逃走劇
再び謁見の間に立つ私。
以前は兵士が並び立っていた場所に、正装を綺麗に着こなす人々が私を値踏みしていた。
以前の私なら臆していたであろう状況に、笑いが込み上げる。
まるで二人が背中を押しているようだ。
「よく来た、リン」
玉座に腰掛け、肩肘をついているアルベルトが声をかける。
「……」
私は黙ってアルベルトを静かに見た。
そんな私の態度に周りの貴族が非難の声を上げる。
「陛下が声をかけているのに」
「傲慢な態度だ、アレが聖女とは」
なんとでも言えばいい。
二人の死を経験し、死を望み、死に物狂いでギフトを磨いた私に響くことはない。
雰囲気が変わった私にアルベルトは片眉を上げた。
片手を上げ、騒ぐ貴族を鎮め口を開く。
「今日呼んだ理由はわかるか?」
アルベルトの問いに私は首を横に振る。
「リン。
貴様が国益で生活をしておきながら、聖女の責任を負わぬその態度に問題がある」
私を放置しておいて、貴族の前ではそう言うのか。
早くに見切りをつけてよかった。
「従って其方の聖女という称号を剥奪し、国外追放を検討している」
私の表情を観察しながらアルベルトは続けた。
「もし其方が罪を認めるなら、今まで通り城で面倒を見てやろうとも思う…。どうだ?」
「…はは」
乾いた笑いが喉の奥から込み上がる。
アルベルトはこの期に及んで、私から“是”を引き出そうと、ギフトを奪おうとしているのだ。
鳩尾に集中し、手首に付けたブレスレットをなぞった。
さぁ、始めようかーー
ブレスレットを引きちぎり、天然石が床に散らばる。
「兵よ!リンを捉えよ!」
私の行動に警戒したアルベルトは兵を集め私を拘束しようと指示を飛ばしている。
しかし私の方が早い。
「【想像】」
途端に床に散らばった天然石が爆弾に変わり爆発する。
威力も低く殺傷能力もないが、見た目は派手だ。
「リン!そこを動くな!」
アルベルトの声を背に受け、謁見の間を出るため踵を返す。
私に圧力をかけるため集めた貴族が邪魔をしているのか、場が騒然とし兵士がこちらに来る気配もない。
ブレスレットを再度引きちぎり、扉を守っている兵士に天然石の爆弾を投げつける。
兵士が混乱した隙に、謁見の間を出て真っ直ぐ北へ向かう。
すると私の頭上高くに白い鳩が円を書くよう旋回している。
嫌な予感がしたのと同時に、背後から迫る足音が増えた。
その鳩を目印に兵士たちが私を追ってきたようだ。
「なるほど、あの日レオンと会ったのがわかった理由か」
私の背後に迫る兵士。
「【想像】」
私は服にギフトをかけ、素早く脱ぎ兵士たちに投げつけた。
邪魔なドレスを脱ぎ、軽装の騎士服になった私は速度を上げる。
レオンから“魔族の国亡命”を手助けする条件を出された。
それがこの身体強化。
引きこもりとは思えない私の走りに、重装備の兵士たちは引き離されていく。
「やっぱり少年漫画は読んでて正解だね!」
漫画のような自身の行動に笑いが込み上げた。
とは言え、長くは続かない。
“黒の森”を目前に私は振り返り、兵士たちを見た。
流石は軍に身を置く兵士たち。
皆、身体強化を使っているのだろう、身につけて日が浅い私は息が切れているのに対し、まだまだ余裕そうだ。
「聖女様、我々と来ていただきます」
そう口にし一人の兵士がにじり寄るのを先頭に、私を囲むように兵士たちが動き始める。
「【想像】」
私は手を上げギフトを使用する。
現れたのはサブマシンガンの“AUG”。
小回りのきくゲームでお世話になった思い出の品だ。
兵士たちは私のギフトに面食らうも、銃を見たことがないからか、余裕の表情を崩さない。
私は持っている天然石を全て使ってマガジンを【想像】しAUGに込め、兵士に銃口を向ける。
覚悟を決めたはずなのに、手に汗がじっとりと貼り付いた。
下唇を噛み、引き金に指を添えた次の瞬間。
ズダダダダダダッ
AUGは火を吹き、近距離にいた兵士に直撃した。
当たった兵士は倒れ込み呻き声を上げている。
死んでいないことにホッとした。
仲間の被害を目の当たりにした他の兵士は動けないようで、その場で固まる。
「な、なんだ?」
「魔法?」
脅威を素直に感じ取ったようだ。
その隙に、ポケットに入れておいた小石を兵士の足元に投げ込む。
「【想像】」
小石は爆竹となり、兵士たちの足元で爆ぜる。
パチパチパチパチ
「うわ!」
「な、なんだ!?」
兵士が混乱している隙に私は“黒の森”へ入った。




