謁見
怯えるマリーを後にし扉を潜る。
最初にいた部屋とは違う、威厳に満ちた空間。
真っ赤なカーペットの先、玉座には金髪の男――国王が座していた。
何も知らない私でもわかった“謁見の間”だと。
ずらりと並ぶ兵士と雰囲気に呑まれ足が震える。
作法がわからない私の頭は既に真っ白だ。
失礼にならないであろう場所で止まる。
すると国王の横に立つ男に声をかけられた。
「もう三歩近くに寄り跪きなさい」
体がびくっと跳ね、言われた通りにし俯いた。
周囲の視線が怖くて顔を上げることができない。
「私は宰相位を務めるローデリヒと申します。
そしてこのお方こそ、ルミナス王国国王陛下。
アルベルト・ルミナス様でございます。
礼を尽くしてください」
国王の横に立つ、冷たい目をした宰相――
ローデリヒが私を見下ろしそう言った。
『礼を尽くせ』
どうしたらいいのかわからず戸惑っていると、アルベルトが口を開いた。
「名は何と言う?」
「三神凛と申します…」
「リン、良き名だ。
わかっていると思うが、リンは召喚された。
言っておくが、元の世界へは帰れぬ。
…何か聞きたいことはあるか?」
“帰れない”その一言に地面がなくなったのではと思うような感覚に陥った。
跪いていなかったら倒れていた。
ローデリヒが咳払いをしハッとなる。
「…ど、どうして私をお呼びに?」
私の問いに国王は一瞬考える仕草を見せ、口を開いた。
「神殿より聖戦が開かれると予言が出た。
来る魔族との決戦に備え聖女を迎えよと」
「…たたかう…?」
戦う?私が!?
ここはゲームの世界ではない。
つまり、命の保証はないということ。
恐怖と動悸で汗が止まらない。
そんな私に国王は笑顔で答える。
「召喚に応じた聖女はギフトを持ち悪を祓うのだ」
頭が働かない。
何か聞かなきゃいけないのに、それがわからない。
「リン、其方は人々の平和のため
世に力を貸してはくれぬか?」
国王の問いにハッとした。
『陛下の問いに、“是”と答えないでください』
マリーの声が頭の中で反芻する。
「…力の使い方がわかりません」
何が正しいかわからないが、咄嗟に口に出た。
「それもそうだな。
あの者をここへ」
アルベルトの声に控えていたであろう人物が出てきた。
「ここに」
そこには召喚された時に見たローブ姿の男が立っていた。
「リンにギフトを伝授してくれ」
「魔法使いマークスが陛下の名、しかと承りました」
アルベルトは満足そうに頷き、再び私を見据えた。
「ではリン、この者に教わりギフトを使いこなしてくれ」
アルベルトのこの発言で場は解散となった。
最後に見たマークスの同情的な視線が心に引っかかったまま。
どうやって戻ったのか気がついたら扉の前でマリーが手を握っていた。
「……戻りましょう」
マリーの静かな声と繋がれた手を頼りに元の部屋へ戻る。
握られた手の震えが、私が安全ではないことを知らせていた。




