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第十五話 彼女と彼の高校デビュー①

「高校生活は、あんまり目立たず大人しい方の高校デビューがしたかったんだけどな」

 心から悲しげに防人(さきもり)薔薇(そうび)はため息をついた。今年度が始まって数日。ピカピカの高校一年生になった薔薇は派手に目立っていた。

「前よりは、人間らしい力加減できるようになったんじゃない?」

 封印タイプの高校デビューをするつもりだと、入学前から聞いていた幼馴染みは、言葉とは裏腹に酷薄な笑みを浮かべている。

「絶対に無理だと思ってたけどね」

 薔薇の幼馴染みのひとり、羽々(はば)緋水(ひすい)は残酷な一言を付け足しつつ、更衣室のロッカーを閉めた。

 先程まで、今年度最初の体育の授業、体力測定が行われていた。今は、着替えを終え、それぞれの教室に戻ることになる。市立春星(はるぼし)高校は、体育の授業時間は同じでも、男女で分けて行われる。体力差が明確になってきているので、球技などで危険が伴うからだ。

「どこも変じゃない?」

「うん、だいじょぶ」

「アンタも、髪をちゃんと結び直したわね、えらいえらい」

 薔薇と緋水は、お互いの身なりを確認しあう。

 薔薇は背の半ばである黒髪をざっくりとした三つ編みにしている。運動で乱れていたので、きちんと編み直し済み。まだ運動の高揚が残る焦げ茶色の両目はキラキラを通り越してギラッとした獰猛な光が宿る。

 高校指定の制服は、ルールがとてつもなく寛容で、改造は禁止だが男女兼用となっており、薔薇はブレザー、ネクタイ、スラックスという組み合わせだ。夏には暑いだろうからスカートにするつもりらしい。普段スカートで過ごし、真冬はスラックスにする生徒も、当たり前にいる学校である。

 ちなみに、ネクタイの結び方は春休み中にきちんと練習したというから、根はたいへん真面目である。

 小柄ではあるが元気なスポーツ少年のような薔薇に対し、緋水はブレザー、リボン、スカート、黒のハイソックス。不思議な光沢をもつ長い黒髪は、体育の授業中は邪魔にならないように纏められていたが、いまは黒い滝のように背に流れている。スラリとした体つきで、細い目のうりざね顔。制服も着こなしているが、平安時代の装いのほうが似合いそうな和風美人だ。


「防人さん! ほんとーに、部活どこにも入らないの?」

 更衣室を出たところで、クラスメイトに声をかけられた。彼女は…バスケ部だったかバレー部だったか。春星高校から知り合った同級生の顔と名前とプロフィールがまだ一致していない。匂いなら既に覚えているのだが。

「あー、うん、アルバイトの申請通ったし、部活はお金かかるしさ」

「うーん…だよねえ…知ってたけど…でもなあ、防人さん、めっちゃ運動神経いいんだもん! えげつないよ! 垂直跳びで負けると思わなかった! バレー部の名折れ…というか、もう、まじで一緒に全国目指したい!!」

 申し訳なさそうに半笑いを返す薔薇に、バレー部のクラスメイト(顔と部活はこれで覚えた)が、頭を抱えて仰け反る。負けたと認め、かつ仲間になってほしいとは、なんて素敵なスポーツマン。

「いやあ、防人さんが入ってくれたら絶対に夢じゃないよ全国! 既に今年のメンバーは過去最高とか言われてて……でも部活はお金かかるのは事実だからなー」

 たしか、春星高校の強豪部活は女子バレー部、男女剣道部、男子柔道部、文化部も数学オリンピック常連だったはず。

「すまんねえ」

「ううん、ご家庭のことだし…っていうか、超デリケートな話だよね。ごめんなさい、物凄く興奮しちゃって…だってやばかったから…」

「家庭の事情は、同じ中学のみんなフツーに知ってるし、隠すつもりないから気にしないで」

 ジタバタする激アツなバレー部クラスメイトに苦笑しつつ、薔薇は並んでC組の教室へ戻る。緋水はB組なので途中で別れた。


 薔薇はまっすぐ自分の席へ向かう。もう次の授業が始まる寸前だ。次は数学か……気分が一気に落ち込む。小学生の頃から、学校の授業はとても真面目に受けているのだが、なぜか数学と物理など数字の絡む科目とは相性が悪い。前世で数字の王国(?)を焼き払い、国民を全員串刺しとか残虐な処刑をして嫌われてるに違いない、と意味不明な妄想に逃げるしかないくらい成績が悪い。

