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聖女が死んだ日

案内された部屋はアルベルトの私室のようだった。


室内は暗く、アルベルトの前に置いてある燭台が辺りを照らしていた。

窓際へ目をやると、隙間から西陽の光が見える。

が、重たいカーテンがかかっているのか、温かな光は遮られていた。


「来たか」


静かな部屋にアルベルトの声が落ちる。


「…ご用件は?」


燭台の照らすアルベルトの表情は窺い知れない。

緊張感が増すような雰囲気に冷や汗が出る。


「リンはレオンを知っているか?」


アルベルトの問いに思い当たる節がない。

私は首を振り答える。


「いいえ」


パリン


アルベルトは飲んでいたワイングラスを床に叩きつけた。

ガラスの割れる音に肩が揺れるのと同時にアルベルトの近くから、くぐもった悲鳴のような声が聞こえた。


「…誰かいらっしゃるんですか…?」


嫌な予感に自分の鼓動が大きく聞こえる。

アルベルトはカーテンに向かって指を向け何かを呟くと、カーテンが一人でに引かれた。


太陽が沈み、辺りは仄暗く室内を露わにした。

アルベルトの座っているソファ左側に、マリーとマークスが縛られ、口を塞がれた状態で座っている。


「…マリー?マークスさん?」


二人は怯えた表情で私を見ていた。


「ど、どうして二人が?」


「リンは聖女だからな。

代わりに二人に罰を受けてもらう」


いつもの親切心を表に貼り付けたアルベルトはいない。

彼は冷酷な視線を私に突き刺す為政者だった。


「リンがレオンに会わなければ、1年は泳がしてやるつもりだったが…。

恨むなら自分の行動を恨め」


そう言うとアルベルトは立ち上がり壁際まで歩く。

彼の目線の先をみると、壁一面に剣が飾ってあった。


「ま、待ってください!

私はレオンさん?なんて知りません!」


必死に弁解してもアルベルトは表情を変えることはなかった。


「老人のような髪色に、血のように赤い目…。

リンはレオンに会ったはずだ。

何を話した?」


アルベルトの説明に庭園で会った男を思い出した。


「な、なぜか私が住んでいる場所の庭園にいたんです!

私は知りません!」


緊迫したアルベルトの空気に手が震える。

怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


私がここでミスしたら、二人はどうなっちゃうの…?


アルベルトが鞘から剣を抜く音でハッとする。

マリーとマークスの瞳が恐怖に怯えながらも、私を睨むことはなかった。


アルベルトの狂気に、二人の優しさに涙が出る。


「陛下、お願いします…。

二人は私の大切な人なんです…」


土下座の体制でアルベルトへ必死に懇願する。


静寂。


アルベルトが考えてくれている。

そう思い顔を上げた時だった。


「ゔゔッ!」


目の前でマークスが切り伏せられた。

呼吸の仕方を忘れて目の前の光景に目を見開く。


マリーと目が合う。

諦めたように、お別れを言うように目を細めるマリー。


待って!初めて出来た友達なの!


「待って…!」


振り下ろされる刃。

辺り一面に鮮血が花びらのように舞う。

アルベルトは笑っていた。


…そうか。

アルベルトは私の心を折るために二人が“私のせい”で殺されるのを見せたかったのか。


「これに懲りたら自重しろ」


そう言い残し私を置いて部屋からアルベルトは出ていった。

私は動けずに二人を見てることしかできなかった。


「うっ…」


呻き声に顔を上げる。


「マリー!」


「…ベッドの下…に…はり…ゴボッ」


大量の血を吐き苦しそうにするマリー。

私は思いつく限りマリーを助けられる物を【想像】するが何も出てこない。


少しでも呼吸が楽になるようにマリーを抱え起こす。

握った手は、温かかった。


「手紙…必ず見てください」


私の手を握り返し真剣な表情で訴えてくる。


「わ、わかった」


涙でマリーの輪郭がぼやける。


「…楽しかった。一緒にお茶を飲むのも冗談を言い合うのも…」


「私も!だから、だからまた…」


「…ありがとう、リンちゃん。

私の分まで…幸せになって」


そう言ってマリーは笑った。

私は見ていることしかできない。


「今…お側に行きます…。

雪子様……」


マリーは静かに瞳を閉じた。






時間がどれだけ経ったのか。

私はまだ二人の側から離れられずにいた。


服の袖で二人の顔を綺麗に拭う。

怖かったはず、痛かったはず。

なのに二人の顔からは、それらが一切感じられない。


ふと、【想像】を使って二人に花を作ろうと思い至る。

しかしできるのは花とはかけ離れた何か。


『それが花ですか?全くリン様は…』

『最初の頃より形になってます!頑張ってください!』


二人の声が今にも聞こえてきそうだ。


「…はは、あははははは」


麻痺した心が自衛からか笑いが込み上げてくる。

目からは絶えず涙が溢れてくると言うのに。


「…お前」


誰もいなかったはずの部屋。

背後から声が聞こえた。


黙って私は振り向く。


庭園で会った男ーーレオン。


「…私が貴方に会ったから、こうなったそうです」


「アルベルトは俺が嫌いだからな」


レオンの感情のない返答に苛立ちが募る。

私はレオンを睨みつける。

二人を殺したのはレオンじゃない。

だけど…。


「…貴方が庭園に来なければ、マリーもマークスも!

何で…何で陛下は二人を…。

貴方は誰なんですか!?」


「俺の名前はレオン・ルミナス。

アルベルトの義弟、第二王子だ」


「…おとうと?」


国王が私を呼び、国王が私の大好きな二人を殺した。

その弟?王族?


「…だったら!

私を殺してよ!二人じゃなくて私を殺して!」


「お前はそれでいいのか?

お前が死んでも二人は元に戻らない。

それは、逃げてるだけだろ?」


「逃げてなにが悪いの!?

私は少し前まで人が身近で死ぬこともない平和な世界にいたのに、無理矢理ここへ呼んだのは貴方たちじゃない!」


「…そうだな」


レオンがしゃがみ込み私の顔を優しく拭う。

アルベルトが二人を手にかける時の笑顔を思い出し振り払った。

色んな感情が心に沈澱し何も考えられない。


「…俺をどう思っても構わない。

ただ、マリーを裏切らないでやってくれ」


そう言うと男は立ち上がりマリーを抱えた。

私は男の足にしがみつき抵抗する。


「マリーをどうするの!?

私から友達をとらないで…お願い…」


「マリーは家族のもとへ送ってくる。

……部下だからな」


レオンの声色にはマリーを惜しむ気持ちが含まれている気がした。

私は立ち上がり、マリーの顔に手を添える。


「…さようなら。

マリーをよろしくお願いします」


「ああ」


レオンは煙のように目の前から消えた。

私の友達を連れ帰るためにーー

書きながら泣きそうになりました。

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