05
店に戻ると、俺はカウンターに座り、再び茶をすすった。
エルーシアとリゼットは、椅子に座ったまま、呆然としている。
沈黙が、店内を支配していた。
「……ねえ、クロさん」
しばらくして、リゼットが口を開いた。
「あたしたち、これからどうすればいいの?」
「さあな」
「さあなって……!」
「とりあえず、都市は無事だ。インフラも機能してる。食料も、当面は備蓄がある」
俺は、適当に答えた。
「だから、慌てる必要はない」
「でも……」
エルーシアが、不安そうに俯いた。
「ガストンさんたちも、教会の皆さんも……」
そうか。
こいつら、仲間と離れ離れになったんだな。
「そいつらは、元の世界にいるんだ。大丈夫だろう。それよりも.....」
(……そういえば、こいつら行く当てないよな)
俺は、ふと気づいた。
勇者一行として、この街に潜入してきたんだ。
当然、この街に家も、知り合いも、金もない。
「……お前たち、泊まるところあるのか?」
「え……?」
二人が、顔を上げる。
「泊まるところ……ないです」
エルーシアが、申し訳なさそうに答えた。
「金は?」
「それも……」
「そうか」
俺は、ため息をついた。
やれやれ。
面倒なことになった。
「二階に空き部屋がある。とりあえず、そこに泊まれ」
「え……!?」
二人が、同時に驚きの声を上げた。
「で、でも、そんな……!」
エルーシアが、顔を真っ赤にした。
「いいの、クロさん?」
リゼットが、じっと俺を見つめてくる。
「面倒だから、さっさと決めるぞ。嫌なら他を探せ」
「い、いえ!ありがとうございます!」
エルーシアが、慌てて頭を下げた。
「……じゃあ、お言葉に甘えるわ」
リゼットも、頷いた。
「よし。じゃあ、案内する」
俺は、二人を連れて、店の奥へと向かった。
二階の空き部屋は、小さいが清潔だった。
二つのベッドと、小さなテーブル。窓からは、下町の通りが見える。
「わあ……」
エルーシアが、部屋を見回して、感嘆の声を上げた。
「綺麗な部屋、ですね」
「まあな。使ってなかっただけで、掃除はしてある」
俺は、適当に答えた。
「とりあえず、ここで休んでくれ。夕飯は俺が作るから」
「あ、あの!私も手伝います!」
エルーシアが、慌てて声を上げた。
「お世話になるのですから、何かお手伝いを……!」
「いや、お前、料理できるのか?」
「え……」
彼女が、言葉に詰まる。
「……できるように、頑張ります」
「そうか。じゃあ、また今度な」
俺は、苦笑しながら頭を掻いた。
「ありがとうございます……!」
エルーシアが、満面の笑みで頭を下げる。
その笑顔が、妙に眩しくて。
俺は、思わず目を逸らした。
「じゃあ、ゆっくり休んでくれ」
そう言って、俺は部屋を出た。
階段を降りながら、俺は内心でため息をついた。
(やれやれ、どうしてこうなった)
元魔王の俺が、勇者と同居とか。
しかも、都市ごと地球に転移とか。
(まあ、バレなきゃいいだろう)
とりあえず、正体を隠し通せば問題ない。
それに、なんとかなるさ。
いつだって、そうやって生きてきた。
(とりあえず、飯の準備でもするか)
俺は、店の奥へと向かった。
こうして、元魔王と元勇者の、奇妙な共同生活が始まったのだった。




