初めての友達
部屋に戻っても、私は現実を受け止めきれずにいた。
聖女。
魔族。
そんなゲームのような言葉が、現実に私を縛りつける。
そんな私にマリーは紅茶を淹れ私を気遣ってくれた。
「リン様とおっしゃるのですね」
マリーの発言に今更思い至る。
「ごめんなさい!私の名前は三神凛と申します」
深々と頭を下げる私を焦って止めるマリー。
このやり取りが面白くてマリーと二人笑った。
「マリーも座って一緒に飲んで」
遠慮するマリーを半ば強引に椅子へ誘い、対面に座った。
遠慮がちに席に着いたマリーは思い出したかのように笑った。
「どうしたの?」
「以前お仕えしていた主人様も……よく、一緒にお茶を飲もうと誘ってくださって」
懐かしむようなマリーの表情に相手を尊敬する思いが感じとれた。
「そんな大切な方がいるのに私の傍にいて大丈夫なの?」
「ええ…。その方はもういませんから」
聞いてはいけないことを聞いたと思った。
マリーは絶えず笑顔だが、どこか暗い。
「ごめんなさい」
「…大丈夫ですよ。私は、あの方を忘れませんから」
申し訳ない気持ちでいっぱいの私にマリーはまた笑ってくれた。
現実世界でマリーがいたら友達になれたのに…。
「!そうだ!私たち友達なろう!」
私の閃きにマリーは面食らったように固まる。
「い、いけません!リン様のような聖女様とただの側仕えがお友達なんて…」
現実世界で友達になれないなら、今から友達になればいいんだ!
「私はマリーと友達として仲良くしたい」
私の真剣な表情にマリーはついに折れた。
「人前で友達って言ったらダメだからね」
そう言って、マリーは少しだけ寂しそうに笑った。
緊張と不安の連続だった私には救いだった。
二人で飲んだ紅茶は、今までの飲み物の中で一番美味しかった。
「ところで…」
私はマリーに気になっていることを聞くことにした。
「魔族って何?」
「そうね…。
城の北側に森があって、その“黒の森”を抜けた先に魔族の国があると言われてるわ」
「戦争になるほど仲が悪いの…?」
「うーん…。
実際あると言われてるだけで見た人はいないから何とも…。
“黒の森”も魔物がいるから立入を禁止されているし」
うわ。
この世界、魔物もいるんだ。
ガックリと項垂れる私にマリーは言葉を続ける。
「あ、でも先王陛下が魔族との共生を言っていらしたから、いるのかも?」
共生? それなら、聖戦は何のためにあるのだろう。
謎が減るどころか増える一方に頭を抱えるしかない。
「じゃあ、聖女ってなんなの?」
「私が聞いてるのは、異界から来る女性で特別な力を持っているということしか…」
特別な力…“ギフト”と呼ばれているもののことと推測できる。
「私以外にも聖女っていないの?」
「…今はいない」
マリーのその言葉が、なぜか胸の奥に重く残った。
重い空気に耐えられず話題を考える。
「マリーはこのお城に勤めて長いの?」
「5年ほどになるわ」
「…なにかルールってある?」
マリーは一瞬、言葉を探すように視線を落としたあと、注意点を教えてくれた。
①王弟に関わるな
②夜間部屋から絶対に出るな
③贈り物を寝室に置くな
「え?なんか全部不穏なんだけど…」
マリーは苦笑いをし理由については答えてくれなかった。
翌日。
部屋で朝食を取り、マリーと談笑をしているとノックの音が鳴った。
マリーが取り次ぐとそこにはマークス。
「改めて、私はマークスと申します」
そう腰を折るマークス。
ローブ越しでは分からなかったが、三十代ほどの痩せ型の男だった。
自分以外で初めて見る黒髪に、思わず親近感を覚える。
だが、その緑色の瞳に見つめられた瞬間――
ここが異世界であることを、改めて突きつけられた。




