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隠された鍵  作者: 東雲明
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第18話 鍵の影の囁き



心臓が、まるで胸を突き破る勢いで脈打つ。桜荘の居間は、闇と冷気が渦巻き、まるでこの建物が地獄の深淵そのもののように俺たちを飲み込もうとしている。割れた窓から吹き込む夜風は、怨霊の咆哮のように鋭く、剥がれたカーテンを幽鬼の爪で引き裂くように震わせる。床に散らばったガラス片は、遠くの街灯の光を反射し、まるで無数の目が俺を喰らうようにギラギラと光る。古びた木製のテーブルには、高梨のタロットカードが散乱し、「運命の輪」のカードが、さっきの占いの因果と転換の呪いを漂わせる。壁のひび割れは、まるで生き物の傷口が裂けるようにうねり、黒い液体が血のように噴き出す。ダクトから漏れる冷気は、俺の首筋を凍てつく刃で刺すようだ。金属の軋む音が、耳の奥で不気味に響き、まるで建物が死者の叫びを上げる。住人たちの息遣いは、恐怖で途切れ、闇の中で凍りつく。誰も動けず、誰もがこの建物の怨念を恐れている。俺もだ。


北村を犯人と疑ったが、高梨の占いが全てをひっくり返した。


「北村は犯人じゃない。奈津子の怨念に操られた駒。真犯人は別の影」。


*何!?* 俺の頭が、混乱で埋め尽くされる。*北村じゃねえ? じゃあ、誰だ?* 彩花の証言――七年前、桜荘の階段でナイフを持った北村と、姉・奈津子の声、「彼女を黙らせろ」。あのナイフの柄、俺の妹・葵を刺した凶器と同じ模様。全てが北村を指していた。だが、亮太も証拠不足で手詰まり。*真犯人を見つけなきゃ、葵は成仏できない。桜荘は崩れる*。十年前、雪深い山間の集落で、葵は血に染まって死んだ。胸に突き刺さったナイフ、犯人の冷酷な目、嘲るような笑い声。復讐のために東京へ来た。匿名のメモ、「犯人は東京にいる。桜荘を探せ」。それが俺をこの呪われたアパートに導いた。七年前、俺の部屋の真上で起きた未解決の殺人事件。被害者の名前も葵。*俺の葵と同じ*。奈津子の怨念が北村を操り、葵を殺した。だが、真犯人はまだ闇の中にいる。


佐藤が、ノートパソコンを叩きながら言う。


「悠真、#7年前の桜荘の事件って知ってる?に、ガチな反応が来た。匿名アカウント『ShadowWalker』がDMでコンタクトしてきた。近くのバーで会えるって。桜荘の事件、詳しく知ってるらしい」


*ShadowWalker?* 俺の心臓が、ざわつく。*そいつ、鍵を握ってるのか?* 佐藤の目は、闇の中で鋭く光る。*こいつ、頼りになる*。俺は拳を握りしめ、言う。


「佐藤、そいつに会おう。どんな情報でもいい。真犯人を見つけなきゃ、葵が…桜荘が…」


数時間後、俺と佐藤は、桜荘から数ブロック離れた薄暗いバー「黒猫」にいた。カウンターの奥、煙草の煙が漂う席に、ShadowWalkerと名乗る女が座っている。40代くらい、鋭い目、くすんだ革ジャン。彼女が、グラスを傾けながら低く言う。


「7年前、あの部屋でひどい事件が起こってねぇ。犯人はまだ捕まってないし、以来夜中に変な声とか現象が起こるって。この辺じゃ有名よ」


*変な声? 現象?* 俺の背筋が凍りつく。*葵の声…奈津子の怨念…* 彼女が続ける。 


「桜荘の管理人、奈津子って女、妙な噂があった。事件の前、誰かとコソコソ話してた。男の声だった。名前はわからねえけど、桜荘のオーナーと繋がってるって噂だ」


*オーナー?* 俺の頭が、ざわつく。*真犯人か!?* 佐藤が、スマホを手に質問する。


「その男、どんな特徴? 何か記録は?」 


女が笑う。


「記録? んなもん、奈津子の日記にでも書いてあるんじゃねえ? 管理人室の床下、隠し扉に隠してたって話だ」


突然、俺のスマホが震えた。佐藤のXアカウントに新たなリプライ。


「#7年前の桜荘の事件って知ってる? 奈津子の日記、暗号化されたメモと一緒に管理人室にある。オーナーの名前、隠されてるよ」。*暗号!?* 佐藤が囁く。


「悠真、このリプライ、別の匿名アカウントだ。フォロワーの中に、ガチで知ってる奴がいる。俺、DMで深掘りする」


*佐藤…すげえな*。俺は女に言う。


「奈津子の日記、確かめる。オーナーの名前、知ってるなら吐け」 女が肩をすくめる。


「知らねえよ。だが、桜荘、夜中に行くとヤバいぜ。気をつけな」


桜荘に戻ると、居間の空気がさらに重い。ダクトから吹き込む風が、血の匂いを帯びた怨嗟の咆哮に変わる。*ゴゴゴ…* 壁が、まるで生き物が咆哮するように震え、ひび割れから黒い液体が血のように噴き出す。床が、生き物の喉のようにうねり、俺たちの足元を飲み込もうとする。*何だ…この建物は!?* 佐藤のノートパソコンの画面が、突然、チカチカと点滅し、血のような赤いノイズが走る。


