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第十一話 きさらぎ駅のコインロッカーベイビー⑪

『ご利用のお客様にお知らせします。緊急の事案につき、当列車は行き先を変更いたします。生きているお客様、天国行きのお客様はご利用になれません。たいへんご迷惑をおかけいたします。お見送りは黄色い線の内側へ。それでは、特別鈍行(とくべつどんこう)地獄行(じごくい)き、発車いたします!』


 やみ駅の暗がりに静かに沈んでいた箱形のアトラクション電車が火を吹いた。

 小さな子どもを喜ばせるためのまろやかなデザインだったそれは、灼熱の炎の中でかたちを変える。

 逆巻く炎の中から現れたのは、未だ熱を帯びた熔岩で造り上げたかのような灼熱の黒。巨大な鎧武者にも似た、猛々しい威容なる列車。

 先頭車両は、鬼の頭。牙が何本もせりだし、その隙間から炎が溢れる。二本の角が天を突き、ギョロつく目玉が駅のホームをねめつける。

「きゃあ!!」

 当たり前だが、あや香が悲鳴を上げる。鬼の頭はハッとして、慌ててだいぶヘタクソな笑顔になる。表情筋が笑みに慣れていないのだ。

「???」

「あや香さんを睨んだんじゃないよ、ごめんねだって」

「へ…あ、はい…」

 浮草の気の抜けた説明に、あや香は鬼の頭にむかって、ちょこっと頭を下げる。すると、改めて鬼の頭は目を閉じて口角を上げて笑ってみせた後、ギンッ!と音がしそうな鋭さで車両後方の、魅乃島を睨み付けた。

 あや香が思わず視線を追うと、車掌さんや小人たちの姿はなく、管理人さんのみが魅乃島の前に佇んでいる。

「いやいや、あなたも随分お可哀想な人ですねえ。でもねえ、あなたの場合、自業自得も甚だしいですからねえ。こちらのお嬢さんより遥かに多くの選択肢があったっていうのに、まあ…いろいろやらかしてますからね、アレですね、情状酌量の余地なしとのことですよお」

 バァーン! と魅乃島のすぐそばのドアが開く。中からは、手に手に物騒な凶器を握った小人たちが現れて、ワサワサと魅乃島の体に群がった。虫にたかられたかのような悲鳴が上がる。

「まあ、四十九日の間に、誰かひとりでも供養してくれる人がいるといいですね。それじゃ、お願いしますねえ」

 管理人さんの声音は、内容に反して、うそ寒くなるような無関心さがありありと滲んでいる。小人たちに集られた魅乃島は、吸い込まれるように灼熱の列車に引きずり込まれる。音を立ててドアが閉まり、悲鳴もなにも聞こえなくなる。

 そして、再び陰気な声が、耳に染み込むように、やみ駅にアナウンスされる。


『ご利用ありがとうございます。当列車は本来通りの鈍行、つまり各駅停車となっており、行き先のみの変更です。あー、次の停車駅はー、えぐり出しー、えぐり出しー』


 未だ内側が煮えたぎる熔岩でできたかのような地獄行きの列車が、車輪から炎を噴き上げる。先頭車両の鬼の頭が咆哮し、ゆっくりと灼熱の黒が動き出す。

 窓の奥に一瞬、小人に集られ、もがいているようなシルエットが見えた気がしたが、列車は速度を上げ、地獄の炎の尾を引いて、やみ駅から発車した。駅の黒い靄が、ばいばい、とでも言うように少しだけ列車にまとわりついてから、ゆうらりと元のいた辺りへ戻り、変わらぬ様子で揺蕩う。

 暗く静かな、やみ駅が元の姿を取り戻した。

「いやー、やぁっと面倒ごとが片付きましたよ。ほんっとーに浮草くん呼んで正解でしたよー! ありがとうございます!」

「まあ、まだ「あっち」では続いてるけど……とりあえず今回はこれで良いか」

 管理人さんがペコペコ頭を下げる中、浮草は面倒くさそうな顔で列車の去った先を眺めていたが、不安げなあや香に気付くとパッと笑った。

「管理人さん、次の電車は?」

「ああ、そうですね。あの電車はやみ駅には停車できませんので、ここは管理人の権限でちょちょいと移動しちゃいましょうねえ」

「そうなんだ。やみ駅さん、大騒ぎしてごめんね」

 浮草が駅舎全体に向かって声をかけると、暗がりが揺らめき、明かりが明滅し、駅舎のどこかが変わった気がした。いつも通りの、やみ駅。まるで、気にしないで、とでも言っているようだ。あや香の胸に抱かれた赤ちゃんがキャッキャッと笑った。

 それに気を取られたあや香が顔を上げると、そこはやみ駅ではなかった。古い無人駅なのは同じだが、駅名を示す標識には「きさらぎ駅」と記されていた。

暇を持て余した現代怪異、最近の主な仕事は、わるいこを地獄へ各駅停車で送ること

引きも切らずにこの仕事の依頼がくるとのことですよ

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