な匂いにならないか?」

「なんでタバコの匂いは良くて、香水が劣化した匂いは駄目なのかな!?」

まったく真昼ちゃんは天然だからしょうがないな。

「ていうか、匂いとか汚れとかつくと洗濯機で洗濯しなきゃならないよ」

「せ、洗濯機!?」

その言葉を聞くと体が震える。

「真昼ちゃんそれは止めるんダモ! あれは拷問器具ダモ!」

「ただの電化製品だよ!?」

「洗剤の入った水で水責めして、回転させるんダモ!」

「そう聞くと悪いことしているみたいだけど、それが洗濯だもん」

「鏡花はゴミを見る目でやるんダモ」

「鏡花ちゃんは目つき悪いだけだから」

絶対アレはゴミだって思ってた。なんならどうしてゴミを洗濯機に入れるのか疑問に思ってそうだった。

「う~ん。でも、人間っぽいことでしょ。何かあるかな? ゴンちゃんは元は人間だったんでしょ」

因みにゴンちゃんという名前も彼女たちが付けてくれた。正式名称はゴンザレスだったけど、もう皆ゴンちゃんと呼ぶので正式名称で呼ぶ人はいない。

「———多分そうダモ」

自信はない。というか記憶がないのだ。一人称もなんとなく僕にしているけど、男なのか女の子なのかもわからない。

「記憶ないんだもんね。したかったこととかないのかな?」

「う~ん。思い出せないダモ」

「じゃあ、今したいことを探さないとね」

今したいことね。

「それだったら二人が仲良くしているところをずっと見てたいダモ」

ふふふ、どうだ。

良いこと言ったんじゃないか?

単純な真昼ちゃんであれば、感激雨あられだろう。

ぎゅっと僕を抱く力が強まった。

「それは無理かも」

「え?」

振り返ってみると真昼ちゃんが悲し気な顔をしている。

「———私、鏡花ちゃんに魔法少女辞めろって言われたの」

魔法少女辞めろ?

いや、なんでだ?

鏡花ちゃんは僕に悪態をつくタイプではあるけど、真昼ちゃんには言わないタイプだと思っていた。

「な、なんで?」

「危なっかしいって。いつかは大怪我をするからって」

「それは———」

否定が少し難しかった。

単純な弱い強いで言うと、鏡花ちゃんは強く、真昼ちゃんは弱い。でも、単純な強さの物差しでは人を測れない。

それに真昼ちゃんが怪我をしやすいのも確かだ。

「否定はしづらいけどダモ」

「やっぱりゴンちゃんもそう思っているんだ」

「あっ、いい意味でダモ」

「それフォローになってないよ」

そう笑うが、心から笑っているわけじゃない。そういう笑ってほしいってことじゃないんだけどな。

「でも、鏡花ちゃんに何を言われても続けていいんダモ」

十代の子供はいつも危うい。

「鏡花ちゃんはいつも悪態をつくけど、嫌がらせをするような馬鹿じゃないんダモ。多分真昼ちゃんが続けるって言ったら、多分受け入れてくれるんダモ」

自分の選択を選ぶのも一苦労だ。

「うん」

意外とこの世の中、自分の道を自分で選んでいる奴なんてほとんどいない。

誰かに言われたり、誰かが言ったことを真に受けたり、何かで聞いたりしながら、自分の道を選ぶ。それが悪いことじゃない。選択肢がないよりは選択肢があったほうがいい。

「もし、どの道を選んだとしても自分自身を偽らないほうが後悔しないんダモ」

「うん」

真昼ちゃんは、いつも明るいけど、悩むと立ち止まる。

でも、立ち止まって、悩んで、悩んで、立派な考えてに思い至るいい子だ。

「ねえ、ゴンちゃんはさ。私たち二人が仲良くしてくれたらって言うけどさ。この件がなくても重いよ」

「———重いダモか」

まあ、確かに僕だって誰かにこの人達と仲良くしろって言われたら重いかもしれない。

「だから、もっと別の考えてよ」

「別の———」

でも、多少誇張したけど、嘘は言っていない。

あの時、二人を魔法少女にしてからそう誓った。

何もできないマスコットだけど、二人を不幸にはしないと。

「そうだな———」

でも、重いのは確かだ。こんなこと言われたって人は幸せになるわけはじゃない。誰かに幸せであって欲しいとか、誰かに不幸せであってほしいと思われようが、人は勝手に幸せになっていいんだから。

「とりあえず美味いタバコを吸いたいんダモ」

「なにそれ」

真昼ちゃんをすこしだけ笑わせることができて、安堵する。

でも、二人が仲直りしたら美味いタバコが吸えるんじゃないかと思わずにはいられなかった。

「私たち、未成年だから買ってこれないからね」

「流石に買わせないダモ」

でも、多分タバコを吸いたい理由はそうじゃないんだろうな。

きっと、この世界に蔓延る敵と十代の少女が戦うという現実から逃避させてくれるんじゃないかと期待しているんだ。

「僕は魔法少女のマスコットダモ」

タバコのビニール袋すら一人で破れない。魔法の力も使えない。そして、魔法少女に関する知識もない。

本当の役立たず。

所詮マスコット。

だけど、女の子を笑わせるくらいなら、できたらいいな。


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