「くそっ、誰かが干渉してきてる! 怨念だ!」


佐藤の声が、焦りを帯びる。亮太の懐中電灯が、血のような赤い光に変わり、ガラス片を照らす。ガラス片が、まるで生き物のように震え、空中に浮き上がり、俺たちに向かって襲いかかる。*キイイ…* 鋭い音が、頭を劈く。俺は咄嗟に彩花を庇い、床に伏せる。ガラス片が、俺の腕を切り裂き、血が流れ出す。*くそっ…!*


その瞬間、ダクトから葵の声が響いた。


「悠真…真実を…つかめ…」


声が、まるで俺の心臓を直接握り潰す。*葵、お前なのか?* あの夜、葵が最後に呟いた言葉。「お兄ちゃん…助けて…」その声が、頭の中で暴れ回る。だが、すぐに別の声が割り込む。「悠真…知りすぎた…全員、黙らせてやる…」 低く、冷たい女の声。*奈津子だ*。俺の背筋が凍りつく。*お前…この建物を動かしてるのか?*


突然、佐藤のパソコンの画面が、真っ黒になり、血のような赤い文字が浮かび上がる。


「知りすぎた…黙れ…」


*何!?* 佐藤が叫ぶ。


「くそっ、怨念が俺のシステムをハックしてくる! でも、フォロワーから新情報! 奈津子の日記、管理人室の床下、隠し扉の奥。暗号化メモに、オーナーの名前が!」


*オーナー!* 俺の頭が、ざわつく。*真犯人か!?*


その瞬間、部屋の隅の古い鏡が、ガタガタと激しく揺れ始めた。誰も触れてねえ。鏡の表面に、女の影が映る。長い髪、血に染まった服。*七年前の葵*。だが、影が分裂する。一つは七年前の葵、もう一つは…*俺の葵*。二つの影が、俺をじっと見つめる。*何!?* 俺の喉が締め付けられ、声が出ねえ。彩花が叫ぶ。「やめて! 来ないで!」 彼女の声が、恐怖で震える。鏡の影が、突然、動き出す。*俺に向かってくる!* 影が、まるで実体を持ったように、俺の目の前まで迫る。*近い…近すぎる!* 俺の身体が、恐怖で凍りつく。


突然、鏡がバリンと爆発し、破片が部屋中に飛び散る。住人たちの悲鳴が響く。破片が、まるで意志を持ったように、空中で回転し、俺たちを切り裂こうとする。*キイイ…* 鋭い音が、頭を劈く。俺は咄嗟に亮太と彩花を庇い、床に伏せる。破片が、俺の背中を切り裂き、血が流れ出す。*くそっ…!* 壁が、まるで生き物の口のように裂け、黒い液体が噴き出す。床が、生き物の喉のようにうねり、黒い手のような影が無数に伸びてくる。*奈津子…お前だろ!?* 俺は必死に振り払うが、影の手が、まるで鎖のように俺の足を掴む。*離せ!*


高梨が、静かに新たなカードを引く。「審判」のカード。覚醒と真実の象徴。彼女が囁く。「悠真、佐藤の情報が、奈津子の怨念に挑んでる。管理人室の日記に、真犯人の名前がある。だが、急がないと、桜荘は崩れるよ」 *管理人室?* 俺の心臓が、凍りつく。*葵、真犯人を見つけなきゃ、お前は…*


突然、佐藤が叫ぶ。


「悠真! フォロワーから追加情報! オーナーの名前、暗号化メモに隠されてる! 奈津子が取引してた男、桜荘の裏で動いてた奴だ! 管理人室、急げ!」 *オーナー…真犯人か!?* だが、その瞬間、佐藤のパソコンが火花を散らし、画面が血のような赤に染まる。「知りすぎた…黙れ…」 奈津子の声が、パソコンから直接響く。*何!?* 佐藤が叫ぶ。


「くそっ、怨念が俺のシステムを妨害してくる! でも、負けねえ!」


突然、部屋の天井が、*ゴゴゴ…*と崩れるように軋み、黒い雫が血のように滴り落ちる。床が、まるで生き物の口のように開き、俺たちを飲み込もうとする。壁が、まるで怨霊の咆哮のように震え、ひび割れから黒い影が這い出してくる。*何!?* 影が、まるで実体を持ったように、俺たちに迫る。*葵…奈津子…真犯人?* 俺は叫ぶ。


「葵! 教えてくれ! 真犯人は誰だ!?」


ダクトから、葵の声が響く。


「悠真…真実を…つかめ…」


だが、奈津子の声が割り込む。 


「悠真…全員…黙らせてやる…」


声が、頭の中で交錯し、俺の視界が歪む。突然、部屋全体が、まるで地震のように揺れ、壁が崩れ落ちる。*桜荘が…崩れる!* 俺は亮太と彩花を掴み、叫ぶ。「佐藤、情報頼む! 俺たちは管理人室へ行く!」


桜荘の「訳あり」の真実は、今、鍵を開けられようとしてる。彩花の証言、高梨の占い、奈津子の怨念、佐藤のSNS。北村は犯人じゃない。真犯人は、桜荘のオーナーと繋がる影。超自然現象が、俺たちを地獄の底に引きずり込む。だが、俺と亮太、佐藤は、管理人室の日記と真犯人の正体を暴くために奔走する。その鍵が解き放つのは、葵の成仏か、それとも桜荘の崩壊と俺の心を飲み込む無限の絶望か――俺には、まだわからねえ。

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