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第二話 きさらぎ駅のコインロッカーベイビー②

「いやあ、本当にすみません。でもアタシらじゃどうにもならなくてねえ」

 ぺこぺこ頭を下げながら、中年男性は浮草を(いざな)う。

「管理人さんになんとかできないこと、おれがどうこうできるとは思えないんだけど」

「普通の迷子さんならねえ、すぐに現し世に送り返しますし、そうでなけりゃ電車に乗ってもらうんですけどねえ、久しぶりのレアケースでしてねえ」

 中年男性は奇妙なくらい印象の薄い顔立ちで、作業着につけた名札もなぜか読むことができない。知っている文字のはずなのだが認識できない。浮草ですらそうなのだから、遭遇した一般人は怖かろう。でも浮草は、このひと自身はなんとなく覚えている。彼はだいたいこの地域一帯で、時空や次元を越えてしまった生きた人や、死んだことに気付いていない人を導き、迷子にならないよう、世界の理が乱れぬようにしている「管理人」だ。神に等しい存在なのだが、そんなモノにレアケースといわしめるとは。

「…それって、九年ぶりぐらい?」

「さすが、鋭い! それで浮草くんにお声がけしたわけなんですねえ」

「えー…」

 下手に出ているし、悪意もないのだが、こういう人ならざるモノは頑固かつ強引だ。とりあえず言うことを聞いておこうと、浮草は諦めた。もっと幼い頃、「このひとたち」に散々迷惑をかけた()()()()()()()でもあるし。

 管理人さんに続いて、無人の駅舎に入る。無味乾燥な古いホームには、当然安全のためのホームドアなどなく、そもそも自動改札機もない。しかし、木造の駅舎自体は年季の入った古い良さがあって、上手な人が写真を撮ったらエモいだろうーーまあここで撮った写真はデータを消すべきモノにしかならないが。

 ホーム横の切符を売る窓口の中は真っ暗だが、何かの気配はある。それが浮草に、どうぞお入りください、と告げてくるのが「わかる」。

「浮草くん、こちらです」

 窓口の真っ暗闇に頭を下げてから、浮草は声の方へ急ぐ。管理人さんが示すものを見て、浮草は、ああやっぱりねとウンザリした。

「コインロッカーかよ」

「はい、コインロッカーです。まだICカード対応になってないんですがねえ、それより先に自動改札機とホームドアかなあと。少しずつ導入したいですねえ、各駅に」

「ああ、そうですか。えっと…ああ、これ?」

 管理人さんの世間話を無視して、浮草はコインロッカーを「よくみる」と、すぐにわかった。

「やはり浮草くんを呼んでよかった! それです。あ、こっちはダメですよ、食べられちゃいますからねえ」

「みえてるよ。えー…開けたくないなー。絶対にめんどくさいよこれ」

「そんなこと言わずに! みんな困ってるんですよ。助けてください」

「できるかどうかなんて、わかんないよ。おれ、普通の子どもだよ?」

「いやいやいやいや、ご謙遜を!」

 たしかに、浮草は普通ではないのだが、謙遜はしていない。なぜって、万能には程遠い。時空の管理人になんとかできないものを、なんとかすることなどできるだろうか。

 だが、コインロッカーを「みた」瞬間に、自分が呼ばれた理由は分かった。

 浮草はちょっと背伸びする高さのコインロッカーのひとつを開く。中から、優しい萌黄色の光が溢れだした。

 その優しい光の中、同じ萌黄色のおくるみに包まれた赤ちゃんがひとり、スヤスヤと眠っていた。

時空の管理人さんは、いわゆる「時空のおっさん」です

書き終わるまで気付いてなかったのですが、このお話、近代のインターネット発怪異オンパレードです

きさらぎ駅筆頭に、彼らを産み出した全ての人に感謝いたします

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