 その代わり、国語や外国語、歴史の成績はとても良く、また体育は言わずもがな。おそらく、彼らの国を救うために、数字を虐殺したのだろう(???)。

 数学の授業は、幼き日々の算数の頃と同じく、わけわからんまま終わった。なにをどう質問したら良いのかすら分からない。虚無の顔で次の授業の教科書を出す。それが終われば、楽しいお昼ごはんだ。


◆ ◇ ◆


「アルバイトの申請通ったんだ。良かったね」

「うん、ありがと。今日の帰りに面接にいくって書類も、もう朝出してある」

「行動が早いな」

「うちの学校、厳しさとおおらかさの落差スゴイよねー」

 机を三つくっつけて、お昼ごはんを食べる薔薇と、春星高校に入ってから新しくできた二人の友達。

 アルバイトについて話題にしたのは望月(もちづき)紅玉(ルビー)。ライトグリーンに染めたショートヘア、つり気味の鋭い焦げ茶色の目。制服はブレザー、ノーネクタイ、スラックス。ちなみにタイとリボンは行事以外はつけなくても可という自由っぷり。ご覧の通り、髪色も自由。

 そんな自由きわまりない校風に、ほんわか感想をのべるのは浅見(あさみ)翼輝(つばき)。黒髪は長めだが、シンプルなポニーテールにまとめ、アスリートとして引き締まった体をブレザー、ノーリボン、スカートに包んでいる。彼女はその日の気分でいろいろ組み合わせを変えてくる。実に自由だ。

 市立春星高校は、「生徒の自立・自律・多様性を全力で推奨する」という先進的な校風でわりと有名である。最も有名なのは、当然この制服や容姿の自由っぷり。女子生徒がスラックスという学校は増えつつあるが、春星高校にはスカート姿の男子生徒がチラホラいる。少数派ではあるものの、この自由のために入学してくる生徒がいるくらいなのだ。

 しかし、その自由には厳格なルールが伴う。

 紅玉(ルビー)のように髪色も自由、更には女子も男子も化粧やアクセサリー、自由。


 ただし、正当な理由なく遅刻早退、成績不振があれば、その自由を剥奪する。

 例えば、朝、化粧していてバスに乗り遅れて遅刻したとか、授業中に眉整えてましたとか、髪型や化粧が崩れるので体育は出ません、などである。

 その場合は「学業を妨げるもの」と判断されて、親や保護者に連絡がいき、オシャレは禁止となる。とはいえ、制服の組み合わせは自由のままなので、優しすぎる校則といえる。


 そしてアルバイト。これは本来、一年生の最初の中間テストの成績如何で、申請の可否が決まる。単純に成績が良ければ許可され、その後の定期テストで成績が悪くなれば即刻辞めさせられる。


 しかし、例外が存在する。

 家庭の事情、である。市立、つまり公立高校ゆえに経済的に少し厳しい家庭でも、せめて高校くらいは、と無理をしてでも進学させることはままある。中卒では職種も限られるので、よくある事情だ。そういった経済的に不利な家庭ーシングル家庭や傷病のある家族の看病・介護、その他様々な事情がある場合、一年生の最初からアルバイト可能となる。一応、成績が悪すぎると面談などが行われるが、得意科目があればオッケーという凄まじい寛容さだ。こんなに自由で、国からなんか言われないのかと心配になるが、春星高校の卒業生は、進学組も就職組も、優秀であることでも有名だ。有名大学に行くだけではない。卒業後の業界で成果を出し、成功する卒業生が数多くいるのだ。自由な校風が、結果的に若くして才能の開花を促し、卒業後に実績を積み上げていくという正のループが生まれている。

 信頼と実績。これが、市立春星高校の自由を守っているらしい。

 閑話休題だが、初代校長から二代目校長になったとき、いわゆる四角四面の校則にしたとたん、進学率ががた落ち、不登校児童が増え、不良も激増して三年でもとの校則に戻ったという伝説がある。


 現時点で、入学から数日。当然中間テストはまだまだ先だ。その上、薔薇自身、数学関連がやばいのは中学からの成績表から学校側に把握されている。その上でアルバイトの許可がおりたのは、薔薇には両親がいないからだ。

 成人済みの兄が二人いるものの、二年前に保護者だった大おじが亡くなってから、未成年後見人がついている。そういう家庭環境であるため、入学数日でアルバイト許可となった次第である。

「私も中間テストがんばってバイトやろーっと」

 紅玉はライトグリーンの髪だけでなく、耳や鼻、唇にピアスをつけ、化粧もバッチリだ。ネックレスもゴツめのものを身に付けて、とてもオシャレだ。

「わたしは、まあ普通にやるけど、サッカーに集中する」

 と翼輝つばき。身長155cmで薔薇より2cm高いだけで小柄だが、鍛え上げられたアスリートだ。幼い頃から兄弟と共にサッカーを続けており、今も地元の女子サッカーチームに入っている。

 春星高校のある新市街では超有名らしいが、旧市街から通う薔薇も、同じく新市街住みの紅玉も知らなかった。

 全くタイプの異なる三人だが、こうしてかたまったのは、「名前がギリアウトのキラキラネームで、初見で読めねえ」というものだった。なにがきっかけか忘れたが、名前を端緒にして、性格や距離感が合ったためにお互い一緒にいるのが苦にならず、我が道をいきながらもつるむという、緩い集まりを形成している。

「バイト先ってどこ?」

「家に帰る途中にあるホームセンター・ワシントンってとこ」

「へえ。力あるから全然うかるんじゃん?」

「計算はレジがしてくれるしねー」

「数字の話はやめて……」

 本気で青ざめて震える薔薇に、親しみを込めて笑う紅玉と翼輝。

「んでも、マジで今日の薔薇スゴかったよ。斑目(まだらめ)先生ってさ、うちの学校の風紀兼柔道の顧問なんだけど、「金の鉱脈だ!!」って叫んでたよ」

「男子見てたはずだよね? 斑目先生は」

「金の鉱脈ってどういう意味なの?」

「なんにでもなれるゼ的な意味じゃないの、スポーツの分野で」

「でも斑目先生って、風紀でバイトの申請の審査に関わってるからだと思うけど、なんも勧誘してこなかったよ。めっちゃ見られてたのは知ってる」

「見た目デカいしコワいし筋肉だけど、優しい筋肉だよね」

「優しい筋肉とは?」

 姦しく笑いあう三人。

 そう、今日の体育の授業は体力測定。薔薇はそこで、女子どころか男子の平均すら上回る結果を叩き出してしまったのだ。とはいえ、驚いていたのは春星高校で初めて出会った通称・新市街の生徒や教師だけで、小中と長年同じ学校に通っていた旧市街メンバーからすれば当然の結果であった。

 ちなみに、薔薇は体力測定以前にも目立っていた。

 入学式当日の、最初のホームルーム。担任教師に質問を促され、いの一番にアルバイトの申請方法とルールについて、クラスメイトのただ中で訪ねたのだ。本人は素直に質問したかっただけだが、結果的に家庭になんらかの事情があることが周知され(なお旧市街組みは普通に知ってる)、更に歯に衣着せぬヤツだと認知された。

 その様を全て見聞きしていた同じクラスの幼馴染み、月宮(つきみや)栄地(えいじ)から「潜む気、本当にあるの?」と珍しく呆れられた次第であり、緋水ともう一人の幼馴染みにも知られて、自らの軽率さのせいとはいえ、軽く落ち込んでいる薔薇である。


 とはいえ、子どもというものは自分のことでけっこう忙しい。間違いなくクラスで一番最初に顔と名前を覚えられたのは薔薇だが、日が経てば薄れて人混みに紛れられるはず。

 旧知は全員が「無理」と断じているし、付き合い数日の紅玉と翼輝ですら「無理だろなあ」と思っているが、みな友情ゆえに口には出さない。

 そもそもなぜ、薔薇は彼女の美徳を隠して「大人しくしよう」などと考えているのか。なにも恥じることなど、彼女にはないー薔薇を知るものはみな、そう思っているのだが。

こんな学校がホントにあったら、まじですごいですね